第13話
GEMを出た後、とある店内での出来事。
芙蓉は言った。
「25センチだって。」
「は?」
俺は耳を疑った。
「だから、25センチだって。店員さんが言ってた」
芙蓉はさっきよりも少し声を張って言う。そのせいで、俺たちは店内の他の客達の注目を集めてしまっていた。
ある者は目を見開き、ある者は視線を落とし、またある者は悔しがるように歯を強く食いしばっている。
俺は一度息を吸い直し、、芙蓉の顔から少しだけ視線を下ろし、「それ」を一瞥した上で芙蓉に問う。
「サバ読んでないよな」
「読んでねーよ」
芙蓉は口を尖らせた。どうやら、別に冗談で言ってるわけでもないらしい。
そうか・・・
俺はそう言ってもう一度、「それ」を見た。
察しのいい人ならもうお気付きだろう。
今どこにいるって、うん。まあ、ランジェリーショップなんだけどさ。
芙蓉の下着を買おうと思って、まさにサイズを測ってもらってたトコだ。
胸の。
(・・・・そんなにあるようには見えないんだけど)
服の上から見る限りでは、なめらかでなだらかな丘が広がっているようにしか見えない。
たぶん、芙蓉の身長は155㎝前後だと思う。
結構、小さい。
それでトップとアンダーの差が25センチ。つまりGカップほどの大きさがあることになる。流石に、にわかには信じがたい。
「な、なんだよその顔。」
「いや・・・身長にしてはその・・・・・・」
ここまで言ってしまうともう遅いような気もするが、すんでのところで口ごもる。
身長の割にはデカイなぁ、なんてこと言えるか。
あれか、これが俗にいう、『着痩せするタイプ』ってやつか。そんなの都市伝説かと思ってた。
芙蓉は眉を寄せて自分の胸元を眺めてポツリと言う。
「でかいの?」
「そんなにストレートに聞かないでくれるかな。一応俺男なんだけど」
率直すぎて面食らう俺。
「な、なんだよ!そんなに信用出来ないんなら自分で見て確かめやがれ!」
「見せんでいい見せんでいい」
ちょっとだけ気になって赤面する俺。
とりあえず、言われたままのサイズのを買って俺達は家路についたわけだが。
道を歩く途中は、なにも会話は生まれない。
芙蓉は何故かそっぽを向いているし、俺は物思いに耽ってたからだろう。
歩きながら今日一日を振り返ってたのだけど。結局今日も振り回されてばかりで。
俺って尻に敷かれる男なのかもな。なんてことを思う傍(かたわ)ら。
オレってこんなに表情豊かだったかな、なんてことに感慨を覚えたのだ。
ところで。
余談ではあるが。
「お姉さまのサイズもお測りいたしますか?」
と、ランジェリーショップの店員さんに尋ねられてしまったのは。
ホント、まさに「誠に遺憾である」の一言に尽きる。
許されるならば叫びたい。俺は男であると。
ただ、この場で男と明かした時に一番懸念されるのは、女装趣味であるとか勘違いされてしまうことなので。俺は敢えて女性を装って、苦笑交じりに「結構です」と答えるしかなかった。
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