第8話パパ活
その人はいつも、かなり若い女性を連れている。複数の時もあれば、二人だけの時もある。
カウンターで、従業員を交えて談笑しているときもあれば、ボックスで二人っきりでグラスを合わせているときもある。
勿論、男だけの時もある。その時はお店の女性を隣に座らせ、場を盛り上げて、いわゆる接待というやつ。
ある時、一人でカウンターに座っていた。
「珍しいですね、お一人ですか?」
「たまにはね。」
そう言いながら、ウィスキーの水割りを飲んでいる。
「そういうときもあるんですね。」
私はいつものビールを飲みながら、チャンス、と思って話しかけた。
「いつも連れてる女の子って、彼女なんですか?」
「どう思います?」
「付き合ってると思います。根拠は座る位置。」
「うん?」
「男女の中って、距離感だと思うんです。例えば、言葉遣い、しぐさ。した後と前で全然違う。言ってみれば、崩れる。」
「崩れる?」
「そう、たとえば、並んで座るときに、どのくらい間が空いてるかとか、べったりくっついていても、この女の子はきっと嫌いなんだろうなとか。見てると割と当たる。」
「ほお。」
「その気のない女の子を口説いてる男の人って、だんだん哀れになってくる。」
「辛らつだね。」
「でもね、○○さんが連れてくる女の子って、いつも楽しそうだよね。」
「そうなの?」
「自然っていうか、無理してない。これは確信。」
「みんな僕のことが好きってこと?」
「たぶん。」
「君は?」
「私は、好きな人と飲んでる時も、お付き合いっていうか、義理っていうか、本当は嫌だけど、仕方なしで飲んでる時も、変わらない。お金を払っている人が楽しいように、それでいて誤解しないように、思い込まないように、気を付けてる。」
「ちょっと、どういう意味?」
「私と飲んでいると楽しい時間が過ごせる、だけどこれ以上深くなりたくないんだなっと、思ってもらえるようにする。」
「ずるいな。」
「そちらはどうなんですか?まさか飲むだけで、何にもしてないとか、言わないでしょ?」
「まあね、やることはやってるよ。」
「ほら、男はやっぱりそこでしょ。」
「だけど、恨まれないようにしてる。」
「どんなこと?」
「まず、相手を選ぶ。」
「きれいで若い子?」
「違うよ、まず、結婚願望が強くないこと。金銭欲の強くないこと、つまり欲しがらないこと。」
「そんな娘います?」
「相手のプライドを傷つけない程度の、金銭。例えば帰りにタクシーで帰りなって、大目に渡すとか、食事は普段行けないような、高級店。誕生日にはブランド品。」
「すごい。それでも結婚願望が起きないの?」
「そう、相手が贅沢に慣れないよにしてる。一人で生きていけなくなるほどの贅沢はさせない。つまりいつでも元の生活に戻れるように。そして適当な時に放してやる。」
「放してやる?」
「そう、相手が結婚できるうち、子供ができるうちにね。」
目が点。
「相手がどうしようもなくなるまで付き合うから、逃げそこなって、トラブルになる。」
「ん?」
「つまり自分が定年になって、遊ぶ金が減ってくる、離婚するなんて考えられない、相手が重くなる。そうなると。」
「そうなると?」
「いざ別れようとすると、相手はもう、子供も産める年じゃないし、今更結婚相手を探すとなると、何ランクも相手を落とさないと、自分が選らばれない。つまり、この先ずっと一人が決定ってことに。」
「確かに。」
「そうなると、男に執着する。」
「怖~い。」
「そうならないためには、早く手放すこと。何なら相手を探してやってもいい。お古と思われないようにしてね。まあ知ってても、貰ってくれる奴はいるよ。出世のために。」
「どっちに転んでもいいことは無いか?」
「そんなことは無いよ、できる女は男の人脈を利用してのし上がっていくやつもいる。」
「昔読んだ漫画でね、『芥子の花』だったかな、男が付き合う女の人脈、コネ、金を使ってのし上がっていく話だけど、当然相手の女に恨まれて、妨害もされるし、命の危機も、っていう話だけど、そう言う目には合ってない?」
「みんな幸せだよ、たまにあって飲んだりできる、そんな関係だね。」
「いい思い出か。」
「そっちは?人のことばかり聞いてないで、少しは話してよ。」
「いいけど、普通ですよ。」
「まあ、飲んでよ、マスタービール出して。」
新しい生ビールがでできて、
「いただきます。」
乾杯。咽喉を潤したところで、
「大体いつもこのパターンですよ、飲んでて楽しい女に持っていく。」
「それだけ?」
「私ね、めんどくさいの嫌なんですよ、人との関係。」
「たとえば?」
「よくね、どこかのお店で飲んでるとします。来てたお客さんと、多少の会話をして、デュエット歌ったりして、そのうちビールご馳走になったりするでしょ。それでこっちは終わりなんでけど、誤魔化して連絡先を教えなかったりして、帰ると、そこのお店の人から、何日後かに『この前のお客さん憶えてる?また飲みたいらしいから、いついつ来れない?』って。」
「僕もよく使う手だよね。」
「そうでしょう、その頃にはこっちはもう覚えてなし、第一ピンときたら、その場で連絡先交換してるよ。」
「だろうなあ。」
「なんとか連絡先の交換をしないようにして、やり過ごす。その時は相手に払ってもらうけど、その後でばったり会ったとっしても、自分で払う。そうしないといつの間にか、ホステスにされちゃうからね、それに、触られるし。」
「やっぱり触らない人が好き?」
「当然でしょ、付き合ってる人でも嫌だな、人前で触られるの。」
「女心か。二人きりならいいの?」
「好きな人ならね。」
「どんな人なら付き合うの?何で決めるの?」
「最初に会った時に、ビッビッって来た人。曖昧かな?」
「失敗しない?」
「いっぱいあるよ、そんなこと。すぐに嫌いになっちゃうの、困ったことに。」
「相手は納得しないだろう?」
「多分ね、でもガン無視。」
「ひどい女だな。」
「自分に正直なの、何も無理して付き合わなくてもいいし、一人でも全然平気だし。」
「強がり?」
「そんなことないよ、男に執着しないだけ。可笑しい?」
「面白い女だな。」
「そう?よくワンナイトラブって言われる。そんなんじゃないんだけどね。相性が悪いんだよね。」
「どんな男ならいいの。」
「毎週じゃなくて、月に一回か二回会って、連絡も頻繁じゃなくて、勿論干渉しない。他に付き合ってる男がいても怒らない、勿論相手が誰かと付き合ってても文句は言わない。自由にさせてくれる人。変?」
「確かに普通じゃないね、同じこと男に言われたら、普通の女は激怒する、私は遊びの女って。」
「だって面倒くさいんだもの、恋人同士とか、夫婦とか、いわゆる愛人とか。」
「それでいいんなら、僕はどうお?」
ふっと笑って、グラスを飲み干し、
「無理かな?だってわからない人と付き合うから面白いんで、お互いをここまで知っちゃうとね、新鮮味がないもん。このまま飲み友達って言うのがいいんじゃない?」
「失敗したかな?何にも聞かないで、口説けば良かった。今度はいつ来るの?」
「気が向いたら。」
「連絡先の交換しようよ、飲み友達でいいから。」
「今度また会ったらで、いいですか?それも縁だし。」
「そう、じゃあ、名刺あげるから、気が向いたら連絡して。またここで会おうよ。マスター彼女の分僕に付けといて。」
「いいんですか?じゃあご馳走様。」
その時マスターが、
「タクシー着いたよ。」
「じゃあ、お先に、おやすみなさい。」
マスターグットタイミング。
この次に会った時は、どうしようかな?誘いに乗ってみようかな?でも新しい女の子が横にいるかもね。
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