レベル242 第十五章完結
「って、ベル姉が言ってきたんだけど」
念の為にと残っていたアスカさんがオレ達の下へ戻ってくる。
で、ハイコレって何かを差し出される。
ん? 小切手?
えっ、これでネクロマンサーを売ってくれないかだって!?
ちょっ、桁が兆まであるじゃん!
貰えないよ、さすがにこんな大金!
「いいじゃないですか貰っとけば。どうせ向こうは剣を返す気はないでしょうし」
「まあそれはいいんだが……ベルスティアさん、ほんと大丈夫? 剣に操られたりしてなかった?」
「ん~、それは私とパパも心配して色々突っ込んだんだけど、本人以外には思えなかったわ」
甘いな。
操られているってのは物理的に、とは限らない。
世の中にゃ腹の黒い奴はごまんといやがる。
そんな奴のすぐ傍にいる奴は、本人が気づかないうちに操られているもんなんだよ。オレのようにな。
「いやですね、私はお坊ちゃまを操り人形なんかにしませんよ?」
「誰もお前のことだとは言ってないんだがなぁ」
「こっ、心当たりなんてありませんからね?」
それ、ほとんど白状しているようなもんだろ?
えっ、お坊ちゃまだって人の事言えない?
何言ってるんですか! 私はホワイトですよ! きらっきらなホワイトなんですから!
「それはどうかなあ……」
「ごめん、ちょっと肯定できない」
「……大丈夫、ソレでも私は好きだから」
ちょっとみなさん!
「ん~、仮にそうだったとしても、なんかベル姉、吹っ切れたような顔をしてたから、いいんじゃないかな」
「結局、王様になっちゃったんでしょ?」
「と言っても、一時的、らしいよ」
なんでも旧古代王国墓地跡を独立した国にするらしい。
そこへファンハートの国を移し、今のファンハートは新生ファンハート公国に名を変えるようだ。
そして墓地跡へファンハート帝国を移した後は、帝位を兄に戻し、自分は一貴族へと戻り、新生ファンハート公国を治めて行くそうだ。
新生ファンハート公国では王をおかず、血筋にこだわらない平等な政治を目指すと言う。
逆に墓地跡へと移動したファンハート帝国は古代王国の末裔のみを放り込み、純潔の血統主義を貫いてもらう。
そうすれば、どちらも平等な世界ができる。
都合のいい時だけ利用する、そんなやり方は認めない。
「うまくいくのかなあ」
「邪王剣ネクロマンサーがあれば問題はないでしょう」
無限に兵士を作り出すことができるのだから。
「他の国は文句を言わないのか?」
「どうですかね? 逆に賛成されるかもしれませんよ。いっその事、各国の純潔主義者を集めちゃえば問題ありません」
「暴論だな。まあ、どうするかは今後のベルスティアさんの手腕にかかっている訳か」
その時は、そんな事が出来るのか半信半疑だったのだが……
ベルスティアさんは南の国々を次々と丸め込んで行く。
邪王剣ネクロマンサーを、蘇生剣リザレクショナーと名を変え、死者を蘇らせる聖剣だと吹聴する。
するとベルスティアさんの下へ各国のお偉いさん方が集ってくるわけだ。
死者を蘇らせる。というのは本当のことだ。しかも、その後、永遠の命を手に入れられる。
ただ、蘇った後、それはもう人ではないだけだ。
人ではないが、魂がまだ肉体に残っていれば、自我もあり生前の記憶もある。
人であるこだわりさえなければ、不老不死の肉体を持つ存在に変わるだけだ。
そう、古代王国の人々の様に。
もっとも、食べ物の嗜好は変わるだろうがな。
ベルスティアさんの言う事ならなんでも聞く、という奴も現れるし、なんでもするから親しい人を蘇らせて欲しい、なんて人も出てくる。
そして、蘇らせた死者を使ってベルスティアさんは各地を支配下においていく。
「少々侮っていましたね……まさかここまでとは。先に手をうっていて正解でした」
なにやらブツブツ呟きながらラピスが部屋に入ってくる。
「お坊ちゃま、少々お話があるのですが……」
「後にしろ、今それどころじゃないんだよ!」
オレの目の前には苦しげにうめいているエクサリーさんがいる。
そう、いよいよオレの子が生まれるんだ!
古代王国の復活? そんな事、知ったこっちゃねえ! という訳にもいかないんだろうなあ……
「いえ、その辺りは大丈夫ですよ。彼女もそれを恐れて必要最低限しかネクロマンサーを使っていませんから」
「じゃあなんだよ?」
「ん~、今はやめときましょうか。お産にも悪いでしょうし」
「………………」
なんだよ、その歯切れの悪い言い方。
コイツがそんな風に言う時は碌な事がない。
嫌な予感がしてきた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
なんと! 生まれてきた子は男の子と女の子の双子でした!
いやなんか、やけにお腹が大きいなあとは思っていたんですよ!
母子共に健康! うん、こないだ大金も手に入ったし、冒険者は卒業して、ずっと家族一緒に過ごすことにしよう!
オレの明日からの職業は主夫である。
などと決意を固めてトイレに向かっている時だった。
「ええ、お坊ちゃまにとっては残念な事になりますが、仕方のないことですね」
なにやらラピスの部屋から不穏なセリフが聞こえる。
オレはそっとラピスの部屋の扉を開ける。
誰もいない虚空を見つめて話をしているラピス。
どっかおかしくなったのかな?
「ああ、もしかして口に出てましたか? いえ、ちょっとニースと念話をしてたのですよ」
そんなオレに気づいてそう言ってくる。
ふむ、カードのモンスター同士なら離れていても会話ができるという奴か?
「何を話していたんだ」
「どうやら確定してしまったようです」
「だから何がだよ?」
「人間達は、お坊ちゃまの事を、人の世界から追放する事を決定されました」
へっ?
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