レベル263 国境の街ボーダーアーク

「ふむ、ラピスが危険とな? そんなの今更であろう」

「それが今までとは質が違うのだ」


 その夜、すぐにゼラトース家の当主はダンディと連絡を取る。


 国王はダンディを引き抜いたつもりではあるが、まだまだ裏で繋がっている。

 ダンディの主はクイーズから国王の娘パセアラに移ったが、パセアラ自身にはゼラトース家に隔意はない。

 むしろ積極的に支援するように言い含んでいる。


 ダンディ自身も、パセアラとクイーズの仲を進展させる為には、ゼラトース家は重要な位置にあると認識している。


「なるほどなあ……そんな事がなあ……」


 当主からラピスとの会談を聞いたダンディは考え込む。


 ――クイーズ君が居なくなった後ねえ。


 元々読めないラピスちゃんの動きに、さらに拍車がかかりそうだわ。

 よくよく考えれば、あの子の実年齢は10歳にも満たないのよね。

 無理やり異世界から知識を吸い上げて、それで精神年齢がかさ上げされている。


 10歳といえばまだまだ親離れできない年齢。

 あの子にとってクイーズ君は親も同然でしょうし。

 とはいえ、行動は逆に、過保護の親のような感じだけど。


 そういえば、よく分からない聖母ってスキルもってたわね。


「以前、主が行方をくらませた際には、随分な暴走をしていたしのう」

「クイーズとて人の子、寿命もあれば、何かの拍子に命を失うこともある」

「まあそうなっても、ニースやカシュアのスキルもある。それに……」


 ――クイーズ君はモンスターカードに取り込まれた、寿命は……いや、そうとは限らないかしら。


 上がってきた情報によると、モンスターカードに取り込まれたモンスターが消滅したという報告もある。

 この世界の者が、通常のモンスターカードで取り込んでも異世界補正はかからないようだ。

 正確な条件は未だ不明だが、不老不死ではないのであろう。


 取り込まれたモンスターの一部では、怪我や病気にかかったままの状態もあるという。


「とはいえ、ラピスも主もこの世界の者、とは言えないがなあ」


 あの二人の間であれば、異世界補正がかかっていてもおかしくはない。

 結構な人達が挑戦しているが、人間をカードでゲットは出来ていない。

 すなわち、補正がなければ、ラピスがクイーズをゲットすることは不可能であったはずだ。


 まあこのカード、イレギュラーすぎて、何が起こっても不思議ではない所はあるけど。


「なんの話だ?」

「いやこちらの話だ。まあ案ずることはない、あのラピスが、何の手も打ってないという事はないであろう」


 まあ打ってる手が、禄でもないものの可能性は高いがな。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「まったく、ラピス君は人使いが荒いんだから」

「ちょっと、ラピス様の悪口はこのフフが許しませんよ!」

「そんな事言われてもねえ、もう連日、アンデッドの顔は見飽きたよ!」


 アポロが精霊達となじむまで、一時的に開拓は中止になった。

 その間、時間がもったいないので各地のアンデッドを浄化する事にした。

 レベル上げと、カシュアの持つ、蘇生スキルの再使用の条件を探すことを兼ねて。


 カシュアの蘇生スキル、いつまでたっても再使用ができない。

 ニースやダンディのようにレベルが上がっても変わらなかったのだ。

 たぶん特殊な条件があるのだろうと、とにかくアンデッドを狩りまくることにしてみたのだった。


「それでは街に戻ります。準備はよろしいでしょうか聖女様」

「どうしてこの人はボクの事を、聖女って言うのかな?」

「ハーが知るかよ」


 とはいえ、クイーズもラピスも他にやることはいっぱいある。

 なので今回は、時空魔法で、どこにでも移動できるエフィールと、お目付け役のフフ、近接攻撃役のハーモアの4人で行動している。


「ちょっと、また、ですか!?」

「いいじゃないかねキミィ。ラピス君からも正当な報酬として認められているよ?」


 街に戻ったカシュアは、さっそく屋台に突撃する。


「ほら、腹が減っては戦が出来ぬって言うじゃない?」

「もう戦いは終わったじゃないですか……あっ、これからもう一軒、行かれるのですね!」

「いやいやいや、もうカンベンしてよ!」


 そのカシュアと言い争いをしているのは、ラピスの一の配下と自負している魔王フフ。


 フフ自体は、モンスターカードで魔王と記載されるほど、能力は非常に高い。

 しかし、その能力は謀略や偵察に特化したもので、実際の戦闘にはあまり役に立たない。

 その所為か、攻撃力至上主義の魔物の世界では、どこでもフフの扱いは最低クラスであった。


 だが、そんなフフをラピスは重宝している。

 それまで奴隷のような扱いしか受けてなかったフフにとって、能力を認められ、最適な指示を与えてくれるラピスに心酔しかかっている。

 今では自分から進んでラピスの為に行動しているほどだ。


「まあいいではないですかフフ様。聖女様にも休息が必要でしょう」

「その聖女様ってのやめてくれない?」

「世界中の死者の魂を救う……そのようなお方を聖女様と呼ばずなんと言いましょうか!」


 古代王国の末裔のエフィール。


 南の大地では未だ、古代王国が生んだアンデッドに苦しめられている人々が大勢いる。

 そして、人々を苦しめているアンデッドは古代王国の住人だった者達。

 王族であったエフィールは、それに心を痛めていた。


 カシュアはそんな、古代王国の人々の魂を救ってくれている。


「そもそも聖『女』っていうのがおかしいんだけど。だってボク――男だし」

「その見た目でか? もういいかげん諦めようぜ」

「何を諦めるの!? いやまあもう、今更どっちもでいいけどさぁ……」


 カシュアがハーモアにそう言ったとき、突如、街のあちこちで警鐘が鳴り響く。


「なんだろね?」

「嫌な気配が近づいてきますね」


 遠くから馬に乗って騎士の集団が走って来た。

 と、その内の一頭がカシュア達の目の前で立ち止まる。

 その人物は、驚いた表情でカシュアに問いかけてくる。


「そこに居るのはカシュア様ですか!?」


 その馬に乗っていたのは、この国を束ねる、公王ベルスティアであった。


「えっ、なんでこのような所に?」

「それはこちらのセリフだけど……そういや、ここってどこの国?」

「新生ファンハート公国です。今一番、アンデッドが多いのはこの国ですから」


 カシュアの問いかけにエフィールが答える。

 エフィールの時空魔法で移動している所為で、カシュアは自分が今どこにいるのかは、さっぱり分かっていなかった。

 ベルスティアが馬から降りてカシュアの元に跪く。


「ちょっ、ちょっと何しているの!?」

「各地のアンデッドを浄化して頂いているとお聞きしています。その聖女様に折り入ってお頼みしたいことがあります」

「どうしてこの国の王様まで聖女呼び……もしかしてそれ、ラピス君からの指示?」


 サッとエフィールとベルスティアが目をそらす。


「今度は何をボクにさせる気なの! あのウサ公!」

「ラピス様をウサ公呼ばわりとはいい度胸ですね!」

「まあ落ち着けよ二人とも、話が進まねえよ」


 ベルスティアの話では、アンデッドの集団がこの街に向かってきているとの事だった。

 古代王国の墓地跡に人が侵入したことにより、そこに残っていたアンデッドが溢れだした。

 そんな集団の一部がこちらに向かってきている。


「ここはすぐ隣が墓地跡ですし……それに、わざと追い立てているという噂もあります」

「だからと言って国のトップが先頭きって戦ってるの?」

「アンデッドを確実に屠ることができるのは……この剣ぐらいですからね」


 そう言って腰の剣を見せる。

 それを見てエフィールが眉をしかめる。


「邪王剣ネクロマンサー……」

『ひさしぶりだねぇ、王女様。かれこれ千年ぶりってとこかぁ』

「ベルスティア様、悪いことは言いません。決してその剣で死者を斬ってはなりません」


『おいおい、俺様とセニョリータの仲を裂こうとするのはやめてくれねえかぁ』

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