第3話

「はぁ?」


 どうなるかわかっていないのは俺の方だった。


 目覚めてしまった……なぜ?why?


 慌てて首筋を確認する。確かにぱっくりと開いていた肉はつなぎ目もなくくっついていた。傷など最初からなかったかのように。


 もはや自分の理解は追い付かない。巻き戻されたのか?まさかのタイムリープですか?10年ほど前の名作よろしく時駆けですか?このまま順調に自殺し続けたらそのうち性別の壁までジャンプしそうですね……


 混乱する頭のまま、周りを見渡せば、一部乾いた血だまりが確かにある。すぐそばにはベットリと血の付いたアビリティーカードが落ちていた。


 ということは、俺自身が首を掻っ捌いたという事実は存在している。


 さらにあたりを観察する。


 って、俺の服も大量に血がついて、ガビガビになってるし……


 あふれだした血の量は見るからに致死量を超えていることは素人目にも明らかだった。


 訳も分からないまま、俺はカードを拾い上げ、付着した血を落とすために横なぎに振るった。シュッという空気を切り裂く音に遅れて、ピシャッという音が静かな洞窟?の中に響いた。


 なんとなく、カードに視線を落とす。数値に変化が見られた。『Unknown Lv.6』さっき見た時は、6ではなく0だったはず。死んだことでレベル上がるのこの世界……ふつう下がりませんかね?むしろ0だったから下がる要素なくそのまま黄泉の世界へとかならない?あーなりませんかそうですか……てか、よく考えたらこのカードなんだよ。ゲームかよ。幸也がやってんの横で見てたことしかないからわからんけど。じゃ、ここはゲームの世界ってことでいいの?還りたいとかないからとにかく


「あぁ……っ。死にてぇー……」




 何もやることのない俺は、一先ず歩いて脱出を試みることにした。洞窟での歩き方はまず、風の吹いてくる方角に進むことが定石だといわれている。が、風がない。これはつまり……出口が1つしかないってことになるのでは?もし長かったらどうするか。スタート地点は行き止まりだったがこんな洞窟が一本道なんてことそうそうないだろ。


 ない……だろう……そう思ってた時期も俺にはありました。


 一本道を進み始めてからかれこれ3時間ほどが経過した。幸いにして同じところをぐるぐると回っているわけだはないようだが、これはどこに向かっているのかさっぱりわからない。ざっと歩きながら確認をしているものの分かれ道には当たっていない。徐々に上ってきてはいるようだが、果てがみえない。


 歩き始めてからいくつかの生物の死骸を見つけた。どれも傷はなくただただミイラ化しているのが気になった。ここには敵をミイラ化させる生物でもいるのだろうか。


 そんなものには絶対に出会いたくない。


 幸いなことにまだ生きている生物とは遭遇していない。


 むしろなんなのこれ?心へし折りに来てるでしょ……延々と続く同じ光景に、だらだらとひたすら長い登り。室内用ランニングマシーンとかが普段よりきつく感じるのと同じ理由だよね……


 中国の水拷問?とか今の状況に近いものを感じる。


 それなりに鍛えさせられた俺でも精神的にやられ始めたからは肉体的にも疲弊し始めていた。



 それからこの長い洞窟を抜けたのはさらに体感的には4時間程経った後のことだった。


 その洞窟の終わりは唐突にやってきた。螺旋状を描いて徐々に上っていた回廊に突如として光が差し込んでいた。実に8時間ぶりの外の空気に疲れ切ったからだが、敏感に反応し、思わず走り始める。小さな穴から光が漏れているのを見つけ、渾身の力で、土の壁を突き破った。


「脱出せいこーぉっ!?!?」


「あ?」


 土壁を突き破った先、鉄槍を持った山賊風の男と目が合った。周囲には、俺が吹き飛ばした土を被った数々の財宝が置かれている。


 2人はたっぷり十秒ほど見つめあった。やだ恋に落ちちゃうなどと冗談を言ってられる状況ではなさそうだ。


「貴様、何者だ!?どこから現れた。というか、その穴なんだ!!」


 そう喚き散らしながら男が鉄槍をこちらに向けてくる。


「んなもん、俺が聞きてーよ!!」


洞窟抜けたら盗賊のアジトとか冗談じゃない。てか、目覚めて最初に出会った生物が山賊とか笑えない。今持ってる武器はカードが一枚。むしろ武器とも言えない。


仕方がなく、カードを構える。全く締まらない光景だった。ファイティングポーズで改札にicカードを当てに行くようなものだった。正直言って、恥ずかしい。側から見てたら笑う自信ある。あ、ほら山賊さん肩を小刻みに震わせ始めちゃったよ……

あぁ……死にたい。


その後……呆気なく捕まりました。

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