他人の不幸は蜜の味

 どうも私の体質は特殊で、他人の不幸話を聞くと体内でブドウ糖を生成する。葉緑体が光の刺激で二酸化炭素から糖を生成するのと大体同じ仕組みだが、私の場合は他人の不幸話を聞くのを耳にした時に出るホルモンを引き金にして反応が起こる。

 何故こんなに詳しいのかと言うと子供の頃に研究されて医学論文を書かれたからだ。とは言え、実験で酷い扱いを受けるとかは無く、ただ不幸話を聞くだけだったので、口の中に甘味が広がった幼い私は大満足であった。

 それに話を聞くだけで糖が出来るとなれば、食料問題も大解決だ。実際、私自身たまに不幸話で満腹になり飯を抜く。最近、遂に私の体質を得るための人体実験が成功したらしく、世界から飢餓が消える日も近いかもしれない。

 しかし先日、子供の時から世話になっている医者の元へ定期検査に行った時に「君は糖尿病だ、今後は甘い物と不幸話を聞くのを控えた方がいい」と言われてしまった。ここ最近、他人の不幸を摂取し過ぎていた自覚はあるが、まさかそれで病気になるのは予想外だった。もう不幸話を沢山聞けないのかと苦い顔をしていたら、私を見る医者はまるで口の中に甘味が広がったかの様にニヤリとした笑みを浮かべていた。

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