レベル264
「千年ぶり? 王女様? どういう事、彼女は……?」
『気にするこたぁねえぜ。今はただの人間だろぉ』
「その剣は、一振りすれば人をアンデッドへ、二振りすればアンデッドを己の力へ」
邪王剣ネクロマンサーで生者を殺せばアンデッドモンスターになる。
そして、アンデッドをその剣で殺せば、その魂を取り込む。
取り込まれた魂は、それを持つ者の力となっていく。
『いいこと尽くめじゃねえかぁ』
そう言う邪王剣ネクロマンサーを強い眼差しで睨むエフィール。
「アンデッドを斬った後、力が強くなったと感じた事はありませんか?」
「その話は……聞いています。このままこれを使い続ければいずれ……」
精神を蝕み、肉体をも変貌させていく――そうかつての、古代王国の王のように。
「だがそれもあくまで使いすぎれば、の話。私はこれを必要以上に振るうつもりはありません」
「使いすぎれば……ですか。人一人の魂はそれほど軽くはありません、たった一つの魂が、あなたを狂わす事もあり得ますよ」
「そんな事はこの剣は一度も……」
「それの言うことを鵜呑みにしてはなりません。その剣は偽りは言わないでしょう。しかし、真実を告げもしません」
今は、大丈夫かもしれない。
しかし、年齢を重ねればどうか。
一度取り込んだ魂は、決して抜けていく事はない。
「あなたが取り込んだ魂は、永遠にあなたを苦しめ続ける。そして……」
あなたが死ねば、より強力なアンデッドとして甦る。なにせそこに魂は、残っているのだから。
「そんな……」
「それを持つ以上、あなたは常に、試されていると思ってください」
『あいかわらずの正論信者だねぇ。それを今のこいつに言うのは酷だとおもうがなぁ』
「それでも、それでも私は、この剣を振るい続けるしか、道はありませんの……」
そう言って目を伏せるベルスティア。
ベルスティアを王たる位置に留めているのは、ひとえにネクロマンサーあってのこと。
そしてベルスティアの戦力であるアンデッド達は、この剣がなければ維持できない。
エフィールの言う、この剣を振るわない、という選択肢は、すでに存在しないのだ。
「あなたがソレを……」
そう言ってネクロマンサーを睨みつけるエフィール。
『誰もが正しい事だけをして生きていける世界は無え。どうしようもない事実を態々突き付けて、悦に浸ってんじゃねえょ』
「なっ、……今ここであなたを、叩き折ってしまった方がいいのかもしれませんね」
『出来るものならやってみろよぉ。俺様のセニョリータが相手してやるぜぇ』
エフィールとベルスティアの間に緊張が走る。
「まあまあ、喧嘩はやめたまえ。結局それは、ただのツンデレじゃないかね」
「ツンデレ……?」
「うむ、大好きなベルスティア君の為に何かをしてあげたいけど、うまく伝えきれてないんだよね」
カシュアの事を、みんながみんな、何を言っているのか分からないといった顔で見やる。
「ネクラマンサー君は、自分の扱い方を教えようとしている、でも、照れて素直に言えないんだよ、きっと」
『おいおい、俺様をそんなネタ武器みたいな……あとネクラじゃなくてネクロだぜぇ』
「男の子というのは、気持ちを素直に言葉にできないものだ。そこらへんは君がくんであげればいいんじゃないかな」
そう言ってウィンクをするカシュア。
邪王剣ネクロマンサーは真実を告げない。
だが決して偽りは言わない。
あとは持ち主が、その言葉をどう受け止めるか。
「全ては私次第、という事なんですね」
「なあに、そんなに悲観的になる事はない。頼れる人達も大勢いる、何かあればボクも力を貸すよ」
クイーズ君に相談すれば意外な解決方法をくれるかもしれないしね。なんて言って笑う。
「そうですね。ラピス様ならあっという間に解決ですよ」
「いやいや、彼女だけには頼ったらダメだよ! とんでもない事を言いだしかねないから!」
いつの間にか和らいだ雰囲気にエフィールは思う。
やはりカシュアは聖女と呼ばれるに相応しいんじゃないかと。
カシュアの一言で暗かった雰囲気が明るくなる。
いつも、どこにでも光を射す事ができる。
暗闇の中でしか生きれなかったエフィールにとって、カシュアはとても眩しく映る。
「まっ、人はそういうのを道化師と呼ぶんだけどな」
「いいじゃないですか道化師。むしろ人々を笑顔にさせるそんな人達こそ、認められるべき存在だと思いますよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「そうですか、あなたが不死王ローゼマリアの長姉、エフィール様でしたか。他の兄弟達と同じくアンデッドにされていたのでしょうか?」
「え?」
「不死王ローゼマリアは、北の魔術師から嫉妬心を煽られ、兄姉を次々と殺害、アンデッドに変えていったと。その中でも長姉エフィール様はまっさきに殺されたと聞いていましたの」
「え……あの、こちらではいったい、私たちの事はどのように伝わっているのでしょうか?」
誰もが優秀な才能を持つ、古代王国の人々。
しかし、王家の末妹であるローゼマリアは、何をやらしても、まったくダメな娘であった。
そんなローゼマリアは、優秀な兄姉達に対し、日々、嫉妬に囚われていた。
ある日、北から来たという魔術師に唆され、一番上の姉、エフィールを殺害してしまう。
さらにその姉を生贄にし、自らをリッチロードへと進化させる。
その力をもって、国民をアンデッドに変え、王さえも操り人形に変えてしまう。
父王を巨大な化け物へと変貌させたばかりか、各地の国々を襲わせ、人々を恐怖のどん底へと突き落としていく。
「最初に殺害されたエフィール様はアンデッドにはされていないというお話でしたから」
「…………いったい、なぜそんな話に?」
『歴史なんざぁ、今の人間のいいように作り替えられていくんだろぉ。なんでもこの国の始祖は、そのローゼマリアの兄弟らしいぜぇ』
「私とローゼマリアは二人しかいない姉妹なのですが……」
そんなローゼマリアの所為で、一時は人々が絶滅寸前までいった。
その時、生き残った残りの兄弟達が、力を合わせて不死王ローゼマリアの前に立ちふさがる。
涙を呑んで父王を打倒し、ローゼマリアを、王城アルバトリオンへ封印することに成功するのだった。
「…………あの子のおかげで、今のこの国々があるというのに」
実際は、ローゼマリアが全アンデッドに「戦争ヤメッ!」と号令をかけていたから、今なおこの国は平穏であれた訳だ。
『敵、でなくてはならないのサ、そうじゃなけりゃ侵略できねえだろぉ。それには、悪者であってもらわなくちゃなるめぇ』
「報われませんねあの子も……」
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