レベル268
「アダダダッ! おいっ、刺さっとるぞっ! ちゃんと避けんかっ!」
とある城の上空、ワイバーンに乗ったローゼマリアに無数の矢が降り注ぐ。
「まったく、ちょっと見ないうちに城を魔改造しおって。しかも主である、わらわに向かって攻撃してくるとは何事じゃっ」
すっかり敵認定されているローゼマリアに、城から矢だけではなく魔法まで飛んでくる。
「アツッ! アツツッ! ちょっ、おまえ、わらわを盾にしてないかっ!?」
誘導弾のように迫ってくる魔法が、ワイバーンの背中にいるローゼマリアに当たりまくる。
ワイバーンは器用に飛んでくる魔法を、ローゼマリアを盾にして受け止めているみたいだ。
憤慨したローゼマリアが、立ち上がってワイバーンの背中を蹴りつける。
その時、グルリと回転するワイバーン。
その背に立っていたローゼマリアは当然どこにも掴まっていない状態。
そのまま回転するとどうなるか?
当然、重力に従って……
「あ~~~~れ~~~~……おちるぅぅぅうううううっ!!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おい、兵士など集めてどうするつもりだ!」
ベルスティアが蘇らせた英雄ガリレイ。
その英雄の名の元に無数の兵士が召喚されようとしていた。
「国境にファンハート帝国の軍が集結しつつある。集まってからでは遅い、今のうちに叩く」
旧古代王国の墓地跡に集められた古代王国の血を引くという者達。
その血を引く者は当然貴族ばかり。
それも傲慢な者がほとんどであった。
当然それに付いて行った民は少ない。
ならばどうするか、他の国から奴隷となる人民を奪ってくればいい。
まずは、元々正当な土地であった新生ファンハート公国を狙ってくるのは必然。
宣戦布告も必要ない、ただ、元にあった場所に戻るだけなのだから。
「しかし、ベルスティア様からの指示は出ていません」
「彼女には決断できんよ。だからこそ代わりに俺がやる」
ガリレイには、このままぶつかればどうなるか、焦りの様なものがあった。
数は圧倒的に新生ファンハート公国が多いだろう。
だが、この世界の戦争において数は問題ではない。
数万の軍勢が、たった一人のスキル持ちに敗れることもある。
そしてファンハート帝国は、そのほとんどが貴族。
貴族であるということは、スキル持ちも当然多い。
まったくスキルのない平民がいくら集まった所で、太刀打ちできるものでもない。
「せめて聖皇国との同盟が結ばれれば、多少は違うのだがな」
同盟の会議は決定している。
だが、ベルスティアは現在、国境に集まっているアンデッドの軍勢にかかりきりで、日程はずれにずれている。
当然、そうやってアンデッドを集めているのはファンハート帝国だろうが、それに対応できるのはベルスティアのみ。
ベルスティアの足止めを行い、体制が整い次第攻めてくる。
「そうなってからでは遅い、数で押して、各個撃破が理想なのだ」
「その必要はありません」
「ベルスティア様!?」
そこへ、国境の街に行っていたはずのベルスティアが現れる。
「聖皇国との会議の日程を進めます。こちらから手を出すことは行いません」
「国境の方のアンデッドはどうされたのですか? まさか、街を見捨てるとか……」
「聖剣の聖女が味方してくれました。さらに彼女は、残存するアンデッドの掃討まで約束してくれています」
それでもガリレイは険しい表情を崩さない。
「……本当に聖皇国の力を借りれるのか? 死者の力を糧とする我らとは相いられまい」
「約束はすでに取り付けています……が、どうでしょうかね。どちらにしろ、こちらから攻撃を仕掛けては聖皇国も手を貸せなくなります」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「すいません、南の方で戦争が始まりそうでしたので、随分延期になってしまったのです」
「は、はぁ……ハハハハ……」
かくして、聖王国と新生ファンハート公国の同盟の会議が始まった。
そんな大国の重鎮たちが集まる会議に、エクサリーのコンサート客として招待されたヘルクヘンセンの貴族達は恐縮しきりである。
「ば、場違い感がひどい……」
「というか、エクサリーさんはこんな会議に呼ばれるほどのお方でしたの?」
「最近、聞いた話なんだが……」
そんなヒソヒソ話をしているヘルクヘンセンの貴族達をジロッとひと睨みし、咳ばらいをした後、司会者が声を上げる。
「それではここに、聖皇国、新生ファンハート公国の同盟を宣言いたします!」
「その宣言、待ってもらおうか!」
その時だった、突如、大神殿の中に一匹のワイバーンが飛び込んでくる!
「な……!? お兄様!」
そのワイバーンの背から飛び降りた者、それは、ファンファート帝国、帝王、カーティズであった。
降り立ったカーティズを取り囲むように騎士たちが現れる。
だが、一瞬黒い竜巻が現れたかと思うと、騎士たちは弾かれたかのように吹き飛ばされる。
『おうおう、すっかり人間辞めちまってるみたいだねぇ』
「人間を辞めている……どういう事?」
ベルスティアが腰に刺さっている邪王剣ネクロマンサーに問いかける。
『見て分からねえかセニョリータ。ありゃもう生者の気配じゃねえぜぇ』
「生者じゃない……?」
よく見てみると、眼窩は窪み、焦点があっていない。
肌は青白く、全身から黒い霞のようなものが漏れ出している。
それはまるで、墓場から蘇った、ゾンビがごとき雰囲気を醸し出していた。
「なぜ……お兄様がアンデッドなどに……」
「驚いたかベルスティア、最早まがい物のネクロマンサーなど必要ない! この私が死者の王国を築いて見せよう、そう、我らが王、ローゼマリア様の為に!」
「え……?」
「じゃから、問題を起こすでないと言っとろうがっ!」
そこへ飛び蹴りをかましながらもう一人、ワイバーンの背から降りてきた影が一つ。
「ちょっとローゼマリア、これはいったいどういう事ですか?」
その飛び降りた影に向かってラピスが問いかける。
「どうしたもこうしたもないわっ、偶然落ちた先にこいつか居てのう。仕方ないので眷属にしてやったのじゃっ」
「あなたはまた、なんて事を……」
前回はこいつで失敗したからのっ、今度はきちんと忠誠を尽くすように設定してやったゾッ。と、ローゼマリアがワイバーンの頭をペチペチ叩きながらそう言う。
「そんな事出来たのですか?」
『腐ってもアンデッドの王。アイツの言う事にゃ、俺様達、アンデッド枠のモンスターは逆らえないのサ』
「でも彼女、あのワイバーンゾンビに啄まれていますよ?」
『本人は自覚してないからなぁ。命令という指示を与えるのにもコツがあるんだろうぜぇ』
お坊ちゃまと同じ感じですかね。と、ポツリと呟くラピス。
「まっ、知らない方がこちらとしては都合がいい訳ですが」
『そんな事よりセニョリータ、あんまり俺様をあいつに近づけてくれるなよ。また千年、口を開くなって命令されたら困るぜぇ』
「あなた、そんな事、命令されていたのですか?」
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