第22話 優しき夢の醒めぬ間に

●優しき夢の醒めぬ間に

 散々遊び倒して夕方近く。

 待ち合わせの遊園地の正門前に行くと、マロンちゃんのパパとママ、つまり飼い主さん達が待って居た。


「どうだった?」

 と尋ねるお父さん。

「楽しかった」

「そう。良かったわね」

 優し気なお母さんの声。

「そろそろ帰ろう」

 お父さんのいざないに、

「嫌……。もうちょっと」


 一日彼氏の時間はあと少し。お別れの時が近づいて居る。

 だからかマロンちゃんは一層僕にしがみ付いた。


「今日はまだ終わってない。僕、お兄ちゃんのほんとの彼女になってない」

 悲痛な声で訴える。


「一日一緒に遊んで貰っただろう?」

 お父さんは静かに言う。

「ほんとの彼女なら……。お城みたいなホテルでえっちするんでしょ? 僕、前に漫画で見たよ」


「あんた! 何様の積り?」

 今まで抑えていたけれど流石にこの展開には腹を立てる橋本さん。

 だけど僕には解ったんだ。だから、

「抑えて橋本さん」

 と彼女に我慢して貰う。そして、

「マロンがそうして欲しいんなら、最後まで付き合うよ。今日一日は彼女なんだから」

 僕は腹を括る事にした。



 ラブホテル。

 成り行きとは言え来ちゃったよ。

 今、橋本さんがマロンちゃんを奥のお風呂に入れている。


「どうかあの仔の望む通りにお願いします」

 とお母さん。

「犬っコロを抱いて貰うなど無理をお願いして済みません。ですが、出来ればマロンを女にしてやって下さい」

 とお父さん。


「マロンちゃんは八歳でしたよね。まだ身体が出来ていませんよ。大怪我するかも知れません」

「構いません。それがあの仔の願いなら」

 お母さんの声にも必死さが籠る。


「判りました。でも、こう言うの。僕も初めてなんですよね。上手く行くかどうかも知りませんよ」

 苦笑いしながらそう言うとお母さんは、

「たとえおままごとでも構いません。お付き合いお願いします」

 僕の手を両手で握り締め、押し戴くようにそう言った。

 そこへ

「マロンちゃん綺麗に洗って来たわよ。身体の隅から隅まで、念入りに綺麗にしたんだから。

 それこそ、お尻の穴まで舐められる位綺麗にね」


 橋本さんが洗い上がったマロンちゃんを運んで来た。


「えっちって、お尻の穴を舐めちゃうの?」

 反射的にそう答えると、

「藤原君! 物の例えよ物の例え。ほら良くお便所掃除で、舐められる位綺麗にするって言うじゃない」

 むきになって言って来た。


 くすくすと笑うマロンちゃん。

「世の中には僕みたいな人犬に、そう言う事させる人も居るらしいよ」

 可笑しそうにくすくす笑う。


「マロン!」

 お父さんが叱る様に名前を呼んだ。

「いったいどこでそんな事を……」

 お母さんが嘆いている。


「訓練所のビデオだよ。使役動物のお仕事と愛玩動物のお仕事を見せて貰ったの。


 土下座してお尻を高く上げた後ろから圧し掛かられてる奴とか、お股に口を着けておしっこ飲まされてる奴とか、おトイレの後のお尻の穴を舐めさせられてるのとかあったんだよ。

 訓練所の先生から『ご主人様によって様々だけど。愛玩犬はこうしないと生きて行けない仔が沢山いるんだ』って言われた。


 見せて貰った時、後で僕もこう言うことさせられるのかな。と思って悲しくなったけど。出来ればそっちの方なら良かったなぁ」


 歳に似合わず、どこか悟ったような口振りだ。


「だからまぁちゃん。僕が無理言って一日彼女にして貰ってるんだから、まぁちゃんがして欲しいなら僕なんだってするよ。

 まだチビであそこもちっちゃいから、まぁちゃんの入らないかも知れないけれど。

 僕からお願いした事だもん。無理やりやって裂けちゃっても構わないよ」

 八歳だとは思えない、妙に色っぽい声。


「僕も、お風呂入って来るね。橋本さん! 誘導お願い」

 慌てて橋本さんを呼ぶ。部屋の作りが判らないから、今は彼女だけが頼りだ。


「洗ってあげようか? マロンちゃんがどこ舐めてもへっちゃらなように」

「橋本さん!」


 明らかに揶揄いだと判る申し出を断って、設備の説明を受ける。シャワーと湯船と石鹸やシャンプーの位置を把握した僕は、謹んで橋本さんにお引き取りをお願いした。


 シャワーを浴び、身体を洗いながら僕は途方に暮れる。

 女にしてやって下さいと言われても、僕は全然どうすれば良いのか判らない。もっと後の事だと思って居たから情報すらない。


「おままごとでもいいって言うんだから、裸で一緒に抱き合ってればいいんだよね」

 実際、その後どうしたらいいのか判らないんだもの。


 綺麗にしてからお湯に浸かり、温まってから軽くシャワーを浴びて出ると、いきなりバサッとバスタオルが投げられた。

「橋本さんいいって」

 僕は言うけれど、勝手に身体を拭いて行く橋本さん。


「ほんとお馬鹿さん。たかがわんちゃんの我儘に、ここまで付き合ってやる必要なんてないのに。

 で、どうすんの? ご希望通り獣姦してあげるの?」

「うんその事なんだ。橋本さん、僕これからどうすればいい? もっと後の話だと思ってたから、全然知らないんだよ」

 僕は正直に打ち明けた。

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