抜け落ちる記憶

 何故だ。

 何故覚えていられないのだろう。

 彼は悩んでいた。

 繰り返されるループの中で、彼は幾度となく気付く。タイムリミットが近づいていることに。枯渇する時が近いことに。

 そして幾度となく後悔するのだ。何故今までに手を打たなかったのか。何故こんな大事なことを忘れていたのか。

 しかし幾度となく忘れてしまう。しばらくすれば、記憶のどこにも引っかかることなく綺麗さっぱりと。先刻まで悩んでいたのが嘘のように。

 毎日毎日、この繰り返し。毎晩毎晩、後悔と忘却を繰り返す。

 降り注ぐシャワーの湯を頭から浴びながら、彼は必死に考えていた。どうすれば忘れないのか。どうすれば覚えていられるのか。

 今までは誤魔化し誤魔化しでどうにか対応できてきた。でも、それもそろそろ限界だ。持ってあと二、三回といったところだろう。いい加減、行動しないとまずい。

 そのためには。

 今回こそ。

 今回こそ忘れない。

 彼は強く誓う。

 しかし、きっと浴室を出る頃には残り僅かなシャンプーのことなどすっかり忘れ、彼は明日も詰め替え用シャンプーを買いそびれるだろう。

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