第17話 宇宙探検

●宇宙探検

 遊園地は、かなりバリアフリーに作られて居たり、展示物には音声ガイドがあるからそれなりに楽しめはするが、目を楽しませるアトラクションが多いから橋本さんのチョイスも中々厳しいものがある。


「どこがいいかな。そうだ! 宇宙探検。行ってみる?」

「いいねー。僕、前に来た時は身長足りなくて駄目だったんだ」

 覚えてる。ここで一番高いタワーだ。確か百メートルはあったはず。


「ここからは探検服の着用をお願いします」

 案内のお兄さんが僕に宇宙探検隊の服を着せてくれる。

「結構重たいや」

 スキーウェアの上にライフジャケットを重ね着してモコモコになったような感じがする。

「空気圧で加速度を体感したりするそうよ」


 こうして親子連れの三人と一緒に五人乗り探検車に乗り込んだ僕達は、ジャケットに幾つものコードを繋がれた後。

 アトラクションが始まった。


 椅子が回転して僕達は上を向く。

「ロケット発射十五秒前……十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、発射!」

 秒読みのアナウンスと共に、ドーン! と言う響き。身体が座席に押し付けられる。


 これ、本当に上がってるね。


「間も無く地球の引力圏を抜けます。ブースターオフ。慣性飛行に移行。人工重力作動まで二秒」


 あれほど感じていた加速が消え、今度は僕の身体の体重が消えた。椅子からも浮き上がった感じがアナウンス通りニ秒続いて、それから次第に重力が戻って来る。


「人工重力が作動しました。小惑星ナツキに到着まで、レクチャービデオをお楽しみください」


「わぁ~。パパぁ、パパぁ、凄い!」

 後ろの席の親子連れから歓声が上がる。


「宇宙船の窓に地球が映ったの。この映像は宇宙ステーションの物だわ。

 あ、ビデオが始まった」

 橋本さんが解説してくれる。


 ロケットの歴史のビデオが終わると、


「間も無く、小惑星ナツキです。ナツキはアステロドベルトに存在する小惑星の一つで、全体が瓢箪のような形をした、ゴツゴツした岩の塊です」

 探検車が行く小惑星の説明が入る。


「宇宙早押しクイズです。座席の前の四つのボタンに手を掛けて下さい。ボタンは左から順にA・B・C・Dとなっております。

 正解のボタンを一番早く押した人に得点が入り、十問やって一番得点の多かった人が探検車を操縦できます。

 同点の場合は、座席番号の若い順番に成ります。


 一問目。ガガーリンが言った言葉は次の内どれでしょう? A、本番ですか? B、私はカモメ。C、地球は青かった。ピンポーン! 座席番号5番の方、正解です」


「やったぁ!」

 後ろから子供の声が聞えて来た。



 やっと十問が終わり、

「集計します。座席番号2番の方、5番の方が同点です。その次は1番の方、その次は4番の方、その次は6番の方になります。2番の方。Aボタンで決定。Dボタンで次の方に譲れます」


「僕は見えないからね」

 Dボタンを押す。ブー! と音がした。


「僕も無理だよ」

 同じく譲るボタンを押したらしい。


「じゃあ私が操縦するわね」

 ピンポーン!


 グー。グー。クレーンゲームの様な音が合って、

「へーこうなってるんだ。あ、モニターに映ったわ」


「うわ!」

「ごめんなさい!」


 このアトラクション。リモコンで動く探検車の動きに合わせて姿勢が変わる。

 岩を乗り越える時の上下の揺れや、ぶつかった時の軽い衝撃そんなものまで再現している。


「時間です。小惑星ナツキを離れ、地球に帰還します」


 またロケットの発射。無重力と人工重力を繰り返す。

 そして、


「大気圏に突入します」

 揺れや音が臨場感を高め、

「滑空飛行。間も無く着陸します」

 滑走路に着陸した振動と、

「逆噴射!」

 噴射音がけたたましく響いた。



「あーあ。操縦したかったなぁ。僕」

「無理言わないのマロン。そのおててじゃ無理でしょ」

「うん。解ってるよママ」

 少しへこんだ子供特有の甲高い声。するとお父さんが、

「次は子供動物園へ行こう。あそこならお友達もいっぱいいるし、マロンも遊べる遊具があるぞ」

 と言った。


「遊んでいいの!」

「何のために来たと思ってるんだい?」

「パパ大好き~。お嫁さんになったげる」

 はしゃぐ声。


「マロン。女の子なんだからもっともっとお上品にしなさい」

「僕は女の子じゃないもん。メスだもん」


 何をやってるのか知らないけれど。


「お~いママ。いつの間にこんな事覚えたんだ?」

「知りませんよ。あなたじゃないんですか?」


 後ろから聞こえてくる声。


「ごめんなさい。ああ言うの苦手でしょ?」

 謝って来る橋本さん。


「いいよ。気にしなくても。後ろの仔、最小加工タイプかい?」

「ええ。毛の無いわんちゃんよ。服も着せてなかったわ」

「なら大丈夫。毛さえなければアレルギー問題無いから」


 確かに僕はああ言うのは苦手だ。

 でも本当はアレルギーのせいじゃない。あれが僕の未来の姿になるかも知れないって恐怖からだ。


 あんな幸せそうに思える親子の様な関係だって。いつ飼い主の気持ちが変わって保健所送りになるかも知れない身の上なのだから。

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