レベル261

「おい! ガチャガチャうるせえぞ!」

「あれぇ?」


 と、演奏を始めてみたのだが、どうやら不興のご様子。

 おかしい、聖皇国じゃオレがライブを始めると、どこからともなく人々が集ってきて一大ウェーブが起こるのに。

 アレかな? サウの幻影で見た目が変わってる所為かな?


『こっちじゃ見た目は関係ないと思うッス』

「ケケッ、ソウルが足りてないんジャネ」


 そうか! 今のオレにはエクサリーのハウリングボイスも、ラピスのシンセサイザーもない。

 すなわちスピーカーにとって代わるものがない。

 声が、音が、届いていないのか!


 よし! もっと大きく、高く、響かせなくては!


「だからうるせえ、つってんだろ!」

「いでっ!」


 なんかスパナのようなものが飛んできた。


 クッ、駄目なのか……オレの実力はこの程度なのか……


「何やってるのクイーズ?」

「なんかロックミュージックが聞こえたと思ったらやっぱりお主じゃったかっ」


 ガックリとうな垂れるオレの前に、なぜかエクサリーとローゼマリアが登場。


「あれ? なんでここにエクサリーが?」

「え~と、お義父様に呼ばれて……」

「うちの親父さんが?」


 なんでも昨晩あった祝賀会とやらに、ゼラトース家の代理として出席されたとか。


 つーか何やってんだよあのクソ親父!

 オレに一言もなく、エクサリーをダシに使うとか。

 エクサリーも断ってもいいんだぞ。


「駄目だよクイーズ、私達はもう家族なんだから仲良くしなくちゃ」

「しかし」

「私なら大丈夫だから。ほら、ホウオウちゃんとマリアちゃんも居るし」


 えっ、その二人連れて行ったの? ホントに大丈夫だった?


「うん、最初はどうしようって思ってたけど、みんな良い人ばかりで、友達も出来て、今は行って良かったと思う」


 オレは思わずローゼマリアの方を向く。


「うむ、わらわのおかげじゃなっ!」

「ホントかよ?」

「そうね、マリアちゃんのおかげだね」


 ほうほう……ローゼマリアの提案で即席のコンサートを開いた?

 そしたらみなさん拍手喝采、すっかりエクサリーのファンになったとか。

 さすがはエクサリーさん、オレなんて、拍手どころかスパナが飛んできたゼ。


「え~と、みんな忙しそうだし、その、選曲が悪いんじゃないかな?」


 選曲?


「うん、こんなときは意識しなくても聞ける、ヒーリングミュージックなんかがいいと思う」


 ほうほう……それならいいのがありまっせ!

 ヒーリングミュージックといえば、ピアノやバイオリンなどがすぐに思い浮かぶだろうが、実はギターだって負けちゃいない。

 癒しギターと呼ばれる数々の名曲だって存在する。


 とはいえ、それだけだと芸がないよな?


 最初は優しいヒーリング系を。

 間に数々の名曲の伴奏を。

 声はなくていい、音楽だけというのもいいかもしれない。


「うむっ、わらわもやってみたくなってきたぞっ」

「じゃあ私はハウリングボイスのスキルだけ使うね」


 ローゼマリアもシンセサイザーを取り出す。

 この街では、心を震わす熱い音楽は、まだ必要ない。

 優しい気持ちにしてくれる、穏やかな音楽が求められている。


 騒がしかった街が心なしか静かになった気がする。

 スパナを投げてきたおやっさんが、背中を向けたまま音楽に合わせて揺れているような気がする。

 人々が求めている場所に、人々が求めているものを届ける。


 その見極めは、まだまだオレはエクサリーに届かない。


 そしてその才能は、商売人にとっては、なくてはならないもの。

 オレがいなくても、エクサリーは店を大きくできたのかもしれない。

 あのおやっさんから生まれたとはとても思えないな。


 これも、とんびが鷹を産んだといえるのだろうか?


「違うよクイーズ。才能というものは最初からあるものだけじゃない、子供と一緒で、生み育むことで成長するんだよ」


 私にそんな才能があるというのなら、それはきっと、クイーズがいてくれたからこそ。

 いてくれたからこそ、そんな才能を生み育てられたんだ。

 だからこれは、二人で生んだ才能かもしれないね。


 そう言って、はにかんだ笑顔を見せるエクサリーは、とてもまぶしく、綺麗に思えた。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「さすが、クイーズさんッスね。街の雰囲気がガラリと変わったッス」

「そうだね」


 人型に戻ったティニーがサヤラの隣に並ぶ。


「そういえば、サヤラはいつになったら、クイーズさんのカードに入るんっスか?」

「どうかな~、どうせなら、ほら、エクサリーさんみたいに、子供でも生んで……」

「誰の?」


 そりゃ、決まってるでしょ。とクイーズの方を熱く見つめるサヤラ。

 イヤイヤ、むりっしょ。と呆れたようなような表情で呟くティニー。


「ダンディさんがね、魔法を駆使すればなんとでもなるとか。ほら、転移魔法とか回復魔法とか」

「えっ、何を転移させたり回復させたりする気ッスか!?」


 あの骸骨……と、ティニーは戦慄の表情を見せる。


「そういや、おかしいと思ったッス! サヤラが店の事をほっぽりだして、ダンディに協力するなんてありえない! きっと、ダンディと何か取引したッスね!?」

「いやいや、そんな事はないよ? たぶん、ないよ? ソレらしいことは言われた気がするけど、たぶん、関係ない?」

「全部、疑問形の否定になってるッスよ」


 ティニーは呆れた表情で、まあ、サヤラがいいんならそれでいいんスけど……いや良くないか。と呟く。


「ま、まあそれにね、なんていうか、少し自信もなくなっててね」


 自分は本当に、他の全てを捨ててもいいと思えるぐらい、クイーズの事を好きなんだろうか?

 今のこの気持ちは、唯の憧れでしかないのでは?

 ピクサスレーンの姫様のように、カードが反応しなかったらどうしよう。


 それに何より、愛されないと分かっている人を愛することができるのか?


「いや別に、愛とかそんなんは、うちもないッスよ?」

「またまたあ、そんな事言っときながら、ちゃっかり収まってるじゃない」

「いやいや、ほんとッスよ? ほんとッスからね!?」

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