第10話アタシ死んじゃった?
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(……みんな無事に逃げられたかなあ)
真っ暗な視界の中で、カシアは何度も仲間の安否を考え続ける。
仲間を守りきれなかったら、殺伐としたロクでもない人生を無駄死にで終えることになる。情けないことこの上なくて泣けてくる。
今すぐにでも起き上がって、みんなの無事を確かめたい。けれど、体は異常なまでに重く、身動きが取れなかった。
(死んじゃったのかな、アタシ……あんな規格外のクソジジィのせいで)
ぼんやりとギードの顔が浮かび、胸の奥底から悔しさがこみ上げてくる。
半ば強引に押しかけて盗賊団の仲間になって、みんなの足を引っ張りたくない一心で、がむしゃらに自分をを鍛えた。度胸を見せるために強そうな用心棒などを相手に先陣を切って戦い、傷だらけになったこともある。それでも強くなることを諦めずに挑み続け、今の自分がある。
そんな必死の足掻きが、あの老人の虫ケラを扱うような手で、すべて水の泡になった。
考えれば考えるほど怒りが湧き出てくる。そこでようやくカシアは我に返った。
(ん? 死んだ人間って、こんなにあれこれ考えられるもんなのか?)
もしやと思い、カシアはゆっくりと自分の指を動かす。ぎこちなかったが、指が動いているという感覚がある。
指先に滑らかな布がこすれ、体が心地よい温もりに包まれていることに気づいてハッとなった。
(アタシ、生きてる!)
驚きとともに、カシアは硬く閉じていた瞼を開けた。
カシアの視界に広がったのは、格子状に組まれた木が剥き出した天井だった。
少し頭を動かして右側を向くと、間近にカーテンを閉めた窓が見える。カーテンの隙間からは白い光が差し込んでおり、それを目で追いながら左側に顔を向けると、閉ざされたドアまで光は伸びていた。見たところベッドから一歩、二歩でドアに辿りつけるような狭い部屋だ。
頭がだいぶ冴え、自分がベッドに寝かされていることに気づき、カシアは体を起こそうと手に力を入れる。まだ体は重く感じたが、どうにか起きることができた。
(ここは一体……)
状況が飲み込めずカシアがぼんやりしていると、ドアの取っ手が静かに回った。
思わずカシアは片膝を立て、いつでも逃げられるように窓へ手をやる。
扉が半分開き、そこから眉がくっきりした気の強そうな女性の顔が覗く。
カシアと目が合い、女性は「やっと起きたわね」と苦笑しながら部屋へ入ってきた。女性の割に背は高く、長く艶やかな甘栗色の髪を後ろで束ねている。少し骨太な体格が、彼女に男顔負けのたくましさを生んでいた。
「そんなに警戒しないで。私はアイーダ、この村の住人よ。昨日、瀕死のあなたを預かったの」
アイーダがその場を離れ、すぐに部屋へ戻ってくる。その手には木のコップが握られていた。
「ほら、お水。昨日の昼間からずっと寝てたのよ、喉が乾いてるんじゃないかしら?」
言われてカシアは、口の中がパサパサしていることに気づく。
用心しながらアイーダがそっと差し出してくれたコップを、カシアは奪うように取り、一気に水を飲み干した。
「ねえあなた、名前はなんて言うの?」
アイーダに尋ねられ、カシアは濡れた口元を指で拭ってから答える。
「……カシア」
「そうカシア、いい名前ね。元気そうでホッとしたわ。だって昨日ここへ運んだ時、あなた本当に死にかけてたし、頬もひどく晴れ上がって痛々しかったのよ。しっかり治療したから、もう治ってるけどね」
目をアイーダから離さずに、カシアは自分の頬に触れる。腫れた感触もなければ、痛みもない。
どうやって治したのだろうかとカシアが気にしていると、家の外からノックの音と、「アイーダ、いるか?」というランクスの声が聞こえてきた。
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