第十六章
レベル243
「それでは、満場一致でクイーズ卿を追放する事に決定ですね」
「あなたの目は腐っているの? 私がここに立っているのが目に映らないのかしら」
この世界にはスキルというものが存在する。
そのスキルが及ぼす影響は、小さな物から大きな物まで、様々なものが存在する。
中には、世界すら変えてしまうほどの影響を及ぼすものもある。
そんな強大なスキルを持つ者によって、世界は幾度となく荒れてきた。
天啓スキルの持ち主によって多くの国が滅んだ。
聖剣の担い手のスキルによって、世界の勢力図が塗りかえられたりもした。
そのうち、人類を滅ぼすスキルが出てくるやもしれない。
そんな恐怖に怯えた人々は一つの手を考えた。
それは人類、全ての存在が一致団結して、そんな恐ろしいスキルに立ち向かう事だ。
世界を揺るがすスキルの持ち主が現れたとき、すべての国の代表者が集り、一致団結して対抗する。
五つ以上の国が提案し、世界の半数をこえる国が賛同した場合、発動する一つの呪いを世界にかけた。
その呪いによって各国の代表者が強制的に集められて開かれる会議――――救世会。
それが今、開かれた。
発案国は、ファンハート帝国と聖皇国という南北の最大国家。
それに付随したアンダーハイト王国、パイレーツ諸島連邦、ピクサスレーンの合計五つの国が提案し、世界の半数を超える国が賛同した。
それほどまでに誰もが思ったのだ、クイーズ・ファ・ゼラトースが持つスキル『モンスターカード』が世界を揺るがすぐらい危険なものだと。
「クイーズ卿を人の世界から追放する事を提案いたしますわ。賛成の方は席について、反対の方はそのままお立ちください」
ファンハートの代表であるベルスティアが集った代表者達にそう語りかける。
一人、また一人と席に着いていく各国の代表者たち。
唯一人、ヘルクヘンセンの女王、パセアラのみを残し、全ての代表者が席に着いたのだった。
「パセアラ女王よ、席に着くのだ」
「ハッ、皮肉なものよね。数百年前、あなたの先祖は、ここで弾劾されて世界から追放されたというのに、子孫である貴方が同じ事をするなんてね」
「女王よそなたも国の代表者であろう、ならば第一に考えなければならないものは何か?」
ここに集った全ての国がそなたの敵に回るのだぞ。と、脅すように言うピクサスレーンの国王。
「上等よ! 私はもう二度と同じ過ちは犯さない! 世界の全てが敵に回ったとしても、私だけは彼の味方でいるわ!」
すこし眩しげな表情を見せたピクサスレーンの国王は、やがて肩をすくめて首を左右に振る。
「和平規定の締結で、ピクサスレーンの国王は、ヘルクヘンセンの王を決める事が出来る事をお忘れか?」
「………………」
キッとピクサスレーンの国王を睨み付けるパセアラ。
「本日このときをもってパセアラ女王を解任し、代わりにヘルクヘンセン前国王をここに召喚する」
その言葉と共にパセアラの背後に人影が現れる。
「お父様……」
「謹んでお請けいたそう」
そう言うと、その人物は席に着く。
パセアラは悔しそうな顔で俯いて地面を見つめる。
「それでは改めて決定事項を言い渡します。クイーズ・ファ・ゼラトースは全ての国に置いて入国を禁止、現在国から十日以内に退去させる事を決定いたします」
そのセリフを聞いて、地面を濡らす雫を霞んだ視界で見つめるパセアラであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「と、いつになく素直なパセアラが頑張ったんだけど駄目だったのよぉ」
そうか……パセアラがそんな事を……
あとダンディ、その顔で女言葉はやめろって言っただろ。
えっ、今はそんな事どうでもいいだろって?
そりゃそうだけどさ。
「しかし、オレってそんなに嫌われていたのかな?」
むしろ友好的だったような気がするんだが。
聖皇国の皇帝とか、訪ねて行くといつもニコニコしていたのに。
あの笑顔の裏では、また来やがったなこのクソガキ、とでも思われていたのだろうか?
もしそうだったら、人間不信におちいっちゃうよ。
「それぞれの国の事情もあるでしょうしね」
特に聖皇国では竜王ニースが神獣として敬われている。
そのニースの根っこをオレが押さえている訳だ。
やろうと思えばニースを使って国を牛耳る事だって可能だろう。
今はそんなそぶりが無くとも、コレから先どうなるかなんて誰も分からない。
人は、良くなる事もあれば悪くなる事もある。
そんな危険を、ずっとしょっていく訳にもいかない。
「アンダーハイトは王族の奴隷化の解除が打診されたようですよ」
あそこも結構オレに良くしてくれていた。
最初は散々な形だったのだが、いつの間にか完全にオレの味方になってくれて、こっそり護衛まで付けてくれていた。
そのおかげでティニーの命も救われた理由だ。
「パイレーツ諸島連邦はウィルマの所有権ですかねえ」
ウィルマは空母となった。
空まで飛べる。
海神ウィルマはパイレーツ諸島の守り神。
空を飛んでどっかに行って欲しくはない。
「ピクサスレーンはあれかな? やっぱエルメラダス姫様との子供の件かな?」
「さあどうでしょうかね。元々、ピクサスレーンの王は、お坊ちゃまを利用することしか考えてませんでしたしね」
「ベル姉も急にどうしちゃったんだろね。決して悪い印象は受けて無かったはずだけど」
それはアレだろ。
ネクロマンサーが何かを吹き込んだんだろ。
今回の一件、かなりのやり口だ。
王になったばかりの人間が一人で考え付くようなものでもあるまい。
きっと隣に、禄でもない参謀がついているに決まっている。
そう、たとえば……
「お坊ちゃま、私の顔になにかついていますか?」
「いや、別に……」
「そんな事より、これからの事を考えないと。どこに行けばいいの? この子達を連れて行ける場所なんて……」
エクサリーが双子の赤子を抱えて問いかけてくる。
「…………エクサリー、追放を受けたのはオレだけだ。オレだけなんだよ、だから、出て行くのはオレだけなんだ」
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