レベル266 ロゥリの婚活

「なに、自分も子供が生みたいと?」

「ガウガウ」


 ある日、聖皇国のニースの元に、ロゥリがやって来て、自分も子供が生みたいと言い出した。

 どうやらエクサリーとクイーズの子供達を見て、自分も欲しくなった模様。


「私の子でも欲しいのか?」

「ネゴトハ、ネテイエ」


 そこで、誰か竜のオスを紹介してくれないかと、ニースの元を訪れたようだ。

 なにせニースは、かつて竜族の王であった存在。

 竜のオスに対する伝手は大量にあるはず。


「ようは男を紹介してくれという理由か……紹介するのは別に構わんが、どんなのがいいんじゃ?」


 見た目にはあまり拘らない。

 だが、強さは求める。当然、自分より強くなくてはならない。

 そして知能も高い方がいい。少なくともクイーズに勝てるぐらいには。


「お主より強いとなると、ほとんどいないのじゃが。そのうえ、あの主を出し抜くともなるとなあ……」


 えっ、いいから片っ端から紹介しろって?

 後は自分で確かめてくる?

 なんだか嫌な予感がするのぉ。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「竜王様、こちらが今宵の食料でございます」

「ううむ……最近、質がおちてきたのぉ。そろそろ人の味も恋しくなってきたところだし」


 ランランと光る深紅の瞳が人々を捉える。

 真っ黒な鱗に包まれた、山ほどある巨大なドラゴンが吐くセリフ。

 人々はそれを聞いて震え上がる。


 そこに居たのは、黒竜王アイゼルク。


 この竜王は、態々、小さな人間の村のすぐ近くに住処を構える。

 そして人間達を脅して食料を調達させる。

 だが、そこは辺境の小さな村。


 貯えがある訳でもなく、恵まれた資源がある訳でもない。


 巨大な竜王の腹を満たし続けるのには限界がある。

 人間達は、食料をさんざん調達させられたうえに、最後はデザートとなる運命にあった。

 そんな事を繰り返している、非常に質の悪い竜王であった。


「明日は村一番の娘を差し出せ、さもなくば、村全員の命をもらいうける」

「そ、そんな……」


 貢がせるだけ貢がせて、最後には全てを食らいつくす。

 小さい村が全滅したところで話題にも上らない。

 人間は群れれば脅威だが、群れなければなんという事もない。


 狡猾で残忍な竜王。

 その名は、ニースがロゥリに渡したリストの一番上に書かれていた。

 突如、舌なめずりをしていた黒竜王アイゼルクに向かって、白き流星が落ちてきた。


「なっ、なんだ貴様は!?」

「ロゥリト、ショウブシロ」


 落ちてきたのは真っ白なホワイトドラゴン。

 村人達の驚きをよそに、黒竜王アイゼルクと激闘を繰り広げる一匹の白竜。

 大地を震わすほどの激闘の末、地響きを立てて倒れ落ちるアイゼルク。


「コイツジャナイ」


 そう言うと、その白き流星は来た時と同じように、突然去っていく。


「お、おい……」

「い、いまなら……」


 倒れて動かなくなった竜王に向かって、残された村人達が、手に手に武器を持って近づいて行こうとする。


「やめたほうがいいですよ。腐っても竜王、どんなに弱っていてもあなた達じゃ相手になりません」


 そこへ、頭からウサギの耳を生やした虹色の髪の美女が現れる。


「なにやら面白そうな事を始めたので、付いて来て正解でしたね」


 その美女が手に持った何かを掲げる。

 するとそこから光が照射され、竜王を包み込む。

 その光に包み込まれた竜王は半透明になり、やがて消えていった。


「普通なら自分よりレベルの高いモンスターは取り込めないのですが……」


 なぜかお坊ちゃまのカードを手に持っていると、取り込めちゃうんですよねえ。

 まあ、レベル1になっちゃいますが。

 異世界補正もきちんとかかって……おや、今度はドローンですか。


 そう言った美女は、ニンマリと笑って、暗闇に消えていくのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ニース、あの子なんとかしてくれませんか?」

「ん、ウィルマではないか、本体とこんなに離れても大丈夫なのか」


 ある日、ニースの元に海竜王ウィルマが訪ねてきた。

 なんでも最近、オスドラゴンを片っ端からのしている、白いメスドラゴンについて話があるそうな。


「わ、私は何も知らんぞ」

「うそおっしゃい、隠竜キエンの居場所を知るのはあなたぐらいでしょ」

「あのジジイのとこにまで行ったのかあやつ」


 ホウオウに続いてロゥリにまでボコボコにされて、さらに女性不振が増していくオスの竜王達。

 そしてそんな竜王達の苦情が、かつてホウオウを宥めたこともある、ウィルマの元に寄せられている。

 と、その時だった、突如白い流星が落ちてくる。


「なんじゃ? ロゥリか、いいのは見つかったのか?」

「ジッチャン、ロゥリト、ショウブシロ」

「は? 私の子はいらんのじゃなかったのか」


「ガウガウ、ロゥリヨリ、ツヨイヤツニアイニイク」


 ロゥリが握りこぶしを固めてファイティングポーズをとる。


「…………おぬし、趣旨が変わっとらんか?」


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふむ、結局一通りやってきたが、ろくなものが居なかったと」

「ウムリ」

「そ、その、ニース、子供を作るなら、その子より私のほうが先だと思うんだけど……」


 ウィルマがモジモジしながらそう言う。


「ん、私の子はクォーツちゃんが生む予定じゃぞ」


 他の誰に頼まれてもお断りじゃ。などと言う。


「ガウガウ、コノハンザイシャメ」

「あだだ、もちろん成人してからじゃぞ!」

「それでも、いくつ離れていると思っているのですか」


 ウィルマも不機嫌そうな口調で責める。


「それにしても……ロゥリが子供を産む気になってくれたのはいい傾向ですね」

「じゃが相手はどうする?」

「あら、相応しい相手ならすぐ近くに居るのじゃありませんこと?」


 この子より強ければいいのでしょ?と、ウィルマは問いかける。


「ふむ……?」

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