第9話最強のジジィに鉄槌を
息をとめた瞬間、カシアは全力で駆け出す。
狙うはギード。
その大きな背中にカシアが迫っても、彼は振り返らない。
(油断しやがって。意地でも痛い目見せてギャフンと言わせてやる!)
カシアは跳躍し、ギードの首へ短剣を突き立てた。
しかし、手に伝わってきたのは、肉ではなく岩のような感触。
ギードの首から血は吹き出さず、代わりにカシアの短剣が根本から曲がっていた。
「ちょっと待てーっ! いくら強いっつっても、剣でブッ刺してもかすりキズさえつかないってあり得ないだろ。ジジィ、実は人間じゃないだろ!」
思わず口から出たカシアの叫びにギードは足をとめた。
「俺は人間だ。鍛えれば誰でも弱点ぐらいなくせる」
「それでも限度っていうもんがあるだろ! ふざけた体しやがって……っ」
カシアは苛立たし気に舌打ちすると、再びギードへ飛びかかる。
今度は鍛えようがない目玉を狙い、カシアは指で思い切りよく突こうとする。
「フン、遅いな」
わずかに顔を後ろへ引き、ギードはハエを払うかのうような手つきでカシアの腕を弾く。
全力でくり出した突きがあっさりいなされてしまい、負けてたまるかと再びカシアはギードへ挑む。
あらゆる方向から殴ろうとするが、その度に手を払われる。当たったとしてもカシアの手が痛くなるだけで、ギードはビクともしなかった。
(ここまで力の差があるなんて……)
何をしても通じない現実に、拳を振るいながらカシアは愕然とする。
今までがむしゃらに動けば何かしらの道が切り開けた。それが散々だった義両親の元から離れ、盗賊団で生きていくために身に着けた手段――それが余りにも通じなくて、今まで築き上げた生きる土台がガラガラと崩れていく。
疲れが出始めてカシアの拳が大振りになる。全身に鈍痛が広がり、体のどこもかしこも重たく感じて仕方がない。それでもここでやめれば自分が惨めになる気がして、歯を食いしばりながら虚空に拳を飛ばした。
「絶っっ対……ブン殴るっ! 避けんな、体だけの脳筋ジジィっ!」
残る力を振り絞り、息を切らせながらギードを殴り続ける。
ギードから大きなため息が聞こえてきた。
「まったく、ガキはうっとうしい」
ぼそりとつぶやいた低い声とともに――カシアの横っ面に大きな衝撃が走った。
目の前が白くなり、息ができなくなる。
体が宙に舞い、背中が地面へ着いた瞬間、カシアの意識は途切れた。
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