第10話花火
打ち上げて つかめぬ華は 夏の戀
長岡の大花火をTVで見ながら、今巷で流行っているレモンサワー。少し苦い。
わざと店の中を暗くしてもらい、上がる音、広がる色、飛び散る火花。
海上の打ち上げ花火大会で、花火が爆発するのを見てから、どうしても怖くて、会場で見ることができない。毎年一人で部屋の中から、地元の花火大会を見ている。幸いなことに、家にいても窓を開けると、上がる音が聞こえる。
湯上りに、缶ビール片手にボーっと只々観ている。
もう何年になるかな、一人の花火見物。人いきれも、人混みも、ぶつかることもなく並ばずに、ビールにありつける。
一時間ばかり、立ちっぱなしで。座ると見えなくなるからね。
今年はたまたま行った店がヒマで、ゆっくり花火見物。誰か来ると、TVは消され、カラオケの画面と変わる。もうちょっとだけ誰も来ませんように。
ここの店に現れる女性。一見すると普通の主婦。とても飲み屋の常連には見えない。まして、あっちこち出禁があるなんて、思いもしない。
初対面の男性は大体見かけに騙される。カウンターで、声をかけ、隣に座り、一緒に歌い、気が付くと肩を組んでたりする。そのまま、どこかもう一軒。勿論お会計は男性持ち。この段階ではどちらもいい機嫌で、一緒にFADEOUT。
見ていた私たちは、
「次来るかな、あの男性。別に私たちが取り持ったわけじゃないよね、自分で引っ掛かっただけだよね?」
と、ママ自己弁護。確かに過去のトラブルが思い浮かぶ。
実は私も被害者の一人。昔、店の中で盛り上がってしまい、ついついはしご酒。付き合ってしまったのです。
「私の知ってる店に行こうよ。」
「私そんなに持ち合わせないよ。」
「大丈夫だから、そこは安くやってくれるから。」
ママの顔色を窺うと、ちょっとしょっぱそうな顔をしている。もしかしてやばい人なのかな?思った時すでに遅く、彼女はお会計を済ませ、タクシーに乗り込もうとしている。出しなにママが小さい声で、
「早く帰るんだよ、絶対奢ってもらっちゃだめだよ、二、三千円でいいから、お店の人に渡して帰りな、分かった?」
頷いて、タクシーに乗り込む。
ワンメーターで着いて、料金は私払い。お店のドアを開けると、もの凄い音量が流れている。
「いらっしゃいませ~。」
あっちこちで声が上がる。へえ~結構従業員はいるんだ。
ボックスに座り、おしぼりと、セットらしき焼酎がでてくる。
「ビールとかはダメなの?」
おしぼりを差し出しながら、
「別料金になります。」
全面笑顔の若者が言う。
「そうなの、じゃあ薄めのお茶割りください。」
「僕たちも乾杯させてもらっていいですか。」
「ちょっと聞いてもいい?私ここ初めてだから、料金システム教えてくれる?」
「最初の一時間が三千円で、あとは追加料金が一時間千円。」
「ビールが別料金で、君たちが飲む分は、当然別料金だよね。」
「同じものいただきます。ただ次のボトルは、追加料金。」
「完全キャバクラ女性版?いわゆるメンキャバ。」
「そんなとこかな。」
「わかった。今からスタート?」
「サービスで。」
「飲むか。」
その頃には彼女は、お気に入りの男の子を呼んで、べったり。
三十分くらい経ったところで、トイレに立つふりをして、責任者らしい男性を探して、
「ねえ、タクシー呼べる?そっと呼んでくれる?あの人は置いてくから、わかんないように外に出して。ただとは言わないから、どれくらい置いていけばいい?一万とか言わないよね?」
「セットの三千円で。」
「そう。」
私は五千円を取り出し、
「領収書頂戴。この金額でいいから。あとはあの人からもらってね。」
タクシーが来て、約束道理、彼女にわからないように店から送り出してくれた。
そのあと、何回か彼女とは会ったけど、最初はいきなり、
「この間の割り勘のお金払ってよ。」
「私の分は払ったよ、はい領収書もあるよ。」
私は領収書を見せた。
「セット料金でいいって言ったけど、悪いから、もう少し置いてきた。」
そのあと彼女は、何も言わずにその場を去っていった。
「ママ、助かったよ、耳打ちしてくれて。知らないであのままいたら幾らかかったことやら。」
「そうでしょ、一度一緒に行って懲りたから行かないけど、そしたら他のお客さん誘うようになってね、困ってたのよ。飲み過ぎないと、良い子なんだけどね。」
と、あくまでもホローは忘れない。
半年ほど経った頃ママが、
「そう言えば、彼女あの店、出禁になったらしい。つけ、貯め過ぎて、担当の子と大立ち回りして、警察呼ばれたみたい。それで、経営者から、もう金は要らないから、二度と来ないでくれって。一筆書いたみたいよ。」
「最近はどうしてるの?」
「ここで、男引っ掛けるのは、変わんないけど。」
なんか口ごもる。
「なんか問題でも?」
「ここも出禁にしようかなって。まあそれも可哀そうだしね、行くとこなくなっちゃうしね。」
「何かしたの、お店に迷惑でも?」
「ホストクラブに誘わなくなった代わりに、ラブホテルに連れてくみたいで。」
「すごいね、それもまた。」
「誘うときに、お酒買っていけば、安く飲めるし、つまみも買っていけばいいし、眠くなったら、寝て、朝はシャワー浴びて仕事に行けばいいって。」
「何にもしないで?」
「両方とも何にもしてないって言ってる。」
「本当?信じられない。」
「まあ大体三か月周期かな。男性が変わって新しい男になる。」
「揉めないの?」
「相手の男は、来なくなるか、いないのを確かめてから来る。後から鉢合わせしたら、そそくさと先に帰る。」
「困ったもんだね。」
「言ってるあんただって、いないのを確かめてから来るでしょ?」
「だって、酔っ払ってくると絡むんだもん。めんどい。」
「そのうちに刃傷沙汰でも起きなきゃいいんだけどね。」
「じゃあ、出禁?」
「う~ん、今が試案のしどころ。」
「まあお好きにどうぞ。」
しばらくそこの店から、足が遠のいた。
一年ぶりくらいに、ママから電話。
「しもしも、元気してる?ちょっと面白い話があるから、近いうちに顔見せなよ。」
「わかった。」
一週間後ぐらいに、
「来たよ。」
私のビールを出しながら、
「ねえ、あの子憶えてる?」
「誰のことかしら?」
「分かってるくせに。」
「あの淫乱?」
「そう。」
グラスにビールを注ぎながら、軽くグラスを合わせる。
「乾杯、あんまり美味しそうなつまみじゃないよ。」
「聞いてびっくりよ。」
随分ともったいを付ける。
「あんたが来なくなったころにね、妻子持ちをひっかけちゃったのよ、あの子。」
「妻子持ちじゃ、金が続かないでしょうよ、それに泊まるわけにはいかなくなるでしょ?」
「それが続いたのよ、あの子が金出して、三回に一回はホテルに直行。」
「あらあら、よくばれずに済んだね。」
「ばれた、女房に。ここの前で見張っててね、二人で腕組んで店に入った後ろから来てね。」
「刃物沙汰?」
「なる手前で、勿論店の刃物は全部しまってあるわよ。」
「料理しないもんね。」
「うるさいな。それは置いといて、つかみ合いの喧嘩になってね。」
「いなくてよっかった。」
「なんせ止める人がいないから、もうグラス割れたり、テーブルが倒れたり」
「修羅番場。」
「止めるでもなく見てたそのあと男が、『もうわかった、別れる。帰ろう。』て、言って、なんと女房の腕を掴んで帰っちゃったのよ。もうあっけにとられて何にも言葉も出なかった。」
「それで彼女は?」
「しばらく呆然としてたけどね。それから何度連絡しても繋がらなくて。」
「可哀そうに。」
「気が付いたら、あの子相手のこと何にも知らなっかったみたいで。」
「それはそれは、お気の毒に。」
「そしたらね、しばらく経った頃にまた、新しい相手ができたの。」
「お忙しいっていうか、懲りないというか。」
「でもねやっぱりお勉強したみたいで、ここの店でしか会わないようにしてたのよ。」
ビールのお代わりを頼んで、一口飲んでから、
「それでどうなったの?」
「結婚した。」
思わずビールを噴き出した。
「結婚したって、誰と?」
「その男と。」
「不倫のことその人は知ってるの?」
「勿論。それ以外もほとんど全部。だってここの一番の常連だもの。」
「その人って、ママの元の。」
「そう、元の亭主。」
「笑ってもいいの、この展開。まあ、ママは別れているから、未練はないでしょ?」
「まあね、熨斗つけてくれてやるから、二度と来るなといって、めでたく両方出禁。」
暫し沈黙の後、
「蓼食う虫も好き好きってとこかな。」
この夜のビールは、なんか苦かったな、ママの奢りだったけど。
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