15秒ボタン
以前、ファミレスの隣のテーブルで学生らしき二人組が話しているのを耳にした時の話である。
「先輩、仮にこのボタンを押せば1万円貰える、としたら押しますか?」
テーブル中央にあるのは、店員呼び出し用のボタン。
「そりゃ勿論」
「但し、このボタンを押すと人が死ぬ、という仮定があります」
「誰が死ぬんだ」
「あと15秒で死ぬ人間です」
「ほう」
先輩と呼ばれた男は箸を止め、興味深そうに後輩を見る。
「つまり、誰かの最期の15秒を犠牲に1万円を得る」
「そういうことです。もうすぐ死んでしまう誰かさんの15秒です」
「なるほどね。たったの15秒。でもその短い15秒で、家族に感謝を伝えるかもしれないし、大切な人に最後の愛の言葉を囁くかもしれない。そんな貴重な時間を1万円の為に奪ってしまうかもしれないだなんて、非常に胸糞悪いボタンだな」
そう言い切って、彼はボタンを押した。
あの時『先輩』がボタンを押したのは、単にデザートのパフェを頼みたかっただけなのか、胸糞悪いボタンだろうと押すと示したかったのか、あるいは両方なのか、未だに分からずにいる。
追加注文の為にボタンを押そうとするたび、この事が頭をよぎり、私は一瞬ためらってしまう。
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