第3話カップル

 今日もカウンターウォッチング。

また来てるよ、あのカップル。初老の男性と中年の女性客。

歌がうまくて、人当たりがいいから、割と誰とでも会話をしている。

ただし、これが結構曲者で、どこのお店でもトラブルメーカー。

あっちこっちのお店で、出禁、の二文字を聞く。

駅の向こう側、繁華街じゃないほうの大衆居酒屋チェーンでも、うわさを聞く。

いわゆる札付きのカップル。

別々だといい人たちなんだけどね、酒が入ると、少々人が変わる。

焼き餅も手伝ってなんだけど、彼女の家族の悪口が飛び出す。最低の亭主だとか、できの悪い子供たちだとか、それを聞きながら、一言も反撃せず、笑いながら聞こえないふりをしている。

それでいて、うちのおかあさんは素晴らしい、よくできた嫁だと。

毎度聞かされる身としては、「よく言うよ、この不倫カップルめ、お前らのほうがよっぽど最低だよ。」とお腹の中で毒づきながら、どうぞ今日も巻き込まれませんようにと祈る。

先ほどの居酒屋チェーンでは、男性のほうが別の女性を連れてきていたみたいで、その時の仲間が、彼女がいる前で、「元カノのほうが良かった、きれいだったよね、歌もうまっかたし。」と。

だけど、彼にとっては、いい女のようだ。

以前どこかのお店で、本妻と鉢合わせして、掴み合いまでいかないけど、ひと悶着あったみたい。

いまではお互いの家族が、関係を知っていて、彼女側は離婚話がでてるけど、ご主人が応じないみたいで、子供たちも、自分の家に同居させて、遠くに引っ越しをさせようと相談しあっている。

それなのに、どこ吹く風で、週に一回、二回と会っては、騒いで過ごしている。

別れるという選択肢はないみたい。

 今夜も離れてみていると、お店の女の子たちに、どうやら彼と一緒に歌えと言っているみたいで、

「デュエット曲歌えば。いいから歌っておいで。」

仕方なく、女の子が、

「何を入れますか?『居酒屋』『アマン』『別れても好きな人』?」

ちょっと昭和ににおいがプンプン。

「居酒屋でもいくか。」

曲を入れて、ステージに歌いくいく。

歌っている間に、彼女はカウンターで居眠り。

仕方がないので、目が覚めるまで暫し話し相手になる女の子。

「なんか飲んでもいいよ。」

「疲れてるのかな。」

「そうかもな、朝早くから、バカ亭主の飯つくたり、子供の弁当作ったりしてるかな。」

「パパはその間に、飼い犬の散歩でしょ。朝、私すれ違ったことあるよ。」

「アハハ!声かけてくれればいいのに。」

「だって朝から、鬼のような顔してリード引いてるんだもの。思いっ切りひいた。」

他愛のない会話が続き、また歌をうたいにステージへ。

その時に私は見てしまった、彼女の顔を。無表情な顔で、置いてあった割り箸を袋ごとへし折っていた。

いつも寝たふりして、話を聞いてるんだね、やっぱこの人性格悪いよ。

 何日か後に、またそこのお店で会った時、なんか揉めてる。

なにを揉めてるかと思えば、なんとそこの女の子と、日帰り温泉に行ったとか。

バカじゃないの、その女の子。ただ彼は誰といったかは言わないらしい。

何度か喧嘩を繰り返し、その日は帰っていった。

そのあとで、一緒に行った女の子に話を聞くと、行ったことは行ったけど、別々の温泉に入り、何も食べさせてくれず、戻ってきたとのこと。そのあと彼女は他のお客さんと同伴で、高級すし食べに行ったらしい。

 他のお店で飲んでるときに、その人の話がでて、そこもどうやら『出禁』らしい。

どうやら、酔っ払った彼女が、隣の席の男性客といちゃつきだし、彼が激高したとか。

どっちもどっちの、”ばっかぷる”。

 このさきどこまで続くやら、どうぞ新聞沙汰、週刊誌ネタになりませんように。

円満な自然消滅を祈るばかりです。


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