終章 女装潜入、続行
ほんの僅かな休暇タイム
翌日、アインソフオウル学園で起こったことはマルクト王国内で大スクープとなった。
あの《ゴースト》が大々的に現れ、あろうことか学園内の教師に化けていたということ。そして魔人たちを呼び出し、生徒達に危害を加えていたということを。
それだけでなく学園内の施設を破壊し、備品を奪うなどの極悪非道な手段を取っていたということも。細々とした内容までもが記載され、そして《ゴースト》の身体的特徴までもが具体的に記載されていた。
「『人的被害は行方不明者二名との報告。現在も行方は探しているが、生存は困難であると判断されている。今後、《ゴースト》に対応するため、《国境なき騎士団》の警備を一層高めて行くと共に、《ゴースト》の速やかな確保を試みるとのこと』だそうだ。今回はド派手にやらかしたな、お前さんよ」
「いや待て今回は俺悪くねぇだろ!? かなり譲歩してもうまくやったと思うけど!? なんでまたこんなことになっているんだよ!?」
ほとぼりが冷め、すぐさま辺鄙な地にある別荘地、つまるところシルファのアジトに帰宅すると、満面の笑みで待ち構えているカリアの姿を目にする。
その姿を見て、すぐさま理解する。あ、これ絶対キレてるやつだ、と。
逃げる暇もなく捕縛の魔術、それもシルファの苦手な白の魔術で施された奴で両手両足を締め上げられ、部屋の中央に転がされる。カリアの魔素はそれこそ高く、シルファとて簡単に相殺できるものではないため、諦めて転がるしかないのだ。
そんなシルファに対し、カリアはあからさまにため息を吐いて足を組む。その仕草だけでも艶めかしいはずなのだが、今は異様に女王様のような威圧感が生じる。
「別にお前さんはよくやったと思うさ。禁呪書も回収したし、あそこで面が割れるのも仕方ないしね。だからあそこで私一人を残すのも、仕方ないものだよねぇ?」
「……まさか、学園内に置いていってこと、根に持っている?」
「はっはっはっ。まさかそんな。私はそこまでお子様ではないぞ?」
「目が笑ってねぇから! どう考えてもそこしかキレるポイント見当たらねぇぞオイ!?」
口元で笑みを作るも、完全に目が座っているカリアを目にし、焦るシルファ。しかし逃げることも出来ないシルファは、ひたすら責め苦に耐えるしか手段はない。目が笑っていないカリアは続けながら頬杖をつく。
「まぁあの後、私が何とかして生徒達から逃げきったのだけどね。私が! 一人で! あの数から! 逃げたのだけどね!」
「悪かった悪かった! そのことに関しては俺の責任でこのとーりだから機嫌直してくれ!」
自分の非だと認め、シルファは首を垂れる。ひねくれ者のカリアを宥めるのは困難だが、誠実さが大事。シルファとてそのことには流石に悪いと思っているからこそ、すぐに謝罪する。
すると隣部屋から大あくびをしながら入ってくる人が視界に入る。作業着をだらしなく着こなし、髪の毛がいくらか跳ねている女性。カリアのサポート役と言っても過言ではないアカネである。
「ふぁ、おはようカリアちゃん……ってあれ? シルファ? おかえりー。久しぶりの帰りだねー」
「あ、ただいまです、アカネさん」
「それにしても、どしたのその恰好? まーたカリアちゃんを怒らせたの?」
「割と不可解ですがそんなところですね。いやまぁ、今回のは流石に不可抗力ってのもあるんですがね!」
「ダメだよー、シルファ。カリアちゃんはずっとシルファのこと心配してたんだから。ちゃんとカリアちゃんのことも考えてあげなきゃ」
久しぶりに会ったアカネもカリアの肩を持つ。これにはぐうの音も出ないほど反論が出来ず、押し黙るほかない。
カリアがそっぽを向いている中、アカネがカリアの新聞紙を横見で見やる。その内容を解読し、「うひゃー」と口に手を当てて声を上げた。
「これはまた盛大にやっちゃったね……《国境なき騎士団》が全面的に出てきちゃうっぽいし、もうこの姿だとマルクトどころか他の国でもマズそうじゃないかな?」
「とは言っても俺の姿があそこでバレるのは仕方ないことだ。それに教師に化けてはいなかったがそれを学園側が聞き入れてくれるはずもないしさ」
「まぁ、それでも禁呪書だけは回収できたのは素晴らしいことだけどね!」
アカネがニカっと明るい笑みをして書棚の方へと向く。そこには前は一冊しか置かれていなかった段に、二冊の本が追加されていた。
そう、二冊だ。初め、ローゼンから回収した一冊が禁呪書が目的の禁呪書だと思っていたがそうではなかったのだ。
一冊だけでは内容が全く解読できない書物。全く魔術とは無縁のような書物だったが、それこそがからくりであった。
二冊であってこそ一冊の書物となる、ということに。
シルファが学園内で発見した謎の書物。そしてダアトから見つけ出した書物。この二冊を合わせて読むことで、禁呪書の内容が判明するよう暗号化されていたのだ。
カリアも想定していない技法に、この暗号化は誰がやったのかと疑問は募るものの、結果として禁呪書は手に入った。ならば問題ないということで、一端考えることは保留となった。
「それにもう一つの任務だって無事にこなした。依頼主からもクレームは来てないだろ?」
「ん? まぁ、確かにな。むしろ謝礼として報酬金をくれたくらいだ。全く、旧友ならばそのくらい構わないというのに……」
ぶつくさと文句を言いつつも、その口元には先ほどとは違って朗らかな笑みが。何やらご満悦な様子だが、指摘したらまた激怒されるからスルーすることに。
少し機嫌が戻ったであろうことを悟り、そろそろ切り出すべき頃だろうと見上げる。さっさと魔術を解けということを。
「んで、もういいか? 早く魔術を解いて欲しいんだけど……」
「おぉそうだったな。ただそれよりも一つ先に言っておかないといけないことがあってな。次の任務に関することだが……」
げんなりとした様子でシルファが問いかけると、カリアは思い出したかのようにポンと手の平に拳を叩く。おもむろに腰を上げ、伸びをして体の調子を整える。
その仕草、そして浮き浮きとした邪悪な笑みで察し、シルファは青ざめる。これは絶対、また嫌な予感がすると。
そしてその予感は、見事的中することになる――
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