第7話
蒼風(あおかぜ)ハルトが立っている場所――その目の前には電子マネーのチャージする機械があった。
形状は両替機とは異なり、紙幣の挿入口しかない。液晶モニター部分には――。
《一〇〇〇円》
《三〇〇〇円》
《指定金額》
以上の三種類のボタンがあり、電子マネー購入を止める場合はキャンセルボタンを押す仕組みらしい。
チャージする必要性を感じ、既に箱から取り出していたタブレット端末を指定されたタッチ部分に接触させる。
金額を示すボタンの上には現在のチャージされているマネーが表示されており、本来であれば未チャージ状態で〇円が表示されるはずが――。
「五〇〇円?」
自分は一〇〇〇円を払ってタブレットを購入したはずなのだが、何故か――五〇〇円の表示に驚いた。
コンビニの電子マネーカードでも、いくらかのチャージが既にされている状態と言うのはあるのだが――。
「五〇〇円はキャンペーン期間中の購入ですので、サービスしております。数量限定ですが――」
どうやら、数量限定のキャンペーンらしい。公式ホームページにもARガジェット購入キャンペーンの記載はあったが――。
(五〇〇円なら――)
リズムドライバーのプレイは二〇〇円だったはず――これならば、一応の問題はないだろう。
どちらにしても、彼のやる事はリズムドライバーのスペースへ戻るだけだ。揃える物が揃った以上、プレイできない事はない――はず。
しかし、エリア内では走ってはいけないので、歩いて該当スペースへ向かったのだが――少し遅かったらしい。
整備中の一台も稼働しているが、満席である。整理券に関してもセンターモニターで発行してもらったが――。
《整理券を発行しました。順番が来た際は、早めに筺体へ御戻りください。キャンセルされる場合があります》
整理券番号を見ると、三番と書かれている。既に満席で待機二名と言った所だろうか――。
実際、待機用のベンチに座っているのは一人だが――別の一人は例のガレージで使用するガジェットを見定めているように見えた。
ベンチに座っているプレイヤーとは視線を合わせないようにするが、向こうが逆に合わせていないのかもしれない。
見た目は明らかに不審者なイメージだが――オケアノスの施設内ではコスプレも認められているので、衣装に文句を言うのは――さすがにトラブルとなるので、止めることにした。
(他の人のプレイを見るのも、勉強になるか――)
リズムゲームの場合、他の人のプレイは対戦格闘やアクション系と違って、参考になりやすい。
プレイヤーの数だけプレイの癖や攻略法、パターンなどが異なる為である。この辺りは研究されやすいゲームとは違うと言うべきか。
さすがにアドベンチャーゲーム系はARゲーム化されていないので、それを踏まえると簡単に攻略されやすいジャンルはARゲームには向かないと言う事かもしれない。
ハルトの見学している台は三番台――左から三番目に設置されている台だが、そのプレイヤーはARメットで素顔を隠しているので――誰なのかは分からなかった。
一番台のプレイヤーはメットを装着しておらず、素顔のままでプレイしているが――メットに関してはオプションやカスタマイズでどうにかできるという事なのだろうか?
使用しているガジェットは剣なのだが、両手に持っている為――二刀流のプレイスタイルなのだろう。
(そう言えば、ARグラスモードをオンにすれば――)
ハルトは説明書のモード設定に書かれていた説明を思いだし、若干手さぐりになりつつもARグラスモードをオンにした。
すると、ハルトの目の前の光景は一変したのである。それは――あの動画で見た時と同じ光景と断言してもいい。
目の前の光景、ゲーム画面のモニターは特に変化がないのだが――大きく変化していたのはプレイヤーである。
プレイヤーの姿は、ボロボロのマントにデュアルアイのSFチックなメット、更には持っている剣もビーム刃で一メートルはあるだろうか?
あれだけ大きな剣を容易に振り回す姿は――CG画像と分からなければ、ツッコミが入ってもおかしくはないだろう。
目の前の人物は、迫ってくるターゲットを判定ラインすれずれで剣を振り回し――次々と真っ二つにしていく。
ただし、この人物は判定を無視して『接近しているターゲットを攻撃している』感覚なので、どちらかと言うとアクションゲームの感覚でプレイしている可能性は高い。
その為なのか、プレイ結果は散々な物と言ってもいいだろう。スコアは平均的なのだが――判定やコンボと言った部分は、見るまでもない程にひどい有様だ。
これが別のリズムゲームだったら演奏失敗で即ゲームオーバーな機種だってある。それを踏まえると、ざっくりなプレイでも問題ないという事なのだろうか?
他人のプレイにツッコミを入れるのは野暮だろう。それを踏まえて、第三者の目線で評価すれば――この人物のプレイでは、リズムゲームのプレイヤーとしては初心者と言える。
(そう言えば、ガジェットの選択をしなくては――)
ハルトは思いだしたかのようにセンターモニターの隣に設置されたガレージへと向かった。
そして、彼はそこで自分が本当は別ジャンルのゲームをプレイしているのではないか――と感じ始める。
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