第6話 黒歴史と冒険者
眼前に広がるのは、中世のヨーロッパを
感じさせる街並みに、道を行き交う様々な人々。
上田君曰く、ここはゲーム序盤の街、
城塞都市オーディナリ。
商業が盛んな街らしい。
ドイツにあるカルカソンヌに良く似ている。
おお、猫耳や犬耳をつけた人もいるね!
これぞファンタジーって感じだよ!
看板を見る限り日本語っぽいし、言葉通じないってパターンも無さそう。
あの手の世界に飛ばされた人にはら本当に同情を覚える。
別の言語を1から覚えるなんて、開幕詰んでるようなもんだよね……。
日本語が使われている所から見ても、やっぱりよく似た異世界では無く、ゲームの中なのだろうと思う。
しかし、先程から凄い見られてるな。
黒髪や服装が珍しいのかな?
見た限り茶髪や金髪が多いし、銀髪の子もいる。
メイドを引き連れている貴族風の人もいる。
もしかして、恥ずかしがっていた銀髪メイドスタイルが、こちらの世界だと溶け込んじゃった?
…ま、まあ私も実はこれ狙って、この服と髪にしてたんだよね〜。
……
「長かった〜ようやく着いたね!」
雪が伸びをしながら呟く。
「でも雪、後半足くじいてからほとんど上田の背中にいたじゃん」
まさか平坦な道であそこまで勢いよく、転べる人が居るとはね……。
あれは驚いたよ……。
それにしても上田君終始ニヤけてたね。
雪の柔らかい体を堪能して満足したかな?
まあ雪は可愛いしエロいからね仕方ないよ!
ドジっ子で、保護欲を掻き立てるあの感じだしね。
これは、意識しちゃったんじゃないの?
ってちょっと待って、これもしかして雪がヒロインで、私がかませ犬になるってパターンって奴?
それはまずい……。
「はい注目!」
山田君がパンパンと手を叩き、全員が山田君を見る。
えーとなになに、
山田君の話をまとめるとこうだ。
現在金が無く、寝場所も確保できないこの状況で第一に行う事はまず稼ぐこと。
それには上田君曰く、冒険者が良いらしい。
冒険者になるには、冒険者ギルドに行き登録する必要がある。
冒険者と並行して行いたい事は、この世界について知る事と、この世界の住人と交流を行い、関係を深める事。
しかし、現在このメンバーは見た目から非常に注目を集めている。
このように目立つ大勢に対して、関わろうとする人は少ないんじゃないか。
それならば、我々は少しでも目立たないように少数で動き、この世界の住人と冒険者パーティを組んだりして、親睦を深めようという訳だ。
そこで、今後この街で少数ペアごとに別れて行動し、定期的に集まるという方針にした。
私は伊藤君の進言で、上田君と組む事になった。
でも上田君と2人は、まだちょっと気まずいな…。
上田君が他の女の子と組んで、かませポジになるのは嫌なけどさ……。
「そんなに嫌な顔しないでください柊さん。
上田を監視して、制御しておく事は重要なのです。
男の我々よりも、上田が気になっている柊さんの方が御し易いという判断ですよ。」
ボソッと耳元で伊藤君が呟いた。
「それなら、私より雪の方がいいんじゃないの?」
凄いニヤニヤしてたし。
「上田が気になっているのは、柊さんで間違いありません。
ここまでの間、上田が柊さんをチラ見した回数は272回、その内胸が102回、足が154回、残りはその他です。」
…
上田君どんだけ私の胸と足見てるの⁈
正直やばいよ?
でもそれ以上に、その回数を細かく数えていた、伊藤君の変態っぷりにはドン引きだけどね……。
まあでも今後を考えると上田君に好かれるのは、良いことなのかな?
何だか、すごい複雑な気持ちだけど……。
ってもうみんな動き出しちゃってるし!
ここは吹っ切れて行くしな無いよね。
「上田君私たちも行こっか」
上田君の袖を引いて促す。
「…そうだな。」
あっ、絶対今胸見た。
このメイド服少し露出多すぎかな?
ファンタジー味わう為にも、服新調しないとね。
********************
現在冒険者ギルド前。
只の居酒屋なんじゃないの?って感じだけど
店の上に、大きくHunterGuildって
書かれているから合っているのだろう。
ウエスタン風の両開きドアを開けると、屈強そうな男達がギャハハと笑いながら酒を煽っている。
うっわ 酒臭!
上田君は気にした様子も無く、奥にいる受付嬢らしき人の所へ進み、私も後ろをついていく。
「おい、ちょっと待てよにいちゃん!」
上田君の前に、タチの悪そうな大柄な男が立ちはだかった。
周りはそれを見てゲラゲラと笑っている。
「可愛い従者を連れて、どこの金持ちの坊ちゃんが、ここは場違いだぜ?
女を置いて出てったほうが良いんじゃねえか?」
ニヤニヤと私の方を一瞥する。
なんか、凄いお決まりな奴きたな……。
「…フンッ」
上田くんは男の顔を一度見ると、鼻で笑い横切る。
「おい!ちょっと待ってよ。」
キンッ
男が上田君の肩を掴もうとした瞬間、
刀の柄を指で弾いた。
バサッ
「え⁉︎」
嘘でしょー!
私は慌てて目を覆う。
男の衣服の全てが、足元に落ちた。
男は一瞬何が起こったのか理解できず、
キョロキョロ周囲を見渡した後、
生まれたままの姿になって居る、自分の体に気付いた。
「お、覚えてろよおおお!」
男は叫ぶと、慌てて外に飛び出して言った。
周囲ではどよめきが起こっている。
上田君は何事も無かったかのように、再び歩を進める。
一方私はその場で立ち尽くす。
…いや無いわー
上田君無いわー
見たく無いもの見ちゃったよ。
乙女の前で、中年のおっさんを全裸にするってヤバくない?
上田君の見せ場だったかも知れないけど、むしろ私の評価マイナスだよ!
周囲から嬢ちゃん顔赤いぞ!ってからかいの声が上がってるし、本当に最悪……。
強さ以前に、紳士としてのあり方を学んて欲しいものだよ……。
心の中で愚痴を零しながら、上田君を追って受付嬢の所までたどり着つく。
「では、パートナーの方も手をかざして下さい。」
もう始めちゃってるのね。
魔法陣の書かれた巻物の上に手を乗せる、
私の体が白く光り、その光が巻物の中に吸い込まれていく。
「はい、もう大丈夫ですよ。」
はや!もう終わり⁈
受付嬢にカードを受け取る。
冒険者 ランクF
ヒイラギ カエデ
No 1234 5678 9012
ランクFか、クエストをこなすごとに徐々に上がって行く感じかな?
「あそこにある掲示板の中から、自分に合ったクエストを選んで下さいね。」
指された掲示板には、複数の紙が貼られている。
うんいいねいいね、これぞファンタジーって感じだね!
先程大きく削られたSAN値が、回復して行くのを感じる。
「じゃあ上田君行こっか!
ん?どうしたの上田君?」
上田君が目を見開き、もう一つの受付窓口にいる人物を見つめている。
そこなは忍者風の格好をした少女が、アホ毛を逆立てて、受付嬢と何やら揉めている。
「なんで、私が冒険者になれないんですか⁉︎」
そう訴えかける少女に対して、困り顔の受付嬢。
「…ゆ、ゆあ⁈」
「え?上田君知り合いなの?」
少女のアホ毛がピクンと反応し、此方を振り向く。
その後、少女の目には涙が溜まっていく。
「と、殿ぉおお!」
勢いよく上田君に飛びついた。
「ずっと探していたんですよ⁈」
上田君のお腹辺りに顔をこすりつけ、ワンワンと泣き喚いている。
急な出来事で驚いて居る上田君、
訳わからないと言った様子で立ち尽くす私。
え?どういう状況?
少女が一通り泣き、落ち着いた所で話を切り出す。
「えっと、上田君?説明して貰っていい?
その少女は誰なの?」
「…実はかくかくしかじかでな。」
「な、なるほどね…」
どうやらテストプレイ中、上田君は一国の当主になっていたらしく、配下も居たらしい。
ある日急に消えた当主を探して、ここまで来たのがこの少女。
道中お金を落としたこの少女は、冒険者となり、稼ごうとしていたらしい。
最早これはゲームの世界に転生で確定か?
当主になったり、配下が出来たり中々自由度高いゲームだったんだね……。
「う、上田君当主だったなんてす、凄いね?」
「…ま、まあゲームの中でな」
何んだか絶妙に気まずい雰囲気になった、上田くんと私。
ピクッとアホ毛が反応した少女。
そのアホ毛はセンサーか何かですか?
「上田君って誰のことです?ここに居らせるお方は、この大陸の北部武蔵の地を治める者にして夜叉城の城主!
月神帝様その人ですよ!」
少女は鼻高く上田君を紹介した。
「へ、へぇ…、上、いや帝様って凄いね?」
「当然です!」
えっへんと胸を張る少女。
「…やめてくれ……。」
赤くなった顔を隠す上田君。
人の黒歴史が暴かれる場に、直面するのがこれ程気まずいとはね……。
「それにしても、あなたの格好を見る限り
殿の従者か何かですか?」
「…ゆあ、違う。この人は今はそうだな、
パートナーみたいなものだ。」
「パ、パートナーですか⁈
ああ、城で華蓮様が待っておられるのに、
急に何処かに行かれたと思ったら、他の女の人を誑かしていたなんて…
華蓮様になんと言い訳すれば……。」
何だか壮大な勘違いしてるよね?この子。
「ゆ、ゆあちゃん?私達そういうのじゃ無いからね?」
頭を抱えて、1人で盛り上がっちゃってる少女に話しかける。
「…しかし、殿は1国を治めるお方…
1人では満足されないのも、致しかな無しですか…。」
もう周りの声が全く入って居ない様子だ。
「分かりました!」
何が⁈
バッと急に顔を上げると、私の前にまで来た。
「あなたのお名前を教えて下さい。」
グイグイくる少女に押され気味になる。
「柊 楓だけど…」
「では、楓様。楓様も華蓮様と一緒に
我が偉大な殿をお支え下さい。」
え?何でそうなるの⁈
「…ちょっと待つんだゆあ!」
上田くんはゆあちゃんの口を抑えると、
隅にまで連れて行った。
「殿は楓様がお気に入りでないと?」
「…いや、そういう訳では……。」
「なら決定ですね!」
2人で何やら話し合ってる。
笑顔のゆあちゃんと、複雑そうな顔をして居る上田君が、こちらに歩いて来た。
話し合いは終わりかな?
「2人とも落ち着いた?ならまずは方針を決めようか。」
「…ああ、そうだな。」
「方針?殿と一緒に一刻も早く、国がに戻り以外ないでしょう」
それって私もだよね?残るか付いて行くかなら、当主という肩書きまで持っている上田君一択だけど、急だな……。
みんなにも話さないといけないし…。
「…しかしゆあも金がないのだろう?
なら一度ここで金を稼ぐべきだな。」
「でも、ゆあは冒険者にはなれないのです……。」
アホ毛がぐたりと垂れている。
「…問題ない。金ぐらい俺がすぐに稼いで見せるさ。」
「と、殿〜」
再びアホ毛が元気になった。
いや、犬か何かかな?
「…まずは、適当にクエストを受ける。
それと同時進行で、彼女も鍛えるとしよう……。」
上田君は掲示板へと歩いて行った。
「女同士、殿をを支えましょう楓様!」
ガシッと手を掴まれる。
「そ、そう、ね?……。」
何だか、凄い事になってきた……。
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