第8話
目の前のガレージ、それはバイクゲーム系のARゲームとは違う光景だったのは間違いない。
まるで、FPSの武器倉庫というイメージが手っ取り早い物だったのである。リズムゲームであれば、普通は楽器店とかそうした類ではないのか――。
(遠目でチェックしていて思ったが、まさか――)
蒼風(あおかぜ)ハルトも目の前の光景を改めてチェックして、驚くのは無理もない。
これが本当にリズムゲームと呼べるものなのか――と言う部分もあるのだが。
《ロングソード》
《ハンドブラスター》
《パワードナックル》
最初に機になったのは、この三つだった。近接専用なロングソードとパワードナックル、使用率が比較的に高いハンドブラスターである。
剣の二刀流は可能であり、特に反則とはならないが――ガジェットはひとつあれば充分なのではないか、と考えた。
ガジェットの解説を見ても、リズムゲームの事はほとんど触れていない徹底っぷりに別の意味で感心してしまう。
(どれを使ってもプレイに影響がないとしたら――)
ハルトは、特にプレイやスコアにも影響がないとすれば――このガジェットを使った方が良いと考え始める。
そのガジェットとは、最初に手に取ったロングソードだった。ソードの方は、デザインが若干派手な武器に見えるのだが――。
(しかし、ゲーム中ではもう少し長いように見えたが――)
自分が持っているのは、三〇センチちょっと位の長さであり、ゲーム中で振り回していた五〇センチ辺りや、プレイ動画であった一メートルオーバーの物とも異なる。
しかし、これはあくまでもARゲームなので実際の手持ちが小さくてもCGで大型化したような演出が――と割り切った。
リズムドライバー、実はあるゲームプロジェクトの一つとして開発されていたゲームなのである。
そのプロジェクトとは、過去に草加市が立ち上げた『リアルゲームプロジェクト』と呼ばれる物。オケアノスはその副産物と言える物でもあった。
どの時代でもプロジェクトを悪用しようとする勢力は尽きない。実際、芸能事務所が自分達の所属アイドルをゴリ押しで宣伝するような――超有名アイドル商法を強行した為である。
プロジェクトのプレス向け発表が『2.5次元舞台や聖地巡礼、その他のコンテンツを流通する為の計画』とされていたのも――理由の一つと当時の週刊誌で語られていた。
『我々の計画は、かませ犬以下の芸能事務所に――悪用されるような物ではない』
そうした発言があったのかは不明だが、該当する芸能事務所はプロジェクトの真相を知る事無く廃業に追い詰められ――アイドル達は黒歴史として闇の中に消えていく。
実際のプロジェクトの正体は、何と『リズムゲームを題材としたゲームで世界を征服しよう』と言うキッズ系ホビーアニメでよくあるような物だった。
つまり、芸能事務所は見事にプロジェクトを内外へアピールする為の広告塔にされてしまったのである。逆に言えば、自分達がやっていた事を意趣返しされたと言うべきか。
【よく出来たフィクションだ】
【WEB小説としてはB級と言うべきか?】
【これが事実とは信じられない】
ネット上で拡散した様々なつぶやきが拡散し、プロジェクトが独り歩きした――と言うストーリーにされた結果、『リアルゲームプロジェクト』は計画中止が告知される事無く自然消滅する。
その際に開発されたゲームはそのまま数作品がリリースされ、専用施設であったオケアノスもいくつかの拠点がオープンしたのは――この一連の事件が沈静化してからだったと言う。
『これをゲームと割り切るか? それもよかろう――』
『しかし、お前達は自分達がやっていた事を――こうしてブーメランとして跳ね返ってくる現実に、衝撃を受けるはずだ』
『忘れるな。我々は――』
ネット上では謎の動画とも受け取れるような物が複数存在し、それらのいくつかは未だに削除されず拡散されている。
その巻かに登場した人物は、あるFPSゲームに似たような外見のパワードスーツが存在していたような――。
先ほどまでプレイしていたマントの人物のプレイが終わり、次の人物がプレイを始めようと準備を開始する。
あの人物のプレイが終われば、次はハルトの出番でもあるのだが――まだ彼はソード系ガジェットを使うのを決めたのみで、準備が出来ていない。
『これが――あのゲームと同じ? 違うな――プレイ感覚はまるで別物だ』
渋めの男声――メットをした人物は、センターモニターの前に立って整理券を発行する。
このゲームでは、いわゆる連続プレイの類は出来ないようになっていた。連コインの様なマナー問題になる類のプレイを防ぐ為だろう。
『しかし、これが例のプロジェクトで進めようとしていた物と思うと――なかなか悪くない』
この声は、動画サイトでも拡散されている人物の声と同じである。おそらく、ボイスチェンジャーなのだろう。
実際、その声優がゲームをプレイする訳でもない――と言う気配なのだが。
『我々は――あの日を忘れない。コンテンツ流通を再認識させる事になった、あの事件を――』
この人物の言うあの事件が、一連の超有名アイドル商法を巡る者と言うのは容易に想像出来るが――。
しばらくして、この人物は――待機用のベンチへと向かい、着席してプレイ順番を待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます