第3話 異能と異形の自己紹介
「私は
少女はそう言った。
向い合って座る台所に、一瞬の静寂が生まれた。
狐神。
なるほど。確かに狐だ。俺は少女の姿を見て、すんなり納得した。
犬や猫にしては大きな尻尾をしているし、たまにテレビで見るような、狐によく似た二等辺三角形の耳。髪や尾の色もこれまた見事なきつね色。これだけで十分、狐と見るに足りる容姿だった。
まぁ、容姿だけ見れば。誰が見てもひと目で狐と気づくことだろう。
だが・・・・正直、俺にはこいつが本当に狐なのかどうか、結論付けるのをためらう要素があった。
それは服装。
狐って言ったら、どこぞの漫画やらアニメやら見てたら、たいてい和装してるもんだって思うだろう?
俺も、こいつは和傘を持ってたものだからてっきり和装なんだろうって思ってたんだ。
でもちょっと・・・・いや、だいぶ違った。
なんて言うんだ?こういうの。
敢えて命名するなら・・・・・ヨーロピアンチャイナ、とでも呼ぼうか。
トップスはよくあるチャイナ服っぽい感じなのだが、あの独特のスリットやタイトな感じがなくて、チャイナ風味のジャケットみたいな仕様になっている。ちなみに色は赤色。
それとボトムス。何を思ったか、桃色のチェックのプリーツスカートだった。
ボトムスはともかく、トップスはどこで買ったんだろう。
兎にも角にも、そんな謎い服装なものだから、やっぱりひょっとしたらコスプレか何かなのかも。とか思ってたりしていた。そうか狐神か。なるほど。と半ば自動的に納得した
「えっと・・・・・で?」
「で?・・・・って、驚かねーの?目の前に人外がいるのに?」
「はっきり言ってどうでもいい。」
「どっ・・・・」
「別にお前が何者かなんて聞いてないよ。俺が聞いてるのは、家まで送る必要があるかってことなんだけど。」
こっちとしては早くお帰り願いたいのだ。なんか、関わってると色々面倒なことになりそうだし。
こう言うと漫画の読み過ぎとか言われるかもしれないけど、どうせこういう類の人外娘にはろくでもないものがつきまとってるものだ。例えばどこかの組織に追われてるとか、そうでなくても
・・・・俺はどうあってものんびり生きたい。それこそ隠居生活みたいな。そのためにはこんなトコロでフラグなんて立ててられないのだ。
「私はいいとして、寧ろ襲われる心配するのはお前のほうだろ」
「・・・・・それもそうだ。」
なにぶん、俺もこんな容姿だ。
どこがいいのか知らないが、あのスキンヘッドハゲの一味の反応をみればお分かりいただけるだろうが、どうやら俺は男ウケしやすい顔立ちのようだ。
根が面倒くさがりな性格のためか、どうやら押しに弱い雰囲気をしているらしい。サカリの激しい男はこれみよがしに付け狙うという寸法だ。
「損な人生だな。」
「うるさいな、お前に何がわかるっていうんだ。」
「分かるとも。お前の話や、その『匂い』は。お前は隠してるつもりはないんだろうけどな」
ニヤニヤしながら狐の少女は言った。
「お前、男だろ。ああ、お前からはオスの匂いがする」
まさに核心をついてやったぞ、と言ったしたり顔で狐の少女はこちらを見る。
「む・・・・」
「ほら、図星だ。」
一層少女は得意げに言った。さっき俺がどうでもいいといったことに対する仕返しのつもりかもしれない。
「・・・・・別に慣れたよ。こういう見た目で悪いことばっかりでもないしな。」
「健気なこった」
うぜぇ。さすが
「・・・・論点がずれてるな。とにかく、帰るなら早く帰る。飯もやったし、もうこれで貸し借りなしだろ。」
「え、」
「・・・・・・・?」
・・・・・・え、ってなんだ。
きょとんとする狐娘。俺が言ったことを理解できてないということはないと思うが。
「だから・・・・もう用はないだろ?帰れよ」
「あ、いや、・・・・だからな?・・・・私、狐神なんだよ。」
自分を指さして少女は言う。
話が噛み合ってない気がするのはきっと気のせいじゃない。目をそらしてるあたり、言い難いことを言おうとしてるのは明白だが。
「だから、なんなんだよ。狐神だとなにか不都合でも・・・・」
そこまで言って、はっと俺は気づく。まさかとは思うが・・・・・いや、十分ありえる。
なんか変な
ここまで漫画みたいな展開が続くと、流石にその存在を疑いたくなる。
えっとだな、と目の前の狐神の少女は少し溜めてから、仰られた。
「私、家ないんだ」
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