彼らの夏
あるてま
彼らの夏
彼らの青春は終わったのだ。
軽率にお疲れ様、頑張ったね、なんて言えないから、私達は皆黙り込み、相手校が歓喜に湧く声をぼんやりと聞いた。
わあぁっと、応援席に駆け寄る選手達よりも、こちらの選手の方が小さく見えた。
土にも沢山汚れていた気がした。
応援ありがとうございました、キャプテンの掠れた声は、心に熱い湯を掛けられたように響いて、痛かった。
嗚咽を押し殺したチーム全体の方は震え、今にも消えてしまいそうだ。
挨拶を終え、そのまま頭を上げない者。
その背中を無言で抱き寄せる者。
堪えきれずに膝をつく者。
今までの練習の成果が、こんなにあっさり形で出るなんて。
眉を歪ませる彼らの心中は、察してはいけない気がした。
踏み入ってはいけない。
何もかもが詰め込まれたあの清く真っ直ぐなハートには。
夢ならば良かったのに。
その言葉さえ、言うのを憚られた。
彼らは暫くは空虚感に苛まれるだろう、そのやりきれなさに、幾夜か涙を流すだろう。
現実を理解し、慣れるまでは。
そう思っただけで、こちらまで泣いてしまいそうになる。
けれど、応援の消えたグラウンドの虚しさに、私は何故か羨ましさを覚えた。
いや、私が経験したものより、あれらはきっと濃密であるに違いない。
「オーオーオーオーオオオーー」
低くて合わせづらかったあの応援が、やけに耳にこびりつき、後味の悪さを引きずっていた。
彼らの夏 あるてま @arutema
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