翔太
06. mix
自室のチェアに半ば埋もれるようにして座りながら、翔太は三台並んだスクリーンを見つめていた。
フィジカルのスクリーンを複数台並べるのは今では珍しい事ではある。
しかし翔太は、これが一番自分に適していると思っていた。
現物のスクリーンを並べたデスクの上には、瞳に直接照射するタイプの仮想スクリーン装置がもちろん据えてある。
これによって、フィジカルなスクリーンの上に仮想スクリーンを重ねるのが、翔太のやり方だ。
瞳に照射するスクリーンだけで、仮想スクリーンをいくらでも重ねる事も当然できる。
しかし、それだとどうしても翔太は少し混乱してきて、直感的に操作できなくなっていく。
基礎となるフィジカルのスクリーンの上に、照射タイプのスクリーンを重ねてレイヤーを作る事で、翔太の思考は整理される。
ポピュラーミュージックシーンにおける今のメインストリームの音は、八十年代から九十年代初頭のシンセサイザーにインスパイアされたヴィンテージな音だ。
翔太もこの音はもちろん気に入っていたので、今回もこの音の質感を採用することにしていた。
今取り掛かっているのはメロディのほうで、今回翔太が注目していたのは五十年代のアメリカン・ポップスの陽気でシンプルこの上ないメロディだ。
平凡な日常をいろどるのに、あれほど優れた音楽を翔太は他に思いつかない。
それで翔太は直感に従って、『アメリカン・グラフティ』と『スタンド・バイ・ミー』のサウンドトラックをフォローした。
次にファッツ・ドミノとチャック・ベリーを加えた。
翔太の使用しているサウンドミックスソフトは、つづいてリトル・リチャードとジョン・リー・フッカーをレコメンドしてきたが、翔太はリトル・リチャードのほうだけをフォローした。
ポップスよりもほんの少しブルージーにしたいが、あまりブルーズ寄りにもしたくなかったからだ。
翔太が想定しているのは、しょせん日本のリスナーだった。
つづいてミックスソフトはジェリー・リー・ルイスとエラ・フィッツジェラルドをレコメンドしてきたけれど、翔太はこれを無視した。
これだけシンプルなサウンドなら、参照材料はこれだけあれば十分だろう。
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