6.ボーナスステージ
「だめだ……全然見つかんない……見つかる気もしないよ……」
色とりどりの花木に囲まれている大自然の中、ゼェゼェと息を切らしながら呟いた。
バロンにこのボーナスステージの説明をされたときは、もしかしたら十匹ぐらい捕まえちゃうかも、なんて思ってたのに。まさかここまで難易度が高いとは思わなかった。なにしろ、捕まえるどころかバロンの姿さえ見つけられないのだ。
「……別に怪しい能力なんて、いらないんだけど」
……でも、ここまで見つけられないのは、ちょっと悔しい。
だって、何か無理難題を押し付けられて遊ばれてる気分なんだもん。たとえ触れるのが無理だとしても、姿だけでも見つけてやりたいよ。
ヘンなところで負けず嫌いを発揮した私は、バロンを探すべく再び大自然の中をあてもなく歩きはじめた。
『スズ~まだぼくが見つからないの~? 残り三十分だよ~』
突然、広い自然の中にバロンの楽しそうな声が響いた。
どうやっているのかは知らないが、残り時刻はこうやって定期的に知らせてくれるらしい。さすがダンジョンの管理者。何でもアリだし腹立つ。とりあえず無視しよう。
しばらく綺麗な草原を歩いていると、やがて前方に鬱蒼と茂る森が見えてきた。
うーん、見るからに怪しい。薄暗いし何か出そう。どうしようか少し悩んだけど、その森の中へ入ることにした。もしかしたらあそこにもバロンが何体かいるかもしれない。
鬱蒼とした森の中に生えている雑草はとても長くて、私の腰まで届いている。それをかき分けながら、少しずつ森を進んでいく。
「くそ~雑草が擦れて膝が痛い~。チクチクする~」
予想以上に道は過酷で、入らなきゃよかったとすぐに後悔した。草木をかき分けながら、能力についてバロンに言われたことを思い出す。
そういえば、バロンは私が手に入れた移動能力で空を飛べると言っていたっけ。
不思議なことに、能力の使い方は何となく理解している。ダメ元で試してみるか、と神経を集中させ、空間移動をイメージした。
「とりゃっ!」
声と共に、一瞬身体が軽くなる。
次の瞬間、私は空中に移動していた。
「やった! できた……っ、って、うわあああああっ!」
だけどすぐに落下して、私の身体は再び長い雑草の中に沈んだ。
……なるほど。重力には勝てないのね。空を飛ぶには断続的に瞬間移動を続けないといけないのか……。
私は土で汚れたお尻を払って立ち上がる。
もう一度集中して、今度は空間を移動し続けてみた。私の身体は消えたり現れたりを繰り返してどんどん高くへ上っていく。
「すごい。超能力者みたい!」
思わずつぶやいた。
大体最大十メートル先ぐらいまでなら、瞬間移動できるみたいだ。もっと高いレベルなら移動距離も長いんだろうけど、私にはこれで十分に思えた。
とにかくこれで高い場所も探せる。
私は森の大きな木の幹の中や、苔の生えた大きな岩の上などに行き、バロンの姿を探した。
しかし、それでも一向にバロンは見つからない。
「うあ~見つかんないよ……」
ひとりごちながら、どんどん森の奥へ進んでいく。
そうしているうちに、いつの間にか最深部まで来てしまったらしい。前方に透き通るように青い小さな泉を見つけて、地面に降りた。
『スズ~まだあ~? 残り十五分で~す!』
のんきな声がまた聞こえてきて、イラっとしつつも、また無視をして泉に近づいた。
薄暗い森の中にあるというのに、その泉は宝石のようにきらきらと輝いていた。
思わず泉の前にしゃがんで泉に手を触れてみる。
その瞬間、手にバチッと強い静電気のような衝撃が走った。途端に泉が金色に光りはじめて、水面から大きな影がゆっくりと現れる。
「……え、なに?」
やがて現れた黒い影が実体になっていく。
それは体長十メートルはありそうな巨獣だった。クマに似た形状をしているが、全身を覆う毛はとても堅そうだ。それに大きくて鋭い牙と爪が見える。
……あーこれは絶対に戦っちゃいけないやつだ。すぐに逃げよう。
瞬時にそう思って、その場を去ろうとした。
しかし、視界にとあるものが見えて、それが何か分かった途端、目を見開く。その巨獣は口に何かをくわえていた。
「……げ。あれってもしかして……」
その巨獣が口にくわえていたのは、ずっと探していた一匹のバロンだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます