第6話しのびあい
今夜はちょっと高めの店。
ここは料金がちょいと高めの設定。それと営業時間が長い。
行く時間を変えれば、違うタイプのお客さんが現れる。
早い時間は、サラリーマンより、自営業の人が多かったりする。
昔は、それこそ高級クラブで、ブイブイ言わせてたバブリーな人たちが、今は交際費も使えず、お小遣いの範囲で飲める時間にたまに顔を出したりしてる。
それでも、少しアルコールが入ると、気が大きくなって、女の子たちに、
「なんか飲んでいいよ。」
もう少し調子に乗ると、女の子が寄ってきて、盛り上がって、昔取った杵柄でカラオケが始まる。
このまま上手く載せられると、帰るときには、意識は朦朧、財布は軽々、タクシーに乗せられて、帰宅の途に就き、明日の朝、しばらく飲みに行くのはやめようと心に誓ったりする。
だんだん時刻が遅くなると、いわゆるお店のナンバーワンが同伴とかで出勤してくる。どこかで美味しいもの食べて、ちょっと飲んで、ナンバーワンを暫し独り占め。少し照れたように、一緒に入ってくる人たちもいれば、別々の入り口から入ってくる人たちもいる。人それぞれ。
予約席と書かれたテーブルに座り、おしぼり持ってきたヘルプの子に、
「どこ行ってきたんですか。」とか、「美味しかった?」とか聞かれてる。同伴なのはみんな知ってるのか。
そこにお姉さん余裕の顔で、
「お土産貰ったから、あとでみんなで食べてね。」
「○○さんごちそうさまです。」
「私いっぱい食べてきちゃったから、ワインがいいな。」
「持ってきてあげてよ。」
「ありがとうございます。」と黒服、お辞儀をして立ち去る。
ワインが運ばれてきて、乾杯。
「この子たちも乾杯してもいいかしら。」
「好きなもの持っておいで。」
お客さんご機嫌の様子。何かいいことあったのかな?
またカウンターに新しいお客さん。女性一人。
「いらっしゃませ。」
「まだ?」
「今日はまだですね。先に飲んでらっしゃいますか?」
「そうね。GIN FIZZ。」
「かしこまりました。」
どうやら待ち合わせの様子。
しばらくすると、相手が到着。
「まった?」
「うんん、今さっき来たところ、GIN FIZZ頼んだ。」
「バーボンダブル、ロックで。」
「ただいまお持ちいたします。」
お酒が届いて、
「乾杯。」
グラスが合わさる。
どんな関係だろう?今夜はこのまま観察することに。
「最近どう?忙しいの?あっちはどう?」
「別に、あんまり変わらない。向こうも同じ、何が楽しくて生きてるんだか。不思議。」
「親の介護に行ってるんだから、しかたないじゃない。」
「どこまで本当だか。案外向こうも彼女がいたりして。」
「実家に帰っているふりして、君のこと見張ってんじゃないの?慰謝料払わなくていいように。」
「そんなことできないよ、結構気が小さいんだから。疑ってても、プライドが邪魔してできないよ。」
「あんまりバカにしないほうがいいよ、男はいざとなったら何しでかすかわからないんだから。」
「この場に踏み込まれても平気よ、だって何にもないんだから。」
「そうだけど、相手はそうは思わないからね。」
「月に一回くらい外で飲んでもいいじゃないの。自分で働いてるお金で飲んでるんだから。とやかく言われる筋合いはないよ。」
グラスを重ねるたびに、少しづつ身体が近づいていってる。
深くなるのは時間の問題か、それともこのままか。気持ちだけ不倫してるんだね。
だけどパッと見には、いいカップルに見える。
そのまま二時間ほど飲んでは話すを繰り返し、別々のタクシー呼んで帰っていった。
バーテンダーと二人になってから
「何か飲まれますか?」
「ありがとうございます。いつものビールで。」
彼は、ビールサーバーから生ビールをグラスに注ぐ。きれいだな。
「乾杯。」
「何に?」
「さっきのカップルの未来に。」
「あの二人は、ここで会うだけだよ、互いの本名も仕事も知らない。ここで知り合て、月に一回会うだけ。これないときは、ここに電話して伝言を頼まれる。」
「そんなのあり?」
「不思議だけどね、これ以外にも別々で来てて、鉢合わせしても、互いに知らん顔してる。違う相手と来たりもしてるし、わかんない関係だよ。他の人と来てるときは、別の名前で呼ばれてるし。」
「そんなの理解できないよ、結婚もしてるんでしょ。」
「案外本当は夫婦だったりして。月に一回別人になってデートする。」
笑い転げている間に夜は更けていき、お会計を済ませ、タクシーを呼んだ。
帰りの車の中で、本当は夫婦で、帰りのタクシーの中で、日常に戻っていくのかな、なんて考えてみた。
ひと時の恋人とのしのび合い、何事もなく続きますように。
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