枕は濡らさない

 ある山の麓に、子供二人ありて遊びけるを、年経ておとなになりければ、男も女もかたみに恥ぢかはして、会はずなりにけり。

 されど、女ひそかに男を思ひ慕ひ、この男と逢はむ結婚したいと思ふも、親にさへ言はざりければ、誰も知らず。

 ある時、男、都に行きし時、他の女をば垣間見て浮き立ち、いみじく慕ひけり。やがてこの女の家に通ひ出づること、麓の女も聞きけり。

 女、いと心憂く思へど、この心ゆめゆめ絶対に人に知られまじ、枕はゆめゆめ濡らすまじ、と固く誓ひけり。

 夜になりて寝る前に月見れば、いみじう心苦しくなれど、女の枕、マイクロファイバーの超吸水性ポリマー繊維のポリエステルにて作られた枕カバーを用いている故、泣けども泣けども、枕の濡れることなし。

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