第17話 みごと今生のラフレシア

ビクリ、と俺は肩を震わせた。あんまり驚いて同時に、口に含んでいた飴を落としてしまった。謎の声の主を探してあたりを見回す。


「ああ、そんなに怖がらないでくださいよう、これでも私、いい霊なんですから~…」


先ほどの凛とした声はどこへやら、とたんに萎縮した声が周辺に響き渡る。しかし、その声がどこから発せられているものかはわからない。オカルトチックに例えるとするなら『テレパシー』とか、そんな表現が妥当だろうか。


「な、なになに、この声!」


男として情けないとは思うものの、素っ頓狂な声を上げてしまう俺。対する芙蓉は落ち着き払っており、寧(むし)ろやっときたかとさえ呟いている。

何が何だか突然のことでさっぱり混乱してしまっているが、どうやらここには俺と芙蓉以外に誰か居るらしい。


と言っても、あたりにそれらしい人影は見当たらない。かくれんぼにしたってここまでうまく気配を消すのは難しいだろう。と言うか、それ以前に今の所業を聞かされては人間によるものではないのは明白だ。否、甘夏ならあるいは可能かもしれないが・・・でも、明らかに女性の声だ。甘夏じゃない。それに自分で「霊だ」と明言していた気もする。となれば、芙蓉と同等の類か。


「おい、蓬に見えてないぞ。『ウッスい』んじゃねえの」


芙蓉はその『誰か』に話しかける。が、目を凝らしてみても、その芙蓉の視線の先にはやはり何かあるようには見えない。


「えっ、あれっ?お、おかしいなぁ・・・霊力のある人間になら今のままでも『見える』はずなんですけど~・・・・」


「んなこと言ったって、実際見えてないみたいだし」


「んん~~~~・・・・・・?」


なにやら、女性はどうにも納得いかないご様子。そのいかにもほんわかな性格してます系ゔぉいすから最大級の低音の唸り声をひねり出しているっぽい。


「・・・・なんだか、影が薄いみたいで不服ですが仕方ありません。少し霊子密度を高めてみます~」


言っていることはよくわからないが、会話の流れ的におそらく俺にも見えるように取り計らってくれるつもりらしい。霊子密度を高めると女性の声は言っていたが、具体的にどうするつもりなのだろう。なんてことを考えながら芙蓉の視線の先を見ていると、その周辺の空間がぼんやりぼやけ始めた。うん?とぼやけているところを中心に目を凝らしてみると、かすかに人の形をしているように見えた。人の形は次第に輪郭をはっきりとさせていき、今度は徐々に透明度が失われてゆく。じわりと滲んだ桃色が中空に浮かび上がる。なんだなんだとすっかり目が釘付けになる。こんな驚愕の出来事、甘夏が何もないところに火の玉出した時以来だ。


それからはあっという間だった。気づいた時にはその空間の向こうは透けておらず、その代わり、見覚えのない女性が一人、目を閉じて、祈るように両手を重ねた状態で佇んでいた。女性はゆっくり目を開くと俺の方を向いて、慈母のような柔らかい笑顔をした。


「ああ、よかった~。目が合いましたね~」


俺から自身の姿が見えていることに安堵したのか、女性はほっと胸を撫で下ろす仕草をした。




女性はまさに絵に描いたような、女神のような姿だった。


ゆったりとウェーブした桃色の髪、柔和な表情、若く見える割に豊満な肢体。

ワンピースの上からカーディガンを羽織っている服装なので、ぱっと見は散歩中の何処かのご令嬢のように見えるが、十中八九が女神と形容するだろう、それ以外には例えようのない美貌の持ち主であった。


正直、どきりとしてしまった。思ってた以上に美人だったのだから。無意識に俺は一歩後ずさりしていた。


「ああ、申し遅れました。わたくし、この都裏の花園の守護霊をしています、『渦舎篭花参カシャラハナマイリ』と申します~。よろしくお願いしますね~、菜丘蓬さん」


そして今度は名前に愕然とする。かしゃ・・・なんだって?長すぎるし、すごく覚えにくい。ええと、呼ぶときはハナマイリって呼べばいいんだろうか。


なんて思ってたら、芙蓉が口を開いた。


「ところで、お前は牛の妖怪か何かか?」


「いいえ、ただの地縛霊ですよ~。少し霊としての格は高いみたいですが」


「そうか。でっけー乳してるからてっきり」


さらりと芙蓉は失礼を言う。そういうのは思っても口に出さないもんだが、全く動じないハナマイリという霊の方も大概だ。彼女らの会話はフランクだが、それだけに聞いてるこっちはハラハラする。それとも、俺ら人間が狭量なだけなのか。


「あの、うちの駄狐がすいません。」


内心まだビクつきながら、とりあえず芙蓉の保護者(?)として非礼を詫びておく。ハナマイリはとんでもないと笑ってゆるしてくれたが・・・・・これは、多少は芙蓉に教えてやったほうがいいのだろうか。主に常識とか。


「おい、駄狐ってなんだ、駄狐って!」


「やかましい。失礼だっつってんだよ。」


芙蓉は案の定駄狐と言われたことに腹をたてたようで、普段よろしく俺に激しく掴みかかってくる。が、俺は逆に芙蓉の腕を軽く掴んで待ったをかけた。今はそんなことよりハナマイリに聞きたいことがあったのだ。


「ところで・・・・俺のこと、知ってるんですか?」


そう問うたのは、確かにはっきり聞いたからだ。ハナマイリが俺を菜丘蓬さんと呼ぶのを。俺は名乗った覚えはないし、ましてや特に霊に知り合いがいるわけでもない。ハナマイリという霊が何者であるかなんて知らないが、それ故感じた疑問だった。


ハナマイリの言うことはごく単純だった。


「ええ、存じてますよ。彼、甘夏くんからあなたの話はよく伺いますから。女の子のような男の子で、仲の良い友人だと。実際にあなたを見たのは昨日が初めてでしたが~」


甘夏が楽しそうに語るので、自分も一度は会ってみたかったのだと、ハナマイリは嬉々として語った。


成る程、甘夏と知り合いだったのか。それなら納得だと、特に何の滞りもなく腑に落ちた。

甘夏はこの付近の霊の存在にかなり詳しいらしい。人に対して友好的な霊とは多くのコンタクトを測っており、そのコミュニティも幅広いと聞く。ならば、逆にハナマイリが俺のことを知っていても別段不思議ではなかろう。


・・・・・しかし、甘夏が俺にどのような評価を抱いていて、彼女にどう話したのかは知らないが・・・・・・彼女のような霊にそんなふうに語られると、どうにも気恥ずかしく、顔が赤くなるのを感じた。つい、彼女が霊であることを忘れてしまうくらいにはハナマイリの持つ雰囲気には和ませられ、俺の緊張も段々とほぐれていて、気づけば自然と臆さず話せるようになっていた。

余談だが、ハナマイリと話してみて昨日公園の去り際に聞こえた声のことを思い出した。彼女は花の霊で、ずっとこの花壇のあたりにいるのだそうだ。ならば昨日の声の主もハナマイリのものに違いはあるまい。何の捻りもなく、あっけない事実だった。


「甘夏が、俺のことをねぇ・・・。俺なんてたかが知れてるし、ろくでもないコト話してなきゃいいけど」


俺はひとりごとをつぶやくと、ハナマイリは力を込めて強く主張した


「そんなろくでもないなんて!甘夏くんの言ってた通りとっても可愛らしい子だと思いました!」


・・・・・・ハナマイリも捻りのない真っ直ぐな性格のようだ。


「かっ・・・・可愛いとか、ないですから」


いつも通り突っぱねただけのつもりだったが、咄嗟に出てくる否定の言葉もこれではただの照れ隠しだ。しまった、と思うも後の祭り。自ら招いた失態は頬をさらに紅潮させるだけだった。


(というか甘夏・・・次会ったらシバく・・・!)


行き場のない羞恥心はここには居ない甘夏へと向かう。俺は悪気もなさそうに笑う甘夏を想像して、心のなかでガゼルパンチ。倒れたところを逆エビ固めすることで少し落ち着きを取り戻す。


「コホン。ええと…」


俺はこれ以上この話題を引っ張らせないために、多少強引でも話を終えることにした。


「経緯を見るにお前、ハナマイリさんに用があったんだろう」


今朝のことだが、芙蓉は真っ先にこの場所を目指すと言っていた。理由は別に興味なかったから聞いてなかったが、要はそういうことなのだろう。俺がそう言うと、芙蓉はチラチラと俺とハナマイリを交互に見て


「・・・ちぇ、なんだよ。もう仲良さそうにしやがって。」


小さな声で、ぼそぼそと不機嫌そうに呟いた。口の中でアメを転がす軽快な音が響くが、どことなく居心地が悪そうである。もはや隠すのを諦められた尻尾は、それでも存在を主張するようにふりふりと揺れていた。その姿はまるで子供が拗ねているさまを連想させた。


「あらあら、まぁまぁ。もしかしてそういう?」


それを見たハナマイリはくすくすと微笑んだ。全てお見通し、察しはついたと言わんばかりの表情は、天使のようであり、そのくせイタズラを思いついた小悪魔のようにも思えた。俺にはしょげている芙蓉を見て、どうしてそのように微笑ましくできるのか全く理解できなかったが。


「・・・ああ、そうだよ。そうですよーだ。お前なら相談できそうでここに来たんだ。」


芙蓉は半ばやけくそに言う。すると対するハナマイリは、なぜかますます楽しそうに目を輝かせた。


「えっえっ、どうしましょう!ほんとにそういうお話だなんて!なんだか私、どきどきしてきちゃいました!」


「なんでお前がそんなに嬉しそうなの」


「だって、他の女(おみな)の子と、こんなお話ができるなんて夢にも思いませんでしたもの~」


「お前、友達いないんだな・・・・まぁ、いいや。そんなことより聞いてくれよ。私さ_____」


言うやいなや、芙蓉はハナマイリの袖を取って、少し俺から距離を開け、さっきまでよりも小さい声で話し始めた。女同士の内緒話ってやつだろう。離れたと言っても2,3歩程度なので耳を立てれば聞こえないでもない。

まあ、気にならないかといえば多少は気になるが、この程度の心の機微はわきまえているつもりだ。



・・・・・うーん。


というか霊も、友達って存在に憧れるものなのだろうか。なんだか、いよいよもって人間らしくて、霊ってなんなんだろうなって考えてしまう。見た目は人とほぼ変わらず、しかし人として見るには何かが希薄で、そして決定的に人とは違う。常軌を逸した能力を持つ彼らは、一体何者なのだろう。


芙蓉やハナマイリを見ていると、自分なんかよりよっぽど健全な『人間』に見えてくる。


考えても見れば、なぜ霊は人と別れて存在しているのだろう。こんなに人間らしい感性も知識も理性も持ち合わせているのに、人は彼らの存在を耳に聞く、或いは宗教的な観点からしか認識していない。まるで人から隠れるようにして存在している。

中には人とコミュニケーションの取れない霊も存在するのかもしれないが、それにしたって彼女らのような霊までもがそうする必要はないはずだ。甘夏だって、霊を見ることが出来、実際にコミュニケーションを図る活動を・・・



そこまで考えて、ふと思った。もしかして隠れているのではないんじゃないかと。


俺は芙蓉とハナマイリを見る。今でこそ彼女らはそこに当たり前のように存在しているが、俺はなぜ最初、『ハナマイリを見ることができなかったのか』


俺は霊について甘夏ほど詳しくはない。それどころか、ただの霊にだってこれまで殆ど出くわすようなこともなかった。甘夏と似たような『霊術を扱えるにも関わらず』。


霊術が使えることと、霊感があることは必ずしもイコールではないということだろうか。

俺には想像することしか出来ないが、霊は隠れることをせず、たしかにそこにあり続けたはずなのだ。ならば、霊が隠れているのではなく、人が隠しているのではないだろうか。


霊感のない人間に霊を見ることは出来ない。なんていうのは昔からよく言われていることだ。

心霊写真がとれているのに、現地の人間はその存在を目視できていない例が多数あるのは周知のことだろう。


あくまで憶測にすぎないのだが、もし人間が、彼らの存在を無意識に目視しないようにしてきたのだとすれば?霊感のある人間にだけ霊が見えるのではなく、人々はもとよりある霊感を閉ざしてしまっているのだとすれば?


妄想はますます加速する。



・・・・元をたどれば、呪術なるものが存在したと日本で確認されているのは弥生時代、卑弥呼が有名だ。


彼女は呪術を駆使し、気候を占うなどのことをしてきたという説は色濃く記憶にあることだろう。

卑弥呼が当時の民の頂点に立ったのはひとえにその呪術があってこそだ。だが、だからといって他の人間に呪術が使えなかったとは限らない。

甘夏や俺のように、おそらくその後学たる霊術は今の今まで受け継がれている。にも関わらず、卑弥呼以外呪術を使っていたと記されていないのはいささか不思議ではあるまいか。もし人間が、誰もが霊感を備えていたとして、自ずからそれを閉ざしてしまったと考えれば、これらの疑問に説明がつく。・・・・・ような気がする。

そうなれば、卑弥呼という存在は確立され、その他の人民は唯一霊、神とすら交信ができる彼女をあたかも神のように崇める。これほど完成された統治があるだろうか。


ただ問題だったのはその文明が倒れてしまったのは、肝心の卑弥呼が早逝だったということ。根拠は皆無だが、もしも他に霊感を持つものを残したとして、裏切りの可能性を否定しきれなかったがために、それすら懸念して卑弥呼以外の霊感をすべて絶縁してしまったのではなかろうか。


故に現在、霊感を覚醒するにしても極小数のため、霊についての存在自体が文献に残る程度で、肝心の霊感の記述が少ないのはそのためではないだろうか。


(・・・・うーん。)


一度考えたことを整理しようと振り返ってみて、俺は眉間にしわを寄せずにはいられなかった。

我ながらなんと幼稚な妄想をこさえてしまったやら。こんなん、ラノベにも出来やしない。

厨二病臭さが半端じゃない自分の妄想を振り払いつつ、勝手に感じている恥ずかしさをも忘れるために頭をかく素振りをした。




まぁ、しかし、なんだ。




この妄想が妄想の域を抜けないにせよ。


もしそれが本当だとしたら、霊たちはとても可哀想な存在になってしまう。


だって、それって人間の都合で存在を隠匿されたってことだろう?あんまりじゃないか。


人間らしさにあふれた笑顔を振りまく、彼女らは。


・・・いや、やめとこう。根拠の無いことで同情されることほど、失礼なこともないだろう。


なにはどうあれ、霊はそこにいるわけで、人間により近いところであらゆる営みを敷いている。

そういうものなのだと、思うことにした。



「つーか、蓬。」


「ぅえ?」


突然芙蓉に名を呼ばれ、変な生返事をしてしまった。見れば二人して訝しげな視線を此方の方に送っているではないか。


「どうした。ぼーっとして。それにキョドーフシンだったぞ。キモチワルイくらいに」


どうやら物思いに耽っている時の俺は落ち着きが無いらしい。いや、自覚がないわけじゃなかったけど、はっきり言われると少しぐさっと来るね。しかも2,3歩距離が開いてるだけに、ドン引きされてるみたいで傷心不可避じゃないか。


「お前に気持ち悪いって言われるくらいって相当だな。気をつけるよ。」


だが、タダでは折れぬ。菜丘蓬とはそういう男だ。


「なんじゃそりゃ!」


芙蓉の叫びがこだまして、ハナマイリが可笑しそうに笑った。


「成る程。」


その言葉の意味が俺にはわかるはずもなかったが、おそらくなにか含みがあるのは想像に難くなかった。


「芙蓉さん、一筋縄ではいかないかもしれませんが、ラフにフレンドリーにおしあわせに!」


ますます意味がわからなくなった。


「お、おう!略してラフレシアだな!」


そして俺は考えるのをやめた。恐ろしきかな、芙蓉ワールドの侵略をよしとしないならば、意味を理解しようとしてはならないのだ。芙蓉は少しずつ後退りする俺になおも熱く語りかける。


「考えるな!感じろ!」


「お断りします」


「まったく、相変わらずひでえ温度差だ!」


その松岡○造ばりの暑苦しさには寧ろ冷めてしまうというのが本音である。また、ハナマイリは俺達のやりとりを傍らで「あらあら」と見守るばかりで、介入しようとする気配はない。


まさに春の権化のように微笑む彼女、ハナマイリと何を話したか、芙蓉は真夏の太陽のように、熱く燃え盛っている。どんな氷だって溶かしてしまいそうなほどの熱意は、ちょっと俺にはまぶしすぎかもしれない。

かくいう俺が、例えるならその冬の氷なのかもなぁ…なんて言ったら自意識過剰だろうか。もしここに甘夏がいたら、あいつは秋の風のように芙蓉(なつ)と俺(ふゆ)の間を取り持ったんだろうなと、そんな平和なことを思った。勢いを落ち着かせた甘い夏といえば頓智の利いた名だと思えよう。


ともかく、芙蓉は得体のしれない気合に駆られているし、ハナマイリはそれを応援しているしでこの先俺に平和なんて雀の涙ほどもある気がしねぇ。気合入れるのはいいけれど、人様に迷惑かけるようなことは勘弁な。頼むから。


「だいじょーぶだ。いざとなったら私の神様的ぱぅわーで」


「その神様的ぱぅわーとやらを使わないよう努力してくれ」


「打ち合わせもなしに、よくもまあ漫才みたいに言葉が飛び交うものなのですねぇ」


心底感心したようにハナマイリは言葉を漏らす。何が悲しくて漫才みたいな問答をせにゃならんのか。気が合う合わぬの話ではなく、単にこいつがある意味天才なのだと、もはや疲労さえ感じながら皮肉を交えて吐き捨てた。


(…あらまぁ、ひょっとして想像以上でしょうか。自ら高嶺に咲くことを選んでしまった花を、芙蓉さんは得ることが出来るのでしょうか。阿修羅でさえ匙を投げそうな修羅の道。ですがこれも、数ある恋路のひとつと思うと、これだから世の中退屈致しませんね~…。まぁこれ以上は青柿熟柿(あおがきじゅくし)、人のことを言うに能わぬので、到底口は開けませんが。)


ぎゃあぎゃあと揉め事を言い合う傍らで、ハナマイリは二人を見てそのような分析をした。


コト自体は蓬が心を開くか否か、それだけのとりわけシンプルな話だ。なんだかんだ言っても、表沙汰では無いけれど人と人外の恋愛なんてそう珍しくないことである。例えばギリシア神話を参照にすればヘラクレスやアキレウスとかは有名だ。かと言っても人間同士の恋愛ですら一朝一夕ではないのだから、一筋縄でいかなくとも不思議ではない。珍しくはないと言っても、例もそうは多くない。そういう、結構な複雑性も併せ持っているわけで。

ともかく何が言いたいかというと、二人の関係はとても不安定であるということだ。


(それだけに、この先どんな展開に転がっていくのか、楽しみでは有りますか。)


ハナマイリはそんなことを思って、年を取ったと言われてしまいそうだとほくそ笑んだ。


「そうだ!」


ハナマイリは未だモメ合う俺と芙蓉の間に割って話を切り出した。


「折角ここでお会いしたのもご縁でしょう。お二人のこと、お二人の口からも色々教えていただきたいのですが。」


今日も空は晴れ渡っている。こんなに燦々とお天道様が輝くのだから、会話に花も咲くことだろう。絶好の日和というものだ。


三人の話すすぐそばで、ひっそりとリナリアが風に揺れていた。

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