テンプレその3「適正検査するってよ」

彼は聖女様に替わるように前に出た。

気配もなく前に出た彼に召喚された者たちは突然現れたように見えたのかとても驚いていた。


「うわっ!?」


「っ!」


「ひぇっ!」


この驚きようには驚かした本人すら内心驚いていた。


(えっ、驚かしたの俺だけどここまで反応されると今後が辛いな)


しかし、彼は優秀である。

たとえ現在進行形で動揺していようとも彼はそれを表に出さない素晴らしいポーカーフェイスである。それが彼らの恐怖心を煽っていることに変わりはないが、まあ無視して問題無いだろう。

彼は場の空気を無視して話を切り出した。


「こちらに喚んで早々に申し訳ないが時間が無い。手短に話させてもらうが部屋を変えよう。そこであなた方は休息を取るといい」


彼はそれだけ言うとそばに控えていた者に案内をさせた。



しばらくして召喚された者たちの姿が見えなくなると、彼は聖女様に話しかけた。


「大丈夫か?」


それはそっけない一言であったが彼女を心配していることがよく分かった。


「ええ、緊張でいつも以上に疲れているだけですので」


心配されたのが嬉しかったのか彼女は花が咲いたように微笑んだ。


「そうか、これからのことは俺がやる」


彼はツンデレである。

はたから見れば冷たく見えるその態度も親しい者しかいないこの場ではその言葉の意味を理解しているのか彼に頷くだけである。

何という意味で伝わったのか。

簡単で「この後のことは俺がやるので休んでいろ」ということである。


彼はそれだけ伝えると影に控えていた者が足音も立てずに彼のそばに現れた。

黒髪を七三わけにした彼の執事である。

護衛の彼のそばにいるのは彼がどのような立場の者か明確に表していた。

執事は彼と言葉を二つ三つ交わすとまた音も立てずにまるで消えるかのように去っていった。

それを見届けると彼もまた先に部屋に向かった者を追いかけるようにしてこの部屋を去った。



その頃、ちょうど部屋ではとてつもない沈黙に満ち溢れていた。

誰もが戦意むき出しで睨み合っているわけでも、気まずくてだんまりな訳でもない

これは誰にでも起こりうる問題だ。

いきなり知らない場所に放り出されて、どこの誰かもわからない人に親切に部屋に案内されて、これまたどこの誰かもわからない人と同じ時間待っていてくれ?

そんな状況下に置かされて平静でいられるだろうか。

無理だろう、特に十代後半から二十代はまだ人生を経験していないのだ。

逆にここにいる彼らは悲鳴も上げていない。

見事に短時間で適応したと言い切れるだろう。

まあ、沈黙の空間に口を開けないだけの者もいるようだが、それは性格の差だろう

彼らの内心はこうだ。


(ど、どうする?だ、誰か何か言いだせよ!沈黙が辛い!)

明らかに焦っている男子1、先程のニヤニヤとした表情からおどおどした表情への変化が激しい、心の内側が丸見えである。

夢は寝てみろと言われてもしょうがないくらいにヘタレ男である。


(え?此処どこ!?知らない人しかいないし、お父さん大丈夫かな?)

自身の状況すら危ういにもかかわらずここにいない人の心配をする優しきヒロインの心を持つ少女1、見た目は金髪で日本人らしくないため不真面目に見えるがいわゆるギャップ萌えというやつだろう。


そして一見冷静に見える黒髪の少女2。

彼女が一番危なかった。それはもうなんかやばかった。

(可愛いい!えっ!何この金髪ちゃん。まじペロペロしたいわ。ああ、あの子のお姉さんになっていろんなおs___)

あ、危ない危ない。文学少女な外見とは裏腹に中身は腐っておった。


次だ次!このままではまともなのがある意味まともなのが一人しかおらん!


最後の男子2。彼はまともそうだ。

いかにも何か嗜んでますよって全身で言っていそうな佇まい。

素晴らしいこれぞ頼れる男とい____

「Zzz・・・」

ん?なにか聴こえたような。い、いや気のせいだな。

さて、気を取り直して彼の内心も聞いていこうではないか。

(1001、1002・・・・1010・・・・)

あ、こいつ静かだと思ったら寝てるんかい!

しかも脳内ですら竹刀振ってるよ!えっ?こいつ冷静なんじゃなくて脳筋かよ!


いや〜アシュリーに言われたからついて来たけど。これはこれはやばいね。

まあ、精神は強そうだしなんとかなるかな?

なるよね!がんばれ〜アシュリーちゃん!


本人はもう受け止めきれない現実にやけになっているようだ。

____ドンマイ、アシュリーちゃん!すべてはキミの腕にかかっている!




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