六章:ジジイの涙

第65話ザコ魔王軍の快進撃

 ベルゼの城から山をひとつ越えた向かい側に、魔王ソルの領地が広がっていた。城というよりも巨大な砦といった無骨な建物を中心に、いくつか小さな砦が配置されており、部下を分散して領地を守らせる形になっている。


 その砦をベルゼの部下が攻め落とし、すぐにソルの部下が取り返すということを繰り返し、という膠着状態が続いていた。


 しかし、その均衡を破ったのは、新たに現れたベルゼ側の部隊。

 魔王シャンド率いる、たった一隊の力だった。


 城の前に立ち塞がる砦を落とし、シャンドの部隊はそのまま勢いに乗ってソルの城へと向かう。

 人とばれぬよう、途中で調達した魔物の毛皮で作られたフード付きの外套を着たランクスたちが、先頭を走ってシャンドたちの道を切り開く。魔界にいることで本来の力は出ないまでも、手下クラスの魔物ならばあっさりと倒してしまう。


 だがカシアは相変わらず力が入らず、ワーライオンに背負われて、最後尾につき続ける。


 魔界に来たら、こんなに弱くなるなんて思いもしなかった。戦うどころか、少し歩くだけでも体がだるくなるなんて……今の情けない状態じゃあ、自分の舎弟やランクスたちが危機に陥った時になにもしてやれないと、心ばかりが焦った。


(ギードは見返したい。でも、また仲間を失うなんてゴメンだ。せめて一番危険そうな杖を奪う役目は、アタシが請け負ってみせる)


 カシアは密かに心を重くしながらも、自分がどう動けばいいのかを考え続けていた。

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