レベル269 第十七章完結
それから紆余曲折はあったが、暴れようとするカーティズをローゼマリアが押さえ付けて、聖皇国と新生ファンハート公国の同盟は成立した。
また、同時にファンハート帝国と新生ファンハート公国の不可侵条約も結ばれた。
どういう経緯かはともかく、カーティズはローゼマリアの言う事なら何でも聞く。
「大丈夫なのでしょうか? お兄様とローゼマリアが手を組んで、碌なことにならない気がするのですが……」
『いっそのこと、本当に死者の王国を作ってもらったらどうだぃ? あの御仁だけ抑えても、他にもいっぱい、どうしようもない奴はいるだろぉ』
「そんな事、認められる訳がないでしょう」
『どうしてだぁ? 全てが死者になった国。それは本当に不幸な事なのか良く想像してみろよぉ』
全てが死者しか居ない世界。
そこでは当然争いも起こらない。
誰もが不老不死を手に入れた世界。
『衣食足りて礼節を知る。人は色々足りてねぇから争いを起こす。だが、死者ならどうだぃ』
望むものは時間が解決してくれる。
寿命がないのだ、いくらでも待つことができる。
苦しみも、悲しみも、憎しみさえも、時が経てば薄れていく。
『ありえない世界じゃねぇ。モラルも、常識も、そうなってしまえば、当たり前になる』
「まるでその世界を知っているかのような口ぶりですね」
『さぁてな』
「しかしあなたは、随分と変わった価値観をお持ちですね」
『おめえさんのご主人様も似たようなもんだろぉ』
そう言ったネクロマンサーに探るような視線を向けるラピス。
このネクロマンサーの知識はどこからきているのか。
この人格は、どうやって作られたのか。
邪王剣ネクロマンサーは千年前、バルデスがエフィールを救うため、世界中から取り寄せた魔道具に紛れていたという。
「…………今更、あなたの素性を探っても仕方ありませんか。私の敵にさえならなければどうでもいい事です」
『あのお坊ちゃまの敵に回る気はねぇぜぇ。ローゼマリア並みにやっかいそうだからなぁ』
それを聞いてラピスが目を細める。
「まあいいでしょ、今は、ね」
『今は、ねぇ……』
◇◆◇◆◇◆◇◆
会議が終わり、帰路につくベルスティア。
『どうする気だぃ、今ならローゼマリアを筆頭として死者の王国を作れる。手さえ出さなきゃ、今まで通り墓場で運動会してるだけだぜぇ』
そのベルスティアに邪王剣ネクロマンサーが問いかける。
「あなたの言った、全ては時が経てば薄れていく。それは負の感情だけはないのでしょう」
時と共に薄れていくのは、喜びや愛しさも同じこと。
最後には何の感情も持たない化け物だけが残っていく。
「そして死者の世界には生まれてくるものもありません」
『減る事が無ぇんだ、増やす必要もあるまい』
「私は、そんな世界で生きていたくはありません。たとえそれが、常識となっても。ね」
『言うようになったねぇ……』
なにやら少し嬉しそうな雰囲気で答えるネクロマンサー。
『もう俺様の出番は、ここにはねぇのかもなぁ』
◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、困りましたね。聖皇国と新生ファンハート公国の同盟、さらにファンハート帝国との不可侵条約。争いの種が、ことごとく消えてしまいました」
去っていくベルスティアを、大聖堂の屋上から見下ろしながら呟くラピス。
「いい事じゃねえか。世界が平和になって何が困るんだ?」
その隣にクイーズが立つ。
さすがに各国の重鎮が集まる場所。
特殊なスキル持ちも護衛としているだろう。
そう思い、今までコッソリと身を隠していたのだった。
「お坊ちゃまはこの世界を手にしたいと、本当に思わないのですか?」
隣に立つクイーズに流し目を向けながらラピスが問いかけてくる。
ピクサスレーンはエルメラダスとの婚姻を結べば、手にすることは容易いだろう。
ヘルクヘンセンはいつでもダンディが抑える事が可能だ。
聖皇国ですら、竜王ニースを従えたクイーズの意向には反対できまい。
その他の国、エンテッカルではフロワースが実権を握るのもそう遠くなく、海洋諸国はウィルマの造船がなければ今や成り立たない、アンダーハイトは忠誠すら誓っている。
そして今回、ファンハート帝国もローゼマリアの手に落ちた。
なんだったらカシュアを聖女に祭り上げて、新興宗教でも作ってもいい。
「止めろって。オレにとってそれは、エクサリーの小指の先ほどの価値もない。なんでそんなガラクタを抱え込まなきゃならないんだ?」
「私はお坊ちゃまの価値が、正当に評価されていないのが我慢ならないのですよ」
お坊ちゃまだって、エクサリーの歌が下手だと言われれば許せないでしょ。とラピスは言う。
クイーズは、うむう、と唸って考え込むそぶりを見せる。
「世界の支配者、なんていうアクセサリを身に纏えば、ちょっとは周りの見る目も変わると思うのですよ」
「そんな重たそうなアクセサリはいらねえ。せめてもっと軽いのにしてくれ」
苦笑してそう返すクイーズ。
軽いのならいいのですね。と言って微笑むラピス。
自分の失言に気づいて慌てて取り繕う。
「いや、重いか軽いかじゃなくて、変なものは寄越すなよ?」
「変じゃなければいいんですよね」
「くっ、まずい。何を言っても言質をとられそうだ」
またぞろ、嫌な予感に身を震わすクイーズであった。
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