第21話 冷や水
●冷や水
「他の仔と遊ばないの?」
「みんな忙しそうだもん」
寂しそうなマロンちゃんの声。
「橋本さん。今どんな感じなの?」
僕が尋ねると、
「今まで私が見た限りだけど。
人兎は大人と子供のヒューマンアニマルが半々位で、子供に抱っこされたり突き出される餌を食べてるよ。
子供を背中に乗せたり馬車牽きさせる関係でしょうか? 人ポニーに殆ど仔馬は居ませんね」
状況を説明してくれる橋本さん。
「そして人猿は、大きなお友達と駆けっこやかくれんぼですか」
僕が肩を竦めてみせると橋本さんは、
「安心して。さっきの様な困った大きなお友達と嫌がるお猿さんだけじゃないわ。
あれが人間の仔なら事案だけど、抱っこされたり撫で撫でされるのを喜んでる仔もいるし、
大きなお友達に懐いちゃってる仔もいるわよ。
それに、遠くてここからだとどれが人だか猿だか区別付かないけれど、あちらの水遊び場では人間の子供と一緒になって遊んでるわよ」
「どこー? 僕も水遊びしたいよ」
どうやら地上のマロン視点からは見えない所にあるようだ。
「くすっ」
と笑った橋本さんは、
「じゃあ行きますか? ちょっと遠いから巡回馬車に乗りましょう」
と僕に右肘を握らせた。
子供達で賑わう水遊び場。色んな音と匂いに溢れている。時折シャワーが降り注ぐ音がする。
「人猿は子供相手の関係か、全部仔猿だけね。ここに居る仔は大きくても百二十センチ前後かしら。
これだけ近くで見ても、首輪してるかして無いかでしか区別付かないわ。
あ、あの仔可愛い。藤原君、ちょっと待ってて」
続く橋本さんの嬌声で、事情が大体掴めちゃう。
「可愛い~。いい仔ね。触らせて」
「えへっ」
「柔らか~い。可愛すぎてお家に持って帰りたいわ」
「きゃはっ!」
「抱っこしていい?」
「うん」
「ほ~ら。高いたか~い!」
「きゃっきゃっ!」
「ちょっとあなた! 勝手にうちの子を抱きあげないで欲しいんですが」
「ええー! ああっ、違う。ごめんなさい」
戻って来た橋本さんに、
「何があったの?」
と聞いてみた。
「ファッションでチョーカー付けた人間の子が、水遊び中にびしょ濡れのパンツを脱いじゃってたの……。
一緒に如雨露で遊んでた仔の方は
私が悪いんだけど、ほんと紛らわしいわ」
「あはは。お姉さんのあわてんぼ」
笑ったマロンちゃんは次の瞬間。
「ひゃ!」
と珍妙な声を上げた。
「嫌ぁ、駄目! 尻尾引っ張らないでぇ~」
「あ、ボク。そこ引っ張ると痛いのよ」
「あ、済みません。たぁーちゃん。わんちゃん痛いって」
ちょっとカオスな事に為ってるようだ。
「可愛いわねー。こうしてると人猿の仔も人間の子供も見分けが付かないよ」
感想を駄々洩れにする橋本さん。
「知ってる? 一見人間に見える子の中にも、ヒューマンアニマルから生まれた未加工の仔が混じって居るって話」
「へー。そんなの居るんだ」
「ええ。それでここで飼い主とお見合いして、双方が気に入ったら未加工のままで購入できるそうよ。
さっき間違えたのは、そう言う仔だと思ったの」
水遊びでパンツを脱いじゃった人間の子供との区別は、首輪を付けているか付けてないか。
確かにそれじゃファッションでチョーカー着けてる子だと間違えちゃうよね。
「未加工の段階だったら、自分の籍に入れて養子にも出来るし、育ててから業者に高く転売することも出来るそうよ。人間の子供として育てられたヒューマンアニマルの仔は、人間相手に慣れているし教育受けている分賢いから」
「知ってる」
僕は水遊びで濡れたマロンちゃんの身体を拭きながら、そっけなく返事をした。
「そう言えば。マロンちゃん?」
橋本さんが訊いた。
「マロンちゃんもそう言う仔?」
するとマロンちゃんは寂しそうに、
「うん。三ヵ月前まで人間だと思ってた。うんとお勉強すれば、僕も宇宙飛行士に成れると信じてた」
「三ヵ月前?」
僕は訝しむ。なぜってそれは、犬の訓練を殆ど受けていないと言う事なんだ。普通、そう言う仔が一般家庭に販売される事は普通無い。
「今のお家に来たのは?」
「二ヵ月前」
それは、加工されて直ぐ来たと言うのに等しい。
さっきのお父さんの必死さと相まって、僕の背筋にぞくっと冷たい物が走った。
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