第25話 家畜の仔は家畜
●家畜の仔は家畜
「正樹。サニー君をお風呂に入れて。その間に、ご飯の用意しておくから」
「パティーは?」
「サニー君が遊びに来る前に入れて置いたわ」
「わん! わん!」
お仕事の時間じゃないので、頻りに飛び付いて甘えて来るパティー。確かに汗の匂いはしない。
「母さん。パティーの体重って今いくつだったったけ?」
「十五キロちょっとよ。体長は七十センチちょっとだった筈」
薬や埋め込みチップで成長を抑えているけれど、やっぱりマロンちゃんより二回りは大きい。
だよね。僕と同じ歳なんだから。
「パティー。抱っこして欲しいかい?」
「わん!」
十五キロなら幼稚園児位だ。僕でも抱き抱えられる筈。
「よいしょっと。パティーはすっごくスマートだね」
腰骨の上に乗せたパティーを、前足を肩に掛けさせ後ろ足で抱き付かせる。
そして手でお尻を支えるとかなり軽い。さっき抱っこしたサニー君よりも軽い。
「ずーっと抱っこしてても平気だよ」
そう言うと、パティーのちっちゃな尻尾は僕の腕をくすぐる様に動く。
身体のサイズなど、毎日のお風呂で把握している筈だったのに。こうして抱っこしてみると改めてパティーの小ささに驚かされた。
何だか堪らなく愛しくなって、
「ありがとう。パティーはこんなちっちゃい身体で、僕の為に頑張ってくれているんだね」
とお礼を言うと、
「くぅ~ん」
とっても可愛い声で啼き、ペロペロと僕の顔を舐め回して甘えるパティー。
「パティーは本当に正樹が大好きね。そのうちお嫁さんにして貰いましょうね」
「わん!」
どこまで本気か判らない母さんの言葉に、まるでちっちゃい子のように素直に答えるパティー。
「正樹も本気で考えておいてね。成長を遅らせているけれど、正樹がお勤めを始める数年先にはパティーも成犬になって、仔犬が産める身体になっているはずよ。
人犬が産む仔犬は人間の形で生まれてるけれど、そのままでは人権が無いのは知っているわね?」
「うん。メスの人犬が産んだ仔は、生まれながらのヒューマンアニマルに為るんだよね」
大半は生まれて直ぐに加工されて動物として生きて行く。
ごく一部。人間の姿のまま買い取られて、飼い主さんの養子にして貰える幸運な仔だけが人間として生きて行く事を許される。
だけどそれ以外は遅かれ早かれヒューマンアニマルに加工され、愛玩用・使役用の動物になる。
最初は品薄で高価だった子供のヒューマンアニマルも、僕の生まれた頃にはありふれた物になって居た。それは二世代目や三世代目のヒューマンアニマルが生まれて来たからだ。
例えば人犬同士の交配や、愛玩用途のメスの人犬をダッチワイフ代わりに使った結果の妊娠。それで生まれた赤ちゃんが生まれながらのヒューマンアニマルとして供給されている。
供給が増えるに従って、その昔本物の動物を使ってやっていた事一切が、ヒューマンアニマルに置き換わって来たと言っても過言ではない。
マロンちゃんのように人間に臓器を提供する為に育てられる物。
パティーのように人間のサポートをする物。
今日出会った
人間の欲望の捌け口として生きたダッチワイフに使われる物。
中には人間様に代わって妊娠・出産の苦労を代行する物や、実験動物として苦痛に満ちた一生を終える物もいる。
都市伝説かも知れないけれど、今では食用に供される人犬の仔も居るらしい。
昔は役立たずなヒューマンアニマルを挽肉にして家畜の餌にしたそうだが、今では味の良いヒューマンアニマルが生産されているって言う話だ。
なんでも時間を掛けて棍棒で殴り殺した仔犬を目の前で捌いて鍋にしたり、仔犬の身体から死なせぬよう止血しながら一寸刻みに肉を削ぎ取って行く焼き肉とか。
今では犬に成る注射とセットで、躾の為に子供を嚇す定番にもなって居る。人犬料理は兎も角犬に成る注射は現実だから、
大昔、社会に奴隷と言うものが存在した。それはちょうど今のヒューマンアニマルの様に物として売り買いされた人間だ。奴隷の子は奴隷で、主人が奴隷に産ませた子供も大抵奴隷と成った。ある意味家畜にされた人間だ。
それでも奴隷は姿形が人間で、しかも奴隷からの解放と言うものがあった。主人はいつでも、奴隷を自由な人間に戻すことが出来たのだ。
だけどヒューマンアニマルは動物だ。動物は一生動物のまま。人間に戻すのは先ず出来ない。
そして要らないと捨てられた場合、奴隷は路頭に迷おうとも自由の身。なのにヒューマンアニマルは新しい主人に保護されない限り、野良として保健所で殺処分の運命が待って居る。
「安心して。パティーは
正樹とパティーほど仲良しなら、頃合いを図って住吉の神様が可愛い赤ちゃんを授けてくれることでしょう」
「やだな母さん。僕だってどうしたら子供が出来るか知っているよ。えっちすればいいんでしょ?」
「あらあらいつの間に。正樹も大人になったものね」
感心して見せる母さん。尤も僕は具体的にどうすりゃいいのかも判ってないのが現実だけど。
「正樹。そろそろ行ってやらないと、サニー君が可哀想よ」
そうだった。おもちゃで遊んでいるだろうけど、一匹で放って置くのは良くない事だ。
「裸人猿の皮膚は弱いから、タオルじゃなく手洗いしてあげてね」
「了解!」
僕は風呂場へと急行した。
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