異世界ファンタジーだけど二次元じゃなくて現実だからな!
晞栂
テンプレその1 「勇者召喚するってよ」
厳かで静謐な空間である。
輝く大理石は磨き上げられ、空がそこにあるようであった。
遠くにある天井はドーム型で外の光を集めて光り輝いていて奥が見えない。
壁はなく、繊細に細工された大きな白い柱が囲むように立っている。
柱の向こうは蒼く、雲ひとつないようだ。
俗世からかけ離れたようで、息吹は美しいが重く感じる空間がそこにあった。
大広間の中央にこの儀式のために作った特殊なインクで膨大な文字を緻密にかきあげた魔法陣が広がっている。魔法陣のある場所を囲むように立っては交代で詠唱を続けている魔道士たちは長杖に寄り掛かる形でようやくという体である。
その中心にこれまた真っ白な法衣のようなものを着込んだ金髪の女性が祈るように詠唱を続けている。
そして彼はその場から少し離れたところで護衛を兼ねて様子を見ていた。
腰まである長い艶やかな黒髪をゆったりと結んでおり、貴族の青い礼服を見事に着こなしている姿は腰にある剣がないと護衛には見えないだろう。
そんな麗しの美貌を持つ青年は今、こんなことを考えていたりする。
(はぁ〜、召喚ってこんなに長い詠唱が必要なのかよ。割に合わねぇな)
外見と内面のギャップとはこれのことと言っているような差である。
そんなことを考えながら彼は時間を潰すように召喚の儀式を行うことが決まった昨日のことを思い出していた。
始まりは国王の言葉だった。
「魔王率いる魔族を倒すために我々を勝利に導く勇者を召喚しろ。この国にはちょうど聖女がいる失敗は無い」
国王は玉座からそう宣言するように言った。
有無を言わせぬ言葉を俺は聖女様の隣に立って聞いていた。
本来ならば跪くべきだろうが、今は急遽議会なようなものをしていたからに過ぎない。
そもそも今は世界中がピリピリしていていまでも各地で被害が起こっているが、いつ世界戦争になるかわからないのだ。
だが、まだ戦争になる前に止める方法もあるはずだ。
わざわざ関係のない者たちを巻き込んでまで命の奪い合いをしなくていいはずだ。
議長のような位置にいる国王のあんまりな言い方に俺はちらりと隣の顔を見た。
ちょうど彼女もこちらを向いたのか、こちらを見てうなずいた。
それを見て俺は彼女に任せることにした。
彼女は聖女と言われるように魔法に秀でていて、この国では彼女の発言が重要視されている。それは場合によっては国王の命令だとしても。
それに俺と彼女は長い付き合いだ。
彼女のことを信用し信頼するのは当然と言えるだろう。
まあ、俺が言っても話がこじれるだけになると思うからってのもあるけどな。
「わかりましたわ。召喚するための準備とその後の対処はこちらで行いますがよろしいでしょうか」
なるほど、それなら無理なやり方で召喚をやらされる必要もなければ魔法陣に小細工されることもなく、召喚された者を洗脳まがいなことをされることも無いのであれば安心だ。
「任せよう。ただし報告や許可を必ずとれ」
そう、ここでへんに国王が拒否すればなにか理由があるのでは?と疑われることになるし、敬虔なる神に仕える神の恩寵を最も受けた者の言葉を無下にするなど神に逆らっているようなものだ。
反対できるはずもないか、と俺は内心冷笑した。
まあ、顔に出したら良くないのはわかっているので無表情でいるけど。
いやあ、昨日の今日でよく準備できたものだな。
あんまり遅くしてもいいことがないから対処される前に準備したというわけだ。
ほんと、頑張ったよ。俺にしてはだけど。
召喚のためのこの場はもとからあったが、一体最後に使われたのはいつってくらいの有様だったが、掃除さえしてしまえば陣は見える形で残っていたし、祭具もそのままで少し修正するだけで済んだ。その掃除や修正、警備体制の構築、貴族の抑えのほうが大変だったんだが。
そんなことを思い出していれば時が立つのは早い。
かれこれこの状態が朝から始まり日は登りきっているので結構な時間が経っていることが分かる。
これだけ長く続けていれば詠唱の集中力が低下し、いつ切れてもおかしくないだろう
さらに次元を超えて人を、物などの無機質ではなく意思を持つ者を連れてくる召喚魔法はとても難しく必要魔力も多い、大人数で行うのが絶対条件の魔法だ。
失敗すれば計り知れないリスクもある。
まあ、これだけ上級魔道士が揃って、聖女様もいるんだ。失敗したらもう他にできるやつはいねえだろうな。
しかしそんな危うい状況も終りを迎えたのだ。
魔法陣が一際輝くと魔法陣の上の空間が割け、中から数人の人が落ちてきたのだ。
そう、《落ちて》来たのだ。
普通は魔法陣上に現れると思っているのだろうが、そうはいかないようだ。
まぁ、そのことについては後々語られるだろう。
人数は見るからに学校の制服を着た男子一名、また別の制服を着た少女一名、私服を着た少女、スポーツウェアを着た男子の計4人。
全員に共通点は見受けられないのでランダムにこの世界にあった人が選ばれたようだ。制服を着た茶髪の男子(面倒なので名を聞くまでは男子1としよう)は周りを見渡すと最初の困惑した表情はどことなくニヤニヤしているように見えて少し気味が悪い。
また制服を着た金髪の少女(少女1)は状況を理解できていないのか呆然と座り込んでいるようだ。
隣りにいる私服を着た黒髪の少女(少女2)は落ち着いているのかわからないが少女1を凝視している。
スポーツウェアを着た黒髪の男子(男子2)は無表情で寡黙な印象を受けるがやはり周囲の状況を察しどんなことがあっても対処できるようにするためか隙きが見当たらないのは武芸を嗜んでいることがわかる。
想像通り日本人、テンプレだな。
彼は内心そう茶化しつつも無事に召喚できたことについて安堵していた。
いや、平静を保つためにいつもどうりの調子で考えただけかもしれない。
先程言ったとおり召喚ほどの難しい高度な魔法になれば失敗したときのリスクは在りえないほどに上がり、下手をすれば死ぬ、軽くてもそれに近いことが起こっていたかもしれないのだ。
さらに彼はこの召喚する魔法に参加できなかったのだ。
人には向き不向きがある。
できないのを無理にして失敗するよりは最初から参加しない方がいい。
ただ見ていることしかできないのは歯がゆく辛かっただろう。
彼の大事な聖女様は命がけで行っているのだ。
いつもひょうひょうとしている彼がそう考えるのもおかしくはない。
そして彼はその気持ちが表面に出たのかいつも無表情な顔は親しい者でしか気づけないものではあったが薄っすらと柔らかく微笑んでいたのだった。
そしてそれを誰もが召喚された者を見ている中、たまたま見ていた者が奇跡的に一人いた。
先程まで命がけで詠唱をしていた聖女様だ。
聖女様は召喚に成功したと気づくと安心したのか集中が切れどっと疲れが体に押し寄せてきた。
それでも聖女様、いや彼女は無事に成功したと彼に安心させるために彼の方を振り向いた。
そしてその彼女にしか気づけない彼の珍しい微笑みを見て彼女もまた微笑んだのだ。
彼は彼女の笑みを見て、周りを見渡すと少年たちの方向に向かってゆっくりと歩き出した。
それは一つの壁を乗り越え安心したような、それでいてこれからのためにまた一歩を踏み出すようなそんな歩みだった。
さて、疲れている彼女の代わりに今度は俺が仕事をする番だな。
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