レベル241 不死城エグゼキューション

「ヒィッ、ヒィイイイ……」


 すぐ顔の隣に刺さった剣に驚いて、玉座から転がり落ちるファンハート帝王、カーティズ。


 妹であるベルスティアから、本物の邪王剣ネクロマンサーを手に入れたと報告がきた。

 あのアルバトリオン城のどこを探してもないはずだ。

 あの城を落とした男が全てを持っていたのだからな。


 自分の手元に置いておくにはとても危険なのですぐにでも渡したい。


 しかし、手に入れたのは自分であり、その事をしらしめたい。

 よって、ただ渡すのではなくて、剣の譲り受けの儀のような場面を作り出して欲しい。

 そのように打診があった。


 剣の譲り受けの儀とは、代々の王が次なる王へと切り替わるとき、戴冠と同時、邪王剣ネクロマンサーを引き継ぐ儀式である。


 さっそく重鎮達を呼びつけ、剣の譲り受けの儀を真似た状況を作りだしたのだが。

 謁見の間に入ってきたベルスティア、玉座の前まで行くと剣を抜き放つ。

 そしてその剣が伸びてきたかと思うと玉座に突き刺さった!


「なっ、何をするベルスティア!」

「申し訳ありません……どうやらこの剣、持ち主を操るようなのです。さあ、お兄様、その剣をお受け取りになってください」


 ベルスティアの手が剣の柄から離れる。

 すると、剣は玉座に向かって縮んで行く。


「あ、操るだって!?」

「ええ、剣に相応しくないものは、その剣によって操られてしまうようなのですよ」


 王であるお兄様なら、なにも問題ありませんわ。と、微笑する。


「古代王国の末裔であり、最も高貴な血筋を引く我等が王家。その王家の中で、一番優秀なお兄様、さあ、剣を抜いてくださいませんか?」


 謁見の間が、とたんざわめき始める。

 目の前で大きさを変えた邪王剣。

 玉座に刺さっている黒き刀身からは禍々しいオーラが立ち昇っている。


 レプリカではない本物の邪王剣ネクロマンサー。


 あんな物を手にして、正気でいられるものなのか?


「静まりなさい! 今は剣の譲り受けの儀ですよ、それも本物の!」


 ベルスティアがゆっくりと兄王のカーティズに近づく。


「さあお兄様、あなたが本物の王であるならば、その剣をもって誓ってください」

「べ、ベル、お前まさか……」

「できないのですか? あなたが言っていた血筋とは、その程度のものなのですか?」


 バカにするな! と、怒鳴って剣の柄を握るカーティズ。

 その途端、刀身から漏れていた禍々しいオーラが収まる。

 カーティズは玉座から剣を抜き高々と掲げる。


「見よ! 我は邪王剣ネクロマンサーに認められし者! 我こそがこの国、ファンハートの帝王であるぞ!」


 その瞬間だった!

 突如玉座を真っ二つに切り裂くカーティズ。

 そして、狂ったように剣を振り回す。


「王よ! 何をしているのですか!?」


 集った重鎮達が驚く中、目の前の、壊れるもの全てを破壊していく。


「どうやら、お兄様は王に相応しき者ではなかったようですね」


 ベルスティアが呟いたとき、謁見の間に鎧を着た兵士が三名ほど入ってくる。

 その兵士達は暴れている王を取り押さえ、無理やり剣を引き剥がす。


「わ、私は何を……」


 意識を取り戻したカーティズが呆然とした表情で呟く。


「さあ、次は誰が挑戦されますか? この剣を制したものこそが本物の王であります。我こそはと思うものは前にでなさい」

「なっ、何を言うベル! 王は私だ、私こそが王である! そうだ、コレはまったくのまがい物だ! 皆の者、ベルスティアは、まがい物を持ってきて我を貶めようとした反逆者であるぞ!」


 その言葉と当時、兵士達が謁見の間になだれ込んでくる。


「殺せ! 反逆者は生かしておくな!」

「お兄様……」


 悲しそうな表情を見せるベルスティア。


 兵士達が一斉にベルスティアに襲いかかる。

 しかし、先に来ていた三名の兵がそれらに立ち塞がる。

 10倍以上の数を相手にしても一歩も引かず、むしろ余力さえ残しているように感じられる。


 その三名の兵士は次々と襲ってくる兵を叩き伏せて行く。


 全ての兵を無力化した後、順番に鎧兜を脱いで顔をさらす。


「邪王剣ネクロマンサー、それは死者を蘇らせる。右から100年前の剣聖オリク、その弟子ミギラス、そして、先の大戦の英雄ガリレイ」

「がっ、ガリレイ!?」

「ええ、貴方の手で殺された、そのガリレイですわ」


 王家の者や過去の偉人達は、死した後、古代王国のしきたりを真似て腐敗を防ぐ魔道具と共に土葬される。

 即ち、魂は肉体に縛り付けられて彷徨っている。

 それをベルスティアは邪王剣ネクロマンサーの力を使って起こして回ったのだった。


「し、死者を蘇らせたというのか……」

「な、何を言う、私が誰を手に掛けたというのだ!?」

「死者は嘘をつきません……あなたは……」


 兄王は生粋の血統主義者だ。

 古代王国の血を引かない二等国民を激しく嫌悪している。

 その中でも、同期のガリレイへの憎しみは群を抜いていた。


 自分が敗北した戦を、いとも簡単に巻き返すガリレイ。


 戦いに置いて天才的な戦略を駆使し、英雄と呼ばれ始めるガリレイ。

 次期国王である自分を誰も見ない、誰もが英雄を称える。古代王国の末裔でもない、ただの平民のガリレイを。

 それに耐えられなかったカーティズは……


 ガリレイが一歩前に出る。


 それを見て腰を抜かしてバタバタと惨めに足掻く。

 さらにガリレイが歩を進めようとした所を一本の剣が遮る。

 その剣を持っていたのは、地面に落ちていた邪王剣を拾ったベルスティアであった。


「べっ、ベル……助けてくれ!」


 すがるような目でベルスティアを見るカーティズ。

 べスルティはそんなカーティズに目もくれずガリレイへ命令する。


「おやめなさい、私はあなたを復讐の為に呼び起こした訳じゃありません」


 そう言うとベルスティアは剣を高く掲げる。


「剣の譲り受けの儀を開始します。ベルスティア・フォン・ファンハートは今ここに、ファンハート帝国の帝王となる事を宣言いたします!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る