第20話 レースの行方
●レースの行方
「観客の皆さんからチップを一枚づつお預かりします。
応援するわんちゃんのゲートの番号の枠に入って下さい。
一等になった仔の番号の枠に居る人全員に、チップを五枚お返しします」
ドッグレースは、ちょっとしたギャンブルになって居た。
係の人は人犬の仔達にも説明をする。
「一等の仔はご褒美が貰えます。但し、他の仔には罰があります」
「えー!」「うー!」「わわん!」
それぞれに聞いてないよと言う反応を返す。観客席からも異論が飛ぶ。
「大したことではないですよ。
応援してくれた人達にごめんなさいをして、一人一人に撫でられたり抱っこされたりおやつを食べさせて貰ったりするだけです。
飼い主さん以外に触られるのは嫌だと思いますが、罰ですから我慢して下さい」
ああそう言う事かと観客席もほっとする。没収されたチップは、他人様のわんちゃんを子供動物園の動物達と同じように可愛がるために使われる事に為るのだと。
「良い子の皆さん。撫でたり抱っこしたり、餌を食べさせたりして可愛がってあげて下さい。
自分がされたら嫌な事、例えば叩いたり抓ったり毛を引っ張ったりするのは絶対駄目ですよ。
いいですかー?」
「「「はーい!」」」
子供達の声が一つになった。
「用意」
パーン! おもちゃのピストルが鳴ると同時に、ドッグランのゲートは開けられる。
僕達はもちろんゼッケン四番のマロンちゃんの応援席だ。
「あ、隣の三番君こけた。走るバランス崩して地面に鼻をぶつけたみたいね」
くぅ~ん、くぅ~んと泣き声が響く。
「四、番、がん、ばれ! 四、番、がん、ばれ!」
甲高い声援の響く中。あまり大したことのないレベルのレースが展開されている。
「一番の仔は足を縺れさせて転倒。あ……こっちも擦りむいて泣き出した」
そんな中、マロンちゃんは順調に走って居るらしい。
「四番ゴールイン!」
なんと一等賞だ。
「くぅ~ん」
他の子が降参ポーズで許しを請うている。
罰と言っても応援してくれた皆さんに、撫で撫で・抱っこ・おやつをはむはむ。
だけど時折、
「きゃん!」とか「ぎゃいん!」とか悲鳴が混じる。
「駄目よ。そんなに乱暴に掴んじゃ」
「えー。ピンと立ってて温かくて、ふにゃふにゃしてて触り心地いいのに」
「そこわんちゃんの大事な所だから引っ張ったら可哀想よ」
色々と不穏当な会話が聞こえる。
「ちっちゃい仔は加減知らないからね。あそこ、神経が集中してるから、程好く撫でてあげれば気持ちいいのに」
橋本さんまで。
「うん判る。あれは僕も遣られたけど、本当に痛いんだよ」
マロンちゃんまで。
って、マロンちゃん?
「あそこは僕の急所でもあるけど。まぁちゃんが触りたいならいくら触っても良いよ」
……だよね。犬の耳とか尻尾とかだよね。
途中、変な想像した自分が少し恥ずかしく成った。
さて。そう言う惨めな負け犬と比べて。
「えへへ」
得意げのマロンちゃん。
「まぁちゃんにも見せたかったよ僕の雄姿」
一等賞のご褒美は、人犬用高級ドッグフードの箱が一ダース。
「あ、これ。良くCMで見かける奴だね」
橋本さんが材料その他を読み上げる。
消化器系が人間のままの人犬に合わせた物で、どちらかと言うとキャットフードに近い半生タイプらしい。
もちろんこれだけ食べて生きて行けるくらい、栄養は満点の筈だけれど。
「でも、人間と同じ食事に慣れた仔だったら、美味しくはない筈よ。お塩殆ど使ってないから」
「そうなの?」
橋本さんの一言に、マロンちゃんは怒る様に聞いた。
「ヒューマンアニマル向けのペットフードって、身体にはいいかもしれないけれど。
病人食みたいに全然味が足りないのよ」
「じゃあ」
「お値段はこれ一箱で銀座でランチ食べられる高級品だけれど、あなたが毎日食べている餌の方が何倍も美味しい筈よ」
「そうなんだ……」
期待の分、萎む心。
「それよりマロンちゃん。あなた他の仔と遊ばないの?」
橋本さんが突っ込んだ。
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