第39話ランクスの狙い
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昼前に村へ戻ってきてから、ランクスはカシアの特訓をエミリオに押しつけて、村の外れにある訓練場へと足を運ぶ。
より多くの者が己を鍛え、手合わせできるようnに村の広場よりも大きく作られており、いつも農作業などを終えた村人たちが午後からやって来る。そのため、今の時間に人がいることは少なく、悠々と剣を振るうことができた。
だが、今日は珍しく先客がおり、彼はランクスに気づくと槍を振るうのをやめてこちらを見た。
「よお、リーンハルト。こんな時間に訓練なんて珍しいな。いつもは森で獣や魔物を狩って、エマさんの所へ運んでるのに」
朗らかに挨拶してランクスが手を挙げると、リーンハルトは無愛想な顔を向けてくる。
「お前が来るのを待っていたんだ。ランクス、少し時間を貰うぞ。カシアのことで話がしたい」
昨日のやり取りで、なにか言い出すだろうとは思っていたが、案の定だったな。あー面倒くせぇ。
ランクスは煩わしそうに息をつくと、リーンハルトの前に立った。
「安心しろよ。師匠たちの攻撃に巻き添えは食らってねーし、気圧されるどころか反発してやる気が上がっていたし、まったく問題なかったぞ」
「それは結果論だろう。……それよりも、私が聞きたかったのはまた別のことだ」
別のこと? 予想がつかずランクスが頭を悩ませていると、リーンハルトが言葉を続けた。
「アイーダたちから経緯は聞いた。お前からカシアに鍛えてやろうと言い出したらしいな。魔物退治の依頼を押しつけるために、鍛えてやったんだと言っていたな?」
「ああそうだな。それがなんだって言うんだ?」
それは事実だとランクスは軽くうなずく。
リーンハルトはためらいがちに、ゆっくりとした口調で尋ねた。
「……ランクス、本当の目的はなんだ?」
ランクスの顔から表情が消える。
しかし挑んでくるようなリーンハルトの視線を逃げずに受けとめ続ける。
沈黙して平静を取り戻すと、ランクスは頭を掻きながら口を開いた。
「別に。こんな娯楽の少ない村に、いいヒマつぶしが来たと思っただけだ。深い意味はない」
「暇つぶしの割には、少し焦っているように見受けられるが? これがカシアと同じ強さの別人だったら、ギード師たちの戦いぶりを見せたのか? いや、それはないはずだ。今までこの村に来た者たちには、もっと強くなってから見せるようにしているからな」
確かにリーンハルトの言う通り、今のカシアと同じ力量の別人ならば、このタイミングでギードたちの戦いを見せたりはしない。
あまりの現実離れした強さに自信をなくし、強くなることを諦める者が実際に何人もいる。死人は出ていないが、流れてきた斬撃や魔法でケガをする者もいる。見学させるだけでも、かなりの技量は必要だ。
ランクスはため息をつくと、険しい表情を浮かべる。
「あまり突っ込んだことは聞かないでくれ。……まだ誰にも言えないんだ」
ここでリーンハルトに真意を伝えることができれば、どれだけ気が楽になるだろうか。
けれど、言えば取り返しのつかない状況になるかもしれない。
今の流れを変える訳にはいかない。
次第に有無を言わせまいとして、ランクスの目に力が入っていく。
こちらの思いを察してくれたのか、リーンハルトは怪訝そうな顔をしながらも「そうか」と引き下がってくれた。
(ったく、変なところで細かいことに気づくヤツだな。他の連中だったら気にもとめないぞ)
そんなことを思いながらもランクスは口にせず、「せっかくだから、稽古の相手になってくれ」と剣を構えた。
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