第9話


 蒼風(あおかぜ)ハルトはガレージでロングソードを手に取り、順番待ちのベンチに向かった。

しかし、周囲と見てハルトの装備は――異なっているのは明らかだろう。

(そう言えば、他のプレイヤーはメットをしている。アレは――)

 ハルトの方もメットに関してはスタッフからも特に何も言われていないので、初回プレイでは関係ないと考えていた。

しかし、それ以上に気になったのは――ARスーツだろう。

「すみません。実は言い忘れた事がありまして――」

 ベンチに座ろうとしていたハルトの前に、姿を見せたのは――先ほどの男性スタッフだったのである。

これにはハルトも若干驚いていたのだが――彼の手には何かが握られていた。

右手にはスーツケースにも似たような大型のバッグを引っ張っているように見えるが――。

「そのお詫びとして、まずはこれを――渡しておこうと」

 手に持っていた物の正体はリストバンドなのだが、何やら機械的なイメージがあるのに加え――。

ハルトがバンドを左腕に装着すると――何やらバンドが青く発光し始める。どうやら、こちらにも太陽光システムが組み込まれているようだ。

「これは――?」

「レンタルアイテムですが、ARスーツの代用品です。コスプレイヤーの方でこれを装着してプレイする人もいますので――」

 装着した後で説明を受けるのもあれなのだが、どうやらARスーツの代わりとなるアイテムらしい。

「スーツに関しては購入必須なもので、それに関して説明不足だったのもひとつですが――」

 時間がないような雰囲気で、スタッフはスーツケースのロックを解除し、開封するのだが――底に入っていたのはメットだった。

おそらく、これがARメットと言うべきか?

(あのプレイヤーは……初心者か?)

(むしろ、ここがARゲームメインと知らないだけでは?)

(スタッフもいる以上、何かあったのだろう。彼だけ特別扱いするのは気の毒だ)

 周囲のプレイヤーは何かあったのには気づいているようだが、敢えて言及はしない。

その発言がもとでSNSが炎上し、事件に発展しては自分達の居場所を失う事を意味しているからだ。


 

 向こうのプレイは二曲目が終わってリザルト画面に突入している。しかし、ハルトは画面の表示に何か違和感を感じていた。

(もしかして――二曲設定か?)

 ゲーセンに設置されているリズムゲームでは、一〇〇円一クレジットのプレイで大体三曲プレイ可能だ。

稀に四曲設定もあったりするが、これが相当なレアケースと言えるだろう。

しかし、リズムドライバーは二曲設定だったのである。厳密には空いた台が二曲設定台――なのかもしれない。

《二曲設定台》

 実際、筺体に貼られたポップには二曲設定と書かれていた。標準設定が何曲なのかで印象も変わるが――。

「急がないと――せっかくの整理券がキャンセルされてしまいますので」

 男性スタッフがハルトに手渡した者、それはARメットだったのだが――形状が周囲のプレイターが装着している物と違う。

むしろ、このメットだけが試作型――もしくはレンタル用と言えなくもない。あのスーツケースの形状を考えると特注品の可能性だってある。

「これを被る訳ですよね――」

「そのARメットがなければ、ゲーム画面を見る事が出来なくなりますので」

 スタッフが意味ありげな発言をするが、その真意をただす事無く――ハルトはARメットをそのまま被る。

感覚としてはバイクのメットと変わりがないというか――違うのは、周囲に見える光景だろう。

(これが――ARゲームの世界?)

 ハルトはどちらかと言うとリズムゲーム以外のジャンルには興味がないというか――そんな気配である。

その彼にとって、ARゲームの世界は未知の世界と言っても過言ではない。

オケアノスがARゲームをメインとしているのも――プレイ後で知った事実なのだから。

《まもなく、リズムドライバーの予約キャンセルに移行します。プレイされる場合は、指定場所に向かってください》

 指定場所と言うのは、右上に見える三という数字の筺体だろうが――キャンセルとはどういう事か?

スタッフの言っていたキャンセルとは、こう言う事だったらしい。みなし予約等のマナーの悪いプレイヤー対策とはいえ、これはやり過ぎな気配がする。



 三番の筺体の前に立ったハルトだが、キャンセルに関してストップになっただけで特にモニターにも動きがない。

《クレジットを投下してください》

 モニターに表示されているメッセージは分かるが、何処にもコイン挿入口がない。

これでは一〇〇円も入れられないのでは――と思ったら、このゲームが電子マネー専用である理由がようやく分かった。

(こう言う事なのか――)

 目の前のモニター筺体にガジェットをタッチする場所があり、そこへタッチする事でARガジェットが認証された。

ガジェット自体はリストバンドに接続する短資らしきものもあったので、そこへガジェットを固定する。

(左に付けていたが、これは聞き腕に付けた方が正しいのか?)

 ハルトはふと思うのだが、右手にはロングソード型ガジェットを持っている。

さすがに両方とも右に集中させると――負担が大きくなりそうな気配がしていた。

(むしろ、このガジェットは重くない。バランス的な意味でも、右に集中させるのはまずいか)

 ロングソードが重ければ、片方に重量を集中させてプレイする事も可能かもしれないが、他のプレイヤーが容易に振り回しやすかったという事は――そう言う事だろう。

女性プレイヤーにも使いやすいように重量は一キロ以下にしている可能性がありそうな一方で、重量はオプションで変える事が可能かもしれないと割り切った。


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