レベル265

「本当に4人だけで大丈夫なのでしょうか?」

「敵がアンデッドだけなら問題ありません」

「範囲攻撃だから、下手したら味方を巻き込みかねないんだよね」


 そう言うとカシュアは、フフに背後から、エフィールに左右から敵を追い立てるように指示を出す。


「それじゃあハーモア君は、いつもの構わないかね?」

「おう! 任せとけ!」


 ハーモアが巨大なライオンに変身する。

 ベルスティアとその部下達は、それを見て驚愕の声をあげる。

 そのまま敵陣に飛び込んで暴れまわるライオン。


 背後左右から敵を追い立て、ハーモアが中央で暴れて引き付ける。

 集まった所をホーリーノヴァで一掃、というのがカシュア達のパターンである。

 ハーモアもレベルが上がり、ほぼ獣状態にまで獣化する事が可能になった。


 そのおかげで、防御力もスピードもあがり、動きの遅いアンデッドにはその姿を捉えることすら難しい。


『おめえ様は戦わなくていいのかよぉ』

「ボクの出番は最後の最後だからね! まさに真打登場!」


 そう言って聖剣を掲げるカシュア。

 その聖剣から放たれた眩しい光が、前方を照らし出す。

 すると途端、動きが遅くなっていくアンデッド達。


「これをやってるだけで、なぜかみんな動きを止めるんだよ」

『あんま調子に乗ってると痛い目にあうぜぇ』

「なあにボクにはこの剣がある、少々の事には……って、うわっ!」


 その時、カシュアの全身を黒い霧が包み込む。


『そりゃぁ、そんだけピカピカさせてりゃ、狙われるのは当然だろぉがよぉ』


 それを見て、慌てて腰の邪王剣ネクロマンサーを抜くベルスティア。


『ありゃあレイスの上位種、ダークスピリット。このままじゃ、体を乗っ取られてダークプリンセスの出来上がりかもしれねえぜぇ』


 その時、ふと、違和感に襲われるベルスティア。

 今までは気にかけてもいなかったネクロマンサーの言葉。

 いつもは飄々と語るネクロマンサー。


 だが、なぜかその言葉にだけは熱を感じられた。


 もしやコレが、真実でもなく偽りでもない言葉なのか。

 そう思ったベルスティアは改めて周りを見渡してみる。

 カシュアが黒い霧に包まれても、カシュアの仲間達は誰一人として動揺していない。


『ん、どうしたぁ? なあに俺様を使えばあんなものすぐに取り払えるぜぇ』

「確かにそうでしょうね。でも、あなたじゃなくてもいいのではありませんこと?」

『チッ、余計な知恵をつけちまったか……』


 次の瞬間、目もくらむような光の奔流が辺りを包み込む。

 一瞬にして、カシュアを包んでいた黒い霧が、虹の泡となって舞い上がっていく。

 見ると、カシュアの全身から光の奔流が溢れている。


 そしてそれは、カシュアが掲げる聖剣を中心に、光の柱となっていく。


「あれが本物の聖女……」

「美しい……」


 周りの兵士達から感嘆の声が漏れる。

 中にはカシュアに向かって祈りを捧げている人もいるほど。


「ちょっと気持ち悪いんで止めてくれないかな? いくよっ!」『ホーリーノヴァ・光の太刀』


 そう言いながら、光の柱を剣のように振り下ろす。

 なんだかんだ言っても、ノリノリのカシュアである。


「ちょっとバカシュア! まだ早いでしょ!」

「イタッ、イダダダ! いやなんかそんなノリで?」

「ノリでやってんじゃねえわよっ!」


 地面に叩き付けられた光は、そこにいたアンデッド達を浄化していく。

 だが、まだ早かったのか、光の柱にしたのが悪かったのか、左右にはまだまだ残っていた。

 怒ったフフがカシュアに魔法をぶつけている。


「お、おい……見てみろ、アンデッド達が……」

「集まって、来ている……?」


 ふと見ると、残ったアンデッド達が武器を取り落として、光の柱が落ちた場所に集まってくる。


「ふむ……君達もまた、空に還りたいのだね」

「先ほどの事で、扇動していたダークスピリットを失ったからでしょう。彼らとて、全てが争いを望む訳ではありません」

「死んでからも、上の者に振り回されるのは変わらないのかな」


『それが、力なき者の宿命だろぉがよぉ』


 ならばボクは、力ある者としての宿命を果たさなくちゃね。そう呟いて、一人歩いていくカシュア。


 そんなカシュアにアンデッド達が群がってくる。

 ある者は、足に縋り付き、ある者は、腕を引っ張る。

 それはまるで、カシュアを地獄へと引きずり込もうとしている亡者のごとき様。


 だが、そんな亡者の一人一人に手を掲げ、笑顔を振りまくカシュア。

 手を掲げられた亡者は、虹の泡となり、空へ舞い上がる。

 次々と舞い上がる虹の泡は、上空にオーロラを描き出す。


「人の魂とは、これほど美しいものだったのか……」

「人の魂を救う、彼女のような存在こそ、王にふさわしいのかもしれませんね」

『それは違うぜセニョリータ、死んでから救われても仕方がねえ。人は生きてるうちに救われなきゃならねぇ』


 それが出来るのは英雄や勇者じゃない、地道な努力をしている政治家だけだ。

 英雄や勇者が必要な世界ってのは、荒れ果てている事が大半だ。

 あいつらが救った世界はただ、マイナスがゼロに戻ったにすぎない。


 そこからプラスに変えて行く事こそが、本当の意味で救うって事じゃないか。


「争いを好む、あなたらしくない言葉ですわね」

『おいおい、俺様は別に戦闘狂って訳じゃねえぜぇ。あるべき使い方さえしてくれたら不満はねえんだがなぁ』


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ようは、あなたは戦えさえすれば満足なのでしょ」


 その日の晩、カシュアの様子を見にラピスがやってきた。

 そして話を聞いたラピスが、そう言ってネクロマンサーを見やる。


『言うほど好きじゃねえよ。ただ、千年、腰に吊り下げられたままってのはカンベンしてほしいぜぇ』

「なら簡単に解決できる方法がありますよ」


 そう言って今度はカシュアを見やる。


「簡単な事ですよ、あなたが敵をアンデッドに変える。それをカシュアが浄化する。そうすればあなたも満足でき、カシュアのレベルもあがる。ほら、いいこと尽くめでしょ」

「ええっ!?」

「アンデッドも無限という訳じゃありません。最近は狩場探しにも苦労してますし」

「ま、待ってよ、そんな事しなくても十分稼いでいるよ!?」


 何言ってるんですか、まだ1レベルしか上がってませんよ、あなた。

 と言ってカシュアにカードを見せるラピス。


「えっ、なんで? 今日もいっぱい倒したよ?」

「最初の一匹はともかく、残りのはそれを見て、戦意を喪失してたからね」


 フフが当時の様子を語る。


 カシュアの光は、一瞬だがアンデッド達を正気に戻す。

 そして、正気に戻った者達は自ら浄化を望む。

 望んで浄化した者達は経験値にはならない。


「たぶんそれを繰り返せば、例のスキルも使用可能になるのでしょうけど。経験値も必要ですしね」

「いやいやいや、ラピス君。いくらなんでもそれはひどくね?」

「どの道、戦争は避けられません。そうでしょ?」


「それは、そうですけど……本当にいいのでしょうか?」


 なら考える事はありません、カシュアに全部任しとけばいいのですよ。と、にっこり笑って答える。


「ほら、ラピス様ならこんなに簡単に解決できる」

「解決の方法が最悪だよ!」

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