第5話
やはり、あれでも死ぬことができなかったらしい。自殺扱いになったのか?判断に困るところだ。
陽は天辺近くまで昇り容赦ない日差しを俺にあびせかけていた。はるか上空120mほどの所に俺が足を踏み外した崖がある。
すんなりと身体を起こし立ち上がる。それと同時に服がズレる。
俺の服は血と泥で汚れ、擦り切れ、本来どんな服だったのかわからないほどにボロ布となっていた。もはやこれは服としての程をなしているのか?辛うじて俺の大事な部分は隠されている。しかし、ここまでボロいと原始人の方がまだいいもの着てるぞ多分、毛皮とか現代でもなかなか高いから普通の洋服より高い。実は原始人はいい生活できてたのかもしれない。
そんなことはどうでもいい。まずは周りを確認しないといけない。まずは足下。そこはやはりというべきか、飛び散った大量の血。今は乾き、その場には巨大な黒い染みが出来上がっていた。崖の方へ向けて血が伸びていることから、落下地点から数メートル程、地面を転がったようだ。そのせいか血の鉄錆臭さが、広範囲に広がっていた。
さらに辺りを見渡せば、盗んで来た宝物がまばらに落下して、一部破損してしまっていた。それでも金銀で作られているため、カケラだけでもそれなりに金になることは予想できる。
死ねない以上は、とりあえず生きるしかない。餓死も試すとして、それでも死ななかった場合は、ひとまず、生きるしかない。ということは、金はあるに越したことはない。
拾い集めて、包んでいた布に押し込んだ。
「あ、そういえば、カード。死んだって事は、書き変わってるかもしれないな」
カードを探すと、血だまりの中に沈んでいた。凝固した血の中からカードを引き抜く。ドロリとしたスライムのような血がカードにまとわりつく。その血の塊を手でこそげ落とし、太陽にかざして見た。驚くべき事にカードに傷一つ付いていない。裏面の鏡すら割れていないのは驚きだった。この世界の物質の耐久性はどうなっているのだろうか?
カードの数値を確認する。『Unknown Lv.18』やはり、俺は死ぬことでレベルが上がっている。でも、流石に上がりすぎじゃありませんかね?受けた苦痛に比例するの?ザッと目を通すと見落としていた項目が存在していた。『kin 23』kin?なんだろうか?さっきは流し見ただけだったから覚えていないが、2〜3だっただろうか?
それにしても、この世界の人間は死なないのか?でも、さっきの山賊の頭領だか、お頭だかは、ミイラになって死んでいたらしい。その点から、この世界の人間も死ぬ。ということは、この世界では、俺が元いた世界とは違う法則の何かがある。例えば、魔法やら呪術の類のものがあると考えるべきだろう。テレビで見たできの悪い特撮やら映画でも、その力は強大だった。中二の頃は憧れたものだ。嘘です。冷めた目で見てました。自分どころか、世界に絶望してた。持てもしない力に憧れるなんて馬鹿しかしないと思ってた。
自分に才能などかけらもない事は小学校高学年あたりには既に悟っていた。でなければ、あんなことにはならない。
それはそうと、これだけ時間が経っているにも関わらず、なぜ、山賊達は来ないのだろうか?
俺が転落死したから来る必要がないと思った?だとすれば、宝を回収に来てもおかしくない。ここまで来る道がない?その過程は、すぐそばの森に僅かに人が出入りした後があることから否定される。ならば、山賊達は頭を失って仲間割れを起こしている可能性が大きい。その闘争に巻き込んでもらえれば、死ねるかもしれない。 それに人をミイラ化させる化け物がいるのであれば、問題なく
「よし、戻ってみよう!!」
俺は鼻歌交じりに、山賊達の根城へ向けて山登りを始めた。
登りきった頃には、陽が傾いて来ていた。想像以上に、ここまでの道のりは厳しかった。誰だよこんなとこにアジト作った奴。馬鹿なんじゃないの?攻めるに堅く守るに易い?利便性なさすぎだろ。阿呆か
俺が逃げ出した時と同様に出入り口には、見張りが立っていなかった。杜撰すぎるな……俺は耳をすませなかの様子を伺う。全く音がしない。洞窟の反響から考えて、人がいれば中から微かでも呼吸音が聞こえるものだ。それが聞こえないのはどういうことだ?放棄したか、化け物にやられたか……だとすれば、化け物くらいはいるだろうか?
俺は洞窟内に足を踏み入れた。
薄暗い松明の火が揺れているが、暗闇もしっかりと見通せるようになっていた俺にはあってもなくても変わらない。この洞窟は基本的に自然物のようで、特有の入り組んだ構造と歩きづらさがあった。
手に入れた地図を元に洞窟内を歩き回る。半分まで来たあたりで不意に、最近よく嗅ぐ匂いがし始めた。奥に行けば行くほどに、その匂いは濃く、むせ返るような匂いと共に蒸し暑さを感じ始める。近い。そんな確信があった。
一際明かりが強い部屋が見えた。その入り口の外まで、血が溢れ、血の絨毯を作り出して居る。そしてその部屋の中、入り口付近まで人影が伸びている。
誰か居る。人の気配はないのに、居る。なぜなら、立っていなければあんな影はできない。あんなものを見て平然とまだ、そこに居ることのできる生物などいるだろうか?流石に生きたまま、じわりじわりと斬り殺されるのは勘弁してもらいたい。俺はあっさりと殺されたいのであって、殺人鬼に娯楽を与えにきたわけではない。
死にに来たはずなのに、その心拍数が跳ね上がる。急速な心拍数上昇と緊張が相まって、吐き気を催してきた。この先は想像できない。が、確認せずにはいられなかった。今なら、その化け物を見られるかもしれない。見てから殺してもらうか決めてもまぁ、遅くないだろう。
意を決した俺は、壁に差を預けゆっくりと進むとその部屋の中をゆっくりと覗き込んだ。
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