23.王様の条件
「――スズ様は、他の治癒能力者の方々とは違いますわ。身体強化も移動能力も所持している、強い能力者だとわたくしは思います!」
王様を目の前にしているっていうのに、エリスちゃんはかなり強い口調だった。
エ、エリスちゃん、何かキャラが違わない……?
それに、あんな風に王様に意見しても大丈夫なんだろうか。こんな状況だけど、心配でハラハラしてしまう。
けれど、王様は気分を悪くした様子もなく、穏やかな表情のまま首をかしげた。
「そうですね。しかし、それがどうかしましたか?」
「……スズ様は、自分の身は自分で守れる方だと思います。それに高いレベルの能力者は貴重です。王宮に閉じ込めておくなんて勿体ないと思いませんか? わたくしは反対ですわ!」
エリスちゃんの言葉に、目を見開いて驚いた。
……もしかしてエリスちゃん、私を庇ってくれているんだろうか。
「しかしこの様子を見ると、今すぐに彼女を自由にしたら、すぐにこの王国から逃げ出してしまいますよ」
「陛下。それは違いますわ。スズ様は、このように囚われるのが嫌で、この王国から逃げ出したがっているのです。捕まえるつもりがないのなら、きっとこの王国にいてくださいますわ。どの国に逃げても、治癒能力者だと知られれば捕えられるリスクはありますから。ねぇスズ様、そうでしょう?」
「へっ!?」
突然話を振られて、声が裏返ってしまった。
……私、解放されたら速攻でこの王国を出ようと思っていたんだけどなぁ。
でも、さすがにこのタイミングで出ていくとは言えない。監禁が決定してしまう。
「もちろん、自由にさせてくれるなら、喜んでこの王国にいますよっ! 他の国でびくびくしながら暮らすのは嫌ですからっ!」
拘束された身体で床を転がりながら、勢い込んでそう言う。
でも、たしかにエリスちゃんの言う通り、他の国に逃げたとしても、常に捕まるリスクは付きまとう。もしこの王国が、本当に自由にさせてくれるなら、この王国にいてもいいかもしれない。
本当に自由にさせてくれるなら、だけど。
「お聞きになりましたか、陛下。どうか今一度、ご検討を。このまま捕えた場合の方が、スズ様が隙を見て逃げる確率は高いと思いますわ」
その言葉に、王様は手を顎に添えて、考えるようなしぐさをしている。
心の中で事態が好転するように祈りながら、二人の様子を床に転がったまま眺めていた。
「……驚きました。あなたはたった数日で、精霊にも侍女にも、ずいぶんと好かれたのですね」
突然、王様にそう声をかけられて、顔を上げる。
王様は私を見て、微笑んでいた。
「やはりそうさせる何かが、あなたにはあるのでしょうね。エリスの言うとおりです。あなたを王宮に閉じ込めるのはやめましょう」
「ほ、本当ですかっ!?」
「はい。本来なら治癒能力者というだけで、手厚く保護させて頂くのですが、私はあなただけには嫌われたくありませんし、酷いこともしたくありませんからね」
うれしそうに微笑みながら、王様はそう言った。
……どこからつっこんでいいのか分からないが、気が変わるといけないので、スルーして首を縦に振りまくった。
「もったいないお言葉をありがとうございます! 鈴木桜、精一杯、王国のために働きますのでっ!」
「ふふ、よい心がけですね。期待していますよ。当然、いくつか条件は出しますが、それを呑んでいただけるなら、王宮に閉じ込めるのはやめますからね」
「……え、条件?」
条件があるのかよ。
喜んで損した。この腹黒そうな王様がマトモな条件を出す気がしないんですけど……。
つい疑いの目で王様を見てしまうが、王様はニコニコと笑みを絶やさない。なぜだか分からないが、ずいぶん機嫌が良さそうだ。
「……条件って、何ですか?」
「そんなに警戒しないでください。大したものではありませんよ。条件は二つあります。まず一つ目、私の臣下になってください」
「し、しんかって何ですか?」
「王国の騎士のことですよ。今、七人いますから、あなたで八人目になります。騎士になれば多少なりとも他国へのけん制になりますからね」
騎士、と言われて眉をひそめる。
「……まさかとは思いますけど、エルマー様やモーガン様みたいな方のことじゃないですよね?」
「ああ、知っているなら話は早いですね。その通りです。あなたには、彼らと同じ騎士になって頂きます」
「ちょ、ちょっと待ってください! 騎士は強くないとなれないってエルマー様が言ってましたけど!?」
「あなたも十分強いでしょう。モーガンとの戦闘を少し見ていましたが、最後の攻撃はいい手でした。たしかに戦闘向きの能力ではありませんが、あなたならもっと強くなりますよ」
王様はそう言って美しく微笑んだ。
……いやいやいや! 私、エルマー様とモーガン様に襲われたとき、全く歯が立たなかったんだけど? あんなバケモノみたいな人たちと同列になる自信なんて全くないよ!
だけどこの条件をのまないと、自由にはなれない。どうなろうとも監禁されるよりはマシだ。
「うう……嫌ですけど、分かりました……。身の丈に全く合いませんが、私でよければ、お受けします……」
そう言うと、王様は嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。では二つ目の条件です。強い直属の部下をつけてください。あなたの存在は王国民に発表しますから、部下の募集をかけましょう。ふふ、きっと人気者になりますね」
「えっ、ちょっと待ってください! 王国民に発表!? 目立ちたくないので、黙っていてほしいんですけど!」
立て続けにとんでもないことを言われて、慌ててそう言う。
すると、王様は首をかしげた。
「スラムであれだけ派手に目立っておいて、今さら何を言っているのですか。もうあなたの存在は隠しておけませんよ。隠している方が、王国民に不信感を与えてしまいます」
「で、でも、さすがに全国民に伝えたら、どこかから国外に漏れませんか?」
「国外にも、もう漏れていますよ。ヴィラ―ロッドには、諜報員が多いですからね」
「諜報員……?」
なじみのない言葉に首をかしげる。
諜報員って、アクション映画とかによく出てくるスパイみたいな人のことだろうか。
「隣国のサリエニティ共和国と、さらに向こうのプレジュ王国の諜報員が、王宮の治癒能力者を狙って、この国に潜んでいるんですよ。国同士で貿易もしていますから、防ぎようがなくて困っています」
「えっ、この国に他国のスパイがごろごろいるってことですか!?」
「さすがに大勢はいないとは思いますが、特定ができないのです。このような頼りない王で申し訳ありません」
王様が困ったような表情で、頭を下げたので、慌てて首をふる。
「いえ、とんでもないです! ご立派な王様です!」
「ふふ、ありがとうございます。王宮の外は治癒能力者にとって危険な場所だと、分かっていただけましたか? 王宮内にいれば私が守れますが、私にも仕事があるのでずっとそばにいるわけにはいかないのです。そのためにあなたに部下をつけるのですよ」
そう言われて、おずおずとうなずいた。
「うう……分かりました。部下をつけてください……」
「分かっていただけてよかったです。では、あなたと他の騎士が面接をして、選んだ人間を部下にしてください。申し訳ありませんが、部下が決まるまでは、王宮から出ることは禁止させていただきます」
「はい……」
……まあ強い監視役をつけられるのも仕方ないか。
条件はこの二つ。騎士にもなりたくないし、部下をつけられるのも嫌だけど、監禁されることと秤にかけたら甘い条件でほっとする。
「――ああ、そうだ。忘れていました。もう一つ条件があります」
だけど、思い出したように、王様にそう言われて、身構える。
ええ、まだあるの……二つって言ったじゃん……。
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