第4話
現在、絶体絶命です。
周りを鉄槍やら曲刀やらを持った明らかに柄の悪そうな山賊さん達が荒縄できつめに縛られた俺を取り囲んでグルグルしてます。
だが、一つの確信を得ていた。ここは間違いなく、俺が今までいた世界ではない。
俺の前居た世界は山賊なんてものは絶滅してるし、似たような格好に中東ゲリラとかのがいるけど、あの人らアサルトライフルとかマシンガンとか下手すればロケットランチャーとか持ってるし、言葉通じるわけないし。何故か言葉がわかるという疑問点はあるが、恐らく空白の時間に何かがあったのだろう。
これだから生きるなんてロクなことないんだよな……誰だか知らないが余計なことしやがって
口に布をかまされてるから舌を噛み切って死ぬこともできない。その前に何故か復活するからただただ苦しいだけなんだった。前の世界より悪くなってる。
死って人間社会の唯一の救いじゃなかったの?死んだむしろ状況酷くなるとかどういうことだよ。
昔の世界もトチ狂ってたってのに、こっちの世界はさらに無法地帯と来たものだ。この世界の文化レベルはおおよそ戦国時代とか江戸時代に近いものがあるのではないか……
自殺以外の方法でなら死ねる可能性はないだろうか?自殺のみが制限された世界なのかもしれない。
俺は期待の目で山賊たちを無言で見つめて見た。
「おい、なに見てやがる」
「んーんんんー」(はよ殺せー)
「うるせー大人しく待ってろ」
俺の意思は汲み取られることはなく、山賊によって一蹴されてしまった。
「頭領はまだか?」
「さぁな、まだ寝てんのかもしれねー」
俺がうなだれている間にそんな会話が山賊間で交わされる。どうやらここの頭領は低血圧であるらしい。ってことは、今は夜中、或いは、朝方なのか?この世界に来てから未だに日の目を見ていないせいで、時間感覚皆無だ。もはや、この世界が1日24時間であるかも怪しいところだ。
縛られてから30分ほどが経ち、待たされているのが、苦痛に感じ始めだころ。
俺は焦らしプレイに快感を覚えるような性癖はないんだか、どうせ、殺すって選択肢しか持ち合わせてないんだから早くして欲しいんだけどな。ホント時間の無駄だから。
そう心の中で悪態をついていると、一人の山賊が青ざめた顔をして部屋に転がり込んで来た。その尋常でない様子から山賊たちは
「頭領が……頭領がぁ……っみ……」
この部屋にいる山賊全員が固唾を呑んで男の次の言葉を待つ
「ミイラになってた……」
あ、この世界にもミイラって概念あるんだな……
俺がそんな事を考えている間に、部屋は長い沈黙の殻を破り、混乱の坩堝になっていた。
一斉に野郎どもが喚き散らすせいで、うるさくてたまらない。
やっぱりあの洞窟には、生物の精気を吸う化け物でもいたのだろう。出会わなくてよかった。クワバラクワバラ……
いつのまにか俺を放置して、山賊全員が部屋を飛び出していた。これ警備体制としてどうよ……杜撰すぎるでしょ。これじゃ、縄切って財宝盗んで逃げてくださいといっているようなものだろ?
俺は持ち前の手癖の悪さを利用し、アビリティカードで縄をあっさりと切ってみせた。
実はこのアビリティカードって十得ナイフだったんじゃね?割と使える……これからも重宝しそうだ。本来の用途とはかけ離れているのだろうが……
本当に何の警備もないままに財宝をそこそこに奪うと一緒に置かれていたアジトの図面を拝借し、迷うことなくあっさりと脱出に成功した。洞窟を抜けた先はどこまでも見渡せそうな崖の上。あたりをよく見渡す。どうやらここは山の中腹辺りの切り立った岸壁に口を開けたような場所らしい。
時刻はやはり朝方のようで、アジト入り口から見て左手側の空が白みかかり、徐々にその明るさを増していく。しかし、アジトの付近はまだ、薄暗く、逃げるには絶好のタイミングだった。
とりあえず、死ねないのならばここは俺にとって天地の狭間のような世界だ。好き勝手に探検しても何も文句話言われないだろう。あるいは、これは次の世界の体験版のようなものかもしれない。時間が立てば、『体験版はここまでです。ここから先は本編をお楽しみください。』的なものかもしれない。ならばそれまで情報を集めるのもありだろう。人生で2つの世界を体験できるなんて考え方によってはおいしい。いわば、2度おいしいというやつだ。もしかしたら、この体験版の間に鍛えれば、初期ステータスに反映が……なんてお花畑なことを考えて、「勝ったな、がはは」とか笑ってられたらどれだけよかっただろうか。
ノリで盗んできてしまったが、これ……どうするよ……多分今頃、俺が居なくなったことで、俺がお頭?だか統領?だかを殺した犯人説が山賊の間で流れてるころだろ?もし、殺されても死ななかったら……これ、よく考えたら死んでも復活するとか無限の労働力じゃん……奴隷という名の生き地獄パターンだろ?しかも自殺できないとか、抜け出すすべ皆無じゃん……
世に蔓延るブラック企業の募集要項って、きっとこれだよな……頑強な精神と死んでも死なない身体。後半だけ見たら俺ぴったりじゃん……理想の社畜(奴隷)だわ……
「よし。全力で逃げよう。エンドレススレイブとか、エターナルスレイブとか、かっこよく言ってみても、伝説に残る勢いで奴隷だわ……絶対、奴隷回避だ」
俺は固い決意を胸に、一歩踏み出した。しかし、踏み出した右足が地面を捉えることはなく、体制が急速に前傾に崩れていく。自分の立ち位置(心理的)を考えるあまり、自分の立ち位置(物理的)があたまからすっぽりと抜け落ちていた。そうだ……ここは……山賊のアジトの入り口。崖の上だった。
俺は急速に迫る地面を呆然と眺め、近づくにつれ、意識が薄れていく。強烈な風圧に顔の皮膚だけでなく筋肉が風を受け激しく波打つ。飛び降り自殺って、死ぬ前にこんな醜態をさらしながら落ちていくのか。
無事死ねる事に一縷の希望を託し、目を強く閉じた。
自身の骨が、身体がボールのように跳ね返る感覚を最後に俺は意識を失った。
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