第9話
キャンプは森の手前に設置され、今回の討伐隊の中に紛れ、焚き火を囲いながらこの世界の情報を集めた。
曰く、夜の森は平原よりもずっと危険らしい。この世界の森には、猛獣の類が多くいる。さらにそのほとんどが夜行性らしい
この世界は7割程は普通の野生生物なのだが、残りの3割の生物の身体には魔素を溜め込む器官があり、それを使いこなす事で、他の野生動物とは一線を画しているらしい。こいつらの事をどうやら魔獣と呼ぶらしい。冒険者の奴が言うには、「纏うオーラが違う」とのことだが……ちょっと意味わかりませんね……
それと、アルシアが言うには、一つの森に一匹の主が住むらしい。時たま森同士の縄張り争いが起きているという話から森一つがある種の王政国家に近いのかもしれない。
俺たちの目の前に広がる森は、戦国蜂と呼ばれる魔物の巣窟らしい。俺の記憶する限り蜂は昼行性のはずなのだが、こちらの世界ではそうではないらしい。昼行性の蜂と夜行性の蜂が半々で共存しているらしく、昼行性の蜂たちが昼間に餌を集め、夜行性の蜂たちが、夜半本来ならば無防備な巣を守る。理にかなった進化の形だった。さらに彼らは夜行性の方が防衛本能が強いせいか攻撃性が高い。その上、夜目も聞き、その巨体に似合わず、羽音がしないそうだ。これほどに奇襲向きな生物もなかなかいないだろう。昼間は見えさえすれば、対処のしようがあるらしい。
なぜ、そんな危険地帯を横断しようとしているかというと、この森を迂回すると旅路が3日程伸びるそうだ。この集団はあと1日分の食料しか積んでいないため、避ける訳にはいかないらしい。
さきほどから『そうだ』だの『らしい』と連発しているが、仕方がない。だって、そうきいたんだもん。とだれに言い訳するわけでもなく心の中で呟く。
大体知らんものは知らんのだ。それをよってたかって貶すのは、臨時とはいえ教育者としてどうなのでしょうか?ほら、昔の偉い人が言ったでしょ?『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』あれ?それ言ってたの俺の昔の先生だっけ?つまり俺が言いたいのは、わからないことはその時に聞け、わかったふりをして聞いて、終わった後に、ポコポコ質問すると、結局、2度手間だし『こいつ何も知んねーんだな』ってなるから。だって、一つの概念が分かっていないということは、その先なんて穴あきにしか理解できないんだから。それで、遮ってやるとキレるんだから。今の世界も前の世界も大分理不尽だ。こちらのわかろうとする努力もかってほしいものだ。
「あなた、いくつだっけ?」
「17だけど?」
「あ、同い年……」
へぇーアルシアも17なのね……
「じゃなくて!!よく、その年まで生きられたわね……」
ほかの世界で、死んできましたからね。そりゃ、知りませんよ。世界のすべての国を言われたとしても、俺の出身国だけは出てきませんと断言できるね。やっぱり異世界なんだよな……あ、ちなみに、現在地がエルノヴァ王国領フォルス。その近郊にあるスパイアの森だそうです。
「予想を遥かに上回るほど知らないって……本当にどうすればいいのよ!!」
アルシアは、そう叫んでから、頭を抱えて蹲った。わずかに、スカートとマントがファサッと翻る。
どうしたんですかー頭痛いんですかーご愁傷さまです。
「知らないから聞いたんだろ?大体何だ?その……ウィッチだのウィザードなど何が違うんだ?それとグラジオス共和国とかっていう建国数年目の明らかに帝国っぽい名前の国とか、実はグラジオス共和国とウィグリア帝国がなかいいとか、それ政府が傀儡になってるとしか思えないんだけど?」
ちょっと、そこで目を逸らすのやめてもらえませんかね?アルシアさん。
「はぁ……あなた、実は記憶喪失だったりするの?意外と切れるのに何も知らないなんて絶対、変」
「記憶喪失気味ではあるけど、この世界のことなんて知らないよ?」
「世界?また、おかしなことを言うのね……」
俺の言葉を適当な言い訳と取ったのかアルシアは盛大な溜息を漏らし
「まぁ、いいわさっきの発言で、おおよそのことは理解できてそうだから。おバカではなさそうだから続けるわね?」
そう言って話を再開した。
「この世界ではね、魔術と魔法は違うの。魔術は原理さえわかれば再現できる力。主に物質を集めて技を成すもの。逆に魔法は再現できない。その人独自の能力に近いもの。心が作用しているものって説や根源的なエネルギーの違いとも言われているの。それだけに、魔術は物質の状態変化の技。対する魔法は奇跡として神聖視する人達も多いの」
「つまり、魔術は知識を必要として、魔法は心が必要と?」
「まぁ、そんなところ」
「……じゃ、魔獣は?」
「解明中……」
アルシアがボソリと答えた。
「え?」
俺は咄嗟に聞き返してしまった。
「だから、解明中よ!!その為の冒険者なのよ」
そして、盛大にキレられました。周りの冒険者さんたち、さっきまでは怒声が上がるたびに何事かと振り返っていたが、今では慣れたと言わんばかりに誰もが、またかーお前ら仲いいなーと言わんばかりに生暖かい目で見てくる。
「どうして、そう無駄なところに気が付くのかしら……」
やっぱり理不尽だ……生まれてくる世界を間違えたかな……
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