第66話魔王ベルゼと魔王ソル



 ソルの居城まで迫り、シャンドの部隊は近くの森に身を潜めて本隊の到着を待つ。


 一刻後、三つ首の魔犬ケルベロスにまたがったベルゼが、部下を率いてやってくる。出迎えるためにシャンドは前に出ると、うやうやしく頭を垂れた。

 ベルゼはケルベロスの上から降りずに、シャンドを見下ろす。


「とてもよい部下をお持ちじゃな。おかげで我々も余力を残したまま攻め込める」


「ありがとうございます。ただ、私たちの強さではソルに一矢報いることはできません。ベルゼ殿の強さだけが頼りです」


 おだてられて気をよくしたベルゼが、満足げにうなずく。

 と、不意にベルゼはカシアを凝視してきた。


「ところでシャンドよ、あそこに背負われている者がおるが、ケガでもしているのか? 後方には支援部隊がおるから、手当てに向かわせて構わぬぞ」


 こんなところではた迷惑な優しさを見せるな、このメェー魔王。

 心で悪態をつきながらカシアが冷や汗を流していると、動揺を見せつつもシャンドが首を横に振った。


「細やかな配慮、感謝いたします。ただ、元々あの者は足が不自由で、いつもああやって背負われながら、魔法を駆使して戦っておるのです。心配には及びません」


「そうか、ならば活躍を期待しておるぞ」


 さしてこちらの正体を気にせず、ベルゼは本隊を前進させてソルの居城へと向かう。

 仰いでも上が見えない巨大な扉の前まで進むと――閉ざされていた扉がゆっくりと開いた。


 現れたのは人間界の獣にはあり得ないほど大きな体の、熊や狼や牛などの魔獣の群れだった。どれも口から凶悪で大きな鋭い牙を覗かせ、鼻息荒くしながらこちらを睨んでいる。


 そして後方には、漆黒のなめし革で作られた服を着た魔王ソルが控えていた。

 シャンドの部下のワーウルフとは体の大きさも数倍違い、胸板は分厚く、服の胸元から立派な胸毛がはみ出ており、見た目に力強さや勇ましさが伝わってくる。


 ソルの隣には、巨大な鳥の体に白目を剥いた女の顔を持った魔物ハーピーが羽ばたいており、その手には真っ黒で、ルカが言った通りの禍々しそうな杖が握られていた。


 目ざとくカシアは杖を見つけ、目を見開いた後に顔をしかめる。


(あんな所にエナージュの杖が! 探す手間が省けたけど……こっちのほうが厄介だな)


 ランクスたちに目配せすると、彼らもすぐ杖に気づき、各々に険しい表情でうなずいた。

 こちらの思惑に気づく様子もなく、ベルゼの部隊はさらに前進し、ソルと向かい合った。


「久しいのうソル。今日こそお前が貯め込んだ宝物と配下の魔物をいただこう」


 ベルゼの挑発に、ソルはフンッと鼻を鳴らす。そしてハーピーに目配せして杖を持って来させると、左手で握り取った。


「誰がお前などにくれてやるか! このオレが自ら相手をしてやるんだ、今日こそは貴様の命をいただいてやろう」


「やれやれ……筋肉バカの貴殿に、このワシが討てると? 笑止の至りじゃな」


 互いに声を押し殺してひとしきり笑うと、ほぼ同時に真顔となる。

 それを合図に、双方の魔物たちが雄叫びを上げて戦い始めた。

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