第13話

 ボーッとする頭のまま、俺の膝で眠る女の子をなでているが、先ほどから様子がおかしくなってきた。金髪か僅かに覗く彼女の白い肌がほんのりと赤く、耳に関してはあからさまに赤い。熱でもあるのだろうか?それを確かめるべく、彼女の頬に触れた。その時だった。


「ひゃうっ!?」


 そんな短い悲鳴が、俺を現実へと引き戻した。


「っ!?!?あ、あああの……その……」


 顔を真っ赤にした。アルシアは俺の膝から飛び起きるとワタワタとしながら、


「夢じゃないから……そろそろ、許して……」


 許す?何を?そう言おうとして、俺は初めて大勢の生暖かい視線に気が付いた。


「はっ!?」


 俺がバッと顔を上げると同時に、その場に居合わせた冒険者全員がバッと支線を逸らす。全員が見事にシンクロするという奇跡を見せた。


 ようやく状況を理解した俺は


「あ、あああああああああ……いぃぃぃぃぃいいいいやぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!!!」


 盛大に悲鳴話上げながら跪くようにして蹲っていた。


 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいあぁーもう、マジで!!


「死にたい……」


 


 あれから俺は冒険者の一団と共に移動を開始していた。今日も今日とて盗んだバイク……ではなくホースゴートにまたがっていた。長時間、移動するには、慣れていないこともあり、厳しい。ホースゴートも馬というだけあって、乗馬初心者特有のケツの皮がズル剥けになるという症状が出ているが、異常な回復力で、復調していた。


「おーい、坊主!!機嫌直せよ。俺たちも悪かったと思ってるからさ!!」


 そう言って、俺との肩に腕を回してきたのは、武骨な顔をイラっとするほど綻ばせた大柄の男。ヅグだった。


「いやー……しかし、うまくやったよなーまさか、一晩で……」


「完全にあんたのせいだけどな!?大体、この状況どうしてくれんだよ!!」


「この状況ってーと?」


 俺は、わかりやすくこの状況をヅグに示すため、ある一台の馬車を指した。その瞬間、その馬車の荷台に積まれた白い毛布の山がもそっと動いた。そう、あの毛布の山の中にアルシアがいる。


「アルシアに完全に避けられちまってるじゃねーか!!それとも何ですか?これがあんたの言うところの仲良くする何ですかねー?」


 あれからというもの荷馬車の荷台に積まれていた毛布の山の中に引きこもり出てこず、時折、顔を出してはこちらを見ている。


「なんだ?仲いい証拠じゃねーか?女ってのは、なんも思っていないやつにあんなことされたら、絶対零度かってぐらいの声で、死ね、変態、キモイと言って、悲鳴を上げて、男のナニを切り刻むぐらいはするぞ?」


「いや、流石にナニを切り落としたりは……あー……あははは……された奴がいるんだな……」


「…………」


 ヅグさん。そこで黙らないでくださーい。


「まぁ、なんだ。あの子は、同年代の冒険者が居ない。最後の冒険者世代。その生き残りなんだ……周りにいんのは俺みてーなおっさんばっかで、馴染めないし、寂しかったんだろう……」


 なんか、親戚のおじちゃんと話してる気分になってくるな……彼らにとって、アルシアという女の子は、娘みたいなものなのかもしれない。


「昨日もそんなこと言ってたな。それは、どういうことなんだ?」


「おっと、これ以上は、本人に直接聞きな」


「俺からの助言はただ一つ。この状況をなんとかできるのは、世界中でお前一人だ」


 そんなセリフを決め顔で恥ずかしげもなく言ってのけた。


「あんた、それ言いたかっただけだろ!?」


 ヅグは高笑いをしながら


「男なら一度は言ってみたいセリフだろ?」


 そういってからフッと真面目な表情になり


「それと世界を背負う覚悟と愛するモノを守る覚悟。それはいついかなる時代でも同等の意味を持つものだ」


「……聞こうじゃないか。」


「……愛する者のいない世界なんて、守ろうと思うか?思わないだろ?」


「まぁ、確かに……」


「ふっ……つまり、その人との時間を守りたいから、ついでに世界を救う!!くらいのもんだろ?」


 そういって、先ほどの真面目な雰囲気はどこへやら再び高笑いを始めた


「……なんか、急にヒーローとか英雄が利己的に見えてきたな……」


「…………まぁ、それよりだ。ちゃんと仲直りしろよ?あとあと、めんどくさくなる前に」


「いや、だから……俺とアルシアが好きあってるみたいな言い方やめろよな……」


「これ以上ない極上のネタが手に入りそうなんだ。そんなもん、料理したくなるってもんだろ!!」


「勘弁してくれ……」


俺の溜息が空虚に響いた。


そんな気まずい空気の中、俺たちは、エルノヴァ王国領フォルスの街に到着していた。

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