テンプレその2「選ばれたってよ」
「はあ!えっ?」
彼はそんな見ていること、今体験している状況が理解できてないような、そんな思ったことが口から意味もなく紡ぎ出された。
なぜこんなことが起きたのかそれは遡る必要がある。
ついでに思い出しながら頭の整理をするといいだろう。
彼は現在現役の男子高校生だ。
天才というほど勉強や運動ができるわけでもない。
そして秀才と呼ばれるほど努力を積みかさねたわけでもない。
顔もイケメンというほどでもないが不細工というほどでもない、しいていうなら整っているほうではあるといえるだろう。
どこにでもいるありふれた普通の夢見る至って健全で思春期な男子なのだ。
そんな彼は今、猫を助けて車に轢かれそうになっているわけもなく、学校に遅刻しそうになってパンを咥えて走っている美少女と曲がり角でぶつかっているわけもなく、ただ普通に友人と話しながら学校へ向かって歩いていた。
彼は色素の薄い茶色の髪であること以外は制服も着崩しておらず、アクセサリーもつけていない。
先生にとっては手のかからない生徒にとっては面白みのないそんな生徒だ。
では、隣で歩いている彼の友人はと言うと高校生デビューを果たし、見事にチャラくなっていた。
まぁ、簡単に言うと友人のほうがイケメンで彼よりモテていて人生を謳歌しているのは確実でどこぞの小説の主人公、もしくは勇者の立ち位置にいてハーレムを築くこともおかしくはないだろう。
しかし、人生何が起こるかわからない。
モブだと思っていた人がいきなり主人公のようになることもありえるのだ。
彼は他愛もないどうでもいいことを話していた。
今日の宿題がどうとか、金がねえーとかそんなありきたりな、いわゆる生産性のない会話だ。
「でさぁ、昨日あいつがさー」
そう言いながら彼は友人に話しかけた。
すると、友人がその精悍な顔立ちを驚愕したような(それでもイケメンで爆発すればいいのに)口を大きく開けて慌てたように言った。
「お、おいっ!お前後ろ見っ」
「えっ?」
それが彼が最後に見た友人の顔、そして最後に聞いた彼の声であった。
彼は後ろを振り向く間もなく何かに引っ張られるようにして消えたのです。
その場には友人以外誰も最初っからいなっかたかのように消えていました。
そして冒頭に戻る。
いや〜思い返してみるほどのことではなかった。
まあ、彼の頭は先程よりも冷静さを取り戻してはいるだろう。
目を開けてみるとそこは何もない、ただ終わりの見えない広い空間がそこに広がっていた。
上も下も右も左も全てが真っ白でどこから光が差しているかも分からない。
自身の影すら見えない所に彼は座り込んでいた。
動いてしまえば立っている場所さえわからなくなりそうなほどその場所は平衡感覚のない空間だった。
まあ、彼は座れているので地面があるのは確かだろう。
人間平凡に生きていれば誰しも非日常に巻き込まれたいと考えるだろう。
しかし、大人になればその考えも薄れていく。
何故か、それは非日常なところで楽しむなんて無理だと、所詮小説のようにはならないと気づくからだ。
そしてたとえ現在進行形で望んでいようといきなり環境が変われば冷静さを欠き、正常な判断ができなくなるだろう。
けれど、全ては彼を待ってはくれない。
無情にも時は進んでいくのだ。
静かな無音な空間にいきなり現実的な機械音のキィーという耳につんざくような音が聴こえた。
「うっ、な、なんだぁ!?」
そんな彼の言葉?に答える者はいない。
キィーという音が止むと誰かの録音したような声が流れ始めた。
『あ〜テステス。まぁ、こんなもんかな。うん、聴こえてるだろうしさっさと進めよう。聴こえて無いやつが悪い』
(うわぁ〜、誰か知らないけどものすごく理不尽だ)
『一回しか流さないからね〜。これはこの空間に誰かが入ると自動的に流れるようになっているよ。今から君は理由は知らないけど何処かの世界から何処かの世界に行きます。途中で戻ることはできないし、その先のことも保証できないよ。何があっても自己責任だから』
「異世界転移するのか!?えっ、マジ?よっしゃ!」
そんな彼の独り言はやはり聞かれていないのかスルーされて話は進んでいく。
『召喚の場合には選ばれた理由があって新しい環境に適応できるかとか精神が耐えれるかとか色々あるけど、君が召喚か偶然かなんていくら神様でも興味ないので知りませーん。その行く世界についての説明もできませーん』
それを聞いて彼は理解した。
やはり神は理不尽な存在なんだと。
『でも、それは流石に誰でも死んでしまうのでその行く世界の言語を君の頭に直接流し込んで覚えてもらいます。一気に大量の情報を君の知識として流し込むので脳がオーバーヒートしても知らないから頑張って耐えてね。じゃ、死なないように頑張ってねー』
「はあ!?ちょっ、待て!」
そういった途端まるで見計らったように大量の情報が波のように脳に押し寄せてきて、そのまま彼の意識は波にもっていかれた。
(小説だったら絶対に神様とかそれに関するやつが出てくるのに)
と、案外心のなかで愚痴を吐くほど余裕があるので大丈夫だろう。
そして次に目覚めたのは落ちて地面に叩きつけられた衝撃だった。
二段ベッドから落ちたような衝撃は意識を復活させるのにはちょうどいいものだった。受け身もとれず無様にも頭から落ちて痛みを感じているようだがそれはおいておいてもいいだろう。
彼は覚醒させたばかりの思考の中でゆっくりとあたりを見渡した。
周りには彼と同じように座り込んでいるものと受け身をとっているものがいた。
そして、彼は周りを囲むようにして立っているまるで魔道士のような見慣れない濃紺のローブを着た人たちと一人のこれまた見慣れない真っ白な法衣のような服を着た金髪の美少女がいた。
その美少女を真正面から見る耐性のない彼は照れてしまい顔を下に向けた。」
そこには美しい白い大理石とは不釣り合いの魔法陣のような流し込まれた知識でも読めない文字が書かれていた。
それを見て彼は確信する。
召喚されたんだと、選ばれたのだと。
まだ喚ばれた理由も知らないのに彼はそんな根拠もない漠然とした自信に溢れていた
たまたま顔を上げたときに見た美少女の微笑みを見て勘違いに拍車をかけていたのかもしれない。
もうすでに妄想によって浮かべている気持ち悪い笑みを一人が見ていて引かれていることに彼は気づかなかった。
それが今後にどう影響するかは神にも分からない。
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