レベル237

 聖剣ホーリークラウンと邪王剣ネクロマンサーが交差する。

 アポロの補助魔法を受け、青いオーラを纏うカシュア、対して、黒きオーラを纏うベルスティア。

 それはまるで古い洋画のようで、聖と邪が戦っているようにも見える。


 二つの剣が交差するたびに、光の雫が花火の様に舞い散る。


 その都度、ベルスティアの黒いオーラは薄くなっていく。

 徐々にネクロマンサーを圧して行くホーリークラウン。

 あいつも強くなったなあ……オークにひん剥かれていた頃が懐かしい。


「ちっ、あいかわらずウザい剣だ」

「ウザい奴がウザい剣を持った」

「キミ! 悪口は止めてくれないかな!」


 しかしあちらさんも一筋縄ではいかない。

 邪王剣を狙うカシュアの聖剣に向かって素手を突き出す。

 慌てて剣を引くカシュア。


「ちょっと、卑怯じゃない!」

「卑怯? そりゃ俺様にとっちゃホメ言葉だなぁ……」

「アイツ、ベルスティア本人を盾に使う気か!?」


 その所為で、うかつに剣を振れなくなるカシュア。

 ベルスティアはここぞとばかりに攻勢に出る。


「オラオラ、どうしたよ! 亀の様に縮こまってちゃあ勝てねえぜぇ? さっきまでの威勢はどこいったんだよぉ」


 カシュアの盾に向かってひたすら剣を叩き付けるベルスティア。

 防戦一方になり、じっと攻撃を耐える。

 なんとか手から剣を離せればいいのだが……ゴールドホルダーとリミットブレイクで一気にカタをつけるか?


 そう思っている時だった、突如、何かに弾かれたかのように邪王剣ネクロマンサーが跳ね上がる!


 次の瞬間、剣の中心で爆発が発生した!

 どうやら、ティニーが銃で剣を跳ね上げ、アポロが魔法で追い打ちをかけた模様。

 邪王剣はベルスティアさんの手を離れ、クルクルと空を舞って地面に突き刺さる。


「わ、私はいったい、何を……」


 それと同時、ベルスティアさんが意識を取り戻した。


「え、何? 体が勝手に動く!?」


 意識が戻った事でホッとしたのが油断だった。

 ベルスティアが地面に刺さってる邪王剣に駆け寄ろうとする。

 意識が戻っても体は未だあの剣に操られているのか!?


『クッ、リミットブレイク!』


 すぐにパワードスーツのリミットブレイクを発動して剣に駆け寄ろうとする。

 しかし、すんでの差でベルスティアが地面から剣を抜く。

 そしてバックステップで大きく間合いを取る。


『ケッ、危ない、危ない……』

「えっ、何!? 声が頭の中に響いてくる! これはいったいどういう事!?」


 意識だけ戻ったベルスティアさんはパニックに陥っている。


『チッ、意識が戻ったか。まあ仕方ねえ、問題はあっちの見た事の無い武器だな。アレはやっかいそうだ』


 邪王剣に操られたベルスティアが銃を構えているティニーに向く。

 そうはさせないよ。と、すかさず盾を構えたカシュアが入り込む。

 そんなカシュアに向かって加速をつけて走り出す。


 体当たりする気か!?


 当たったと思った瞬間、まるで実体の無い幽霊の様にカシュアをすり抜ける!

 あっ、という声を上げたカシュアを尻目に、ティニーへ剣を振りかぶる。


「させるかよ!」


 リミットブレイクの勢いを残したまま、ティニーを突き飛ばす。

 オレにはまだパワードスーツが残されている。ボーナスポイントは防御にガン振りだ!

 なんとか耐えてくれパワードスーツ!


 と思ったのだが、急にベルスティアが持っていた剣が伸びる。

 そしてその剣はオレではなく、ティニーへ向かう!


「ティニー!」


 深く斬り付けられるティニー。

 サヤラが慌ててティニーの傷を塞ごうとする。

 クソッ、もう出し惜しみしている場合じゃない!


「カシュア!」

「分かっている!」


『来たれ、ホーリークラウン!』アーンド『ゴールドホルダー・セット!』


 カシュアを剣の姿にかえたオレは邪王剣を斬り裂こうと近寄る。

 しかしまたしてもすり抜ける!

 アポロの魔法が邪王剣に炸裂する。


 だが、爆発した時にはその場所にはいない。


 もしかして時空魔法か!


『オウオウ、とんだ隠し玉じゃねえか。コイツはちょっとばかり旗色が悪いな……今回は十分遊べたし、ここらで引き上げるとするかぁ』


 手に突き刺さった風車を抜きながら、そう言う邪王剣ネクロマンサー。


「逃がすか!」


 神速のスピードで近寄ったオレを空高くバックジャンプして交わす。

 そして、そのまま背後に現れた黒い渦に吸い込まれ行く。

 そうはさせまいとオレも飛び上がるが、またしてもギリギリ間に合わない。


 くそっ、逃げられたか。


 いや、今はそれどころじゃない。


「カシュア、ティニーを頼む!」

「任せてくれたまえ!」


 ティニーの傷はなんとか致命傷を避けたはずだ。

 剣が当たる瞬間、どこからか風車が飛んできてベルスティアさんの手に突き刺さる。

 そのおかげで、一瞬剣が鈍り、その隙にサヤラがティニーを引き寄せ深手を負わずにすんだのだ。


 アンダーハイトの元アサシンさんには感謝しなくちゃな。


 あれぐらいの傷ならカシュアの回復魔法ですぐに治るはずだ。

 だが!


「ぐぁああああ!」


 カシュアが回復魔法を掛けようとしたところ、激しく抵抗するティニー。


「まずい! 傷口がゾンビ化している。これじゃあ回復魔法は逆効果!」


 アポロが慌てたようにカシュアの回復魔法を止める。


「ティニー、意識をしっかりもって! 今のティニーはゾンビ化の状態異常。意識さえしっかりもっていれば、いずれ収まる」


 ティニーの傷口から、徐々に体が青紫に染まっていく。

 アポロの話では、これはゾンビ化の状態異常だとの事。

 このまま命を失えばゾンビになってしまう。


 しかし、一定時間、意識を保っていれば、いずれゾンビウィルスは死滅する。


 ゾンビウィルスは死んだ体にしか存在できないからだ。

 そのウィルスが死滅するまで生きてさえいれれば元に戻る。

 問題は……回復魔法が掛けられない事だ。


 致命傷を避けたとはいえ、決して傷は浅くない。


 このままでは出血多量で命を失う可能性もありうる。


「カシュア、浄化とかできないのか?」

「分からないよ! 下手すれば傷口がもっと開くかもしれない!」


 実際、回復魔法を掛けると、傷口が広がったという。


 このまま、待つしかないのか?

 万が一ゾンビになったらどうする?

 オレが持つ、モンスターカードでゲットでもするのか?


 そんな事が……


 アポロとサヤラが必死になってティニーの手を握り呼びかけている。


「ティニー、しっかりして、私が分かる?」

「頑張ってティニー、傷は深くない、きっと助かる!」


 しかし二人の呼びかけも空しく、体の大部分が紫色に染まっていく。


「これもう駄目っスかね?」


 自分の体を薄目で見つめるティニーが弱々しい声で呟く。


「弱音を吐くな」

「クイーズさん、うち、ゾンビになってゲットされるのは嫌っス」


 できれは人間で居る、今のままでゲットして欲しいと、そう言ってくる。


「だがおまえ……」

「今ならたぶん、いけそうな気がするっすよ」


 だって、と続ける。


「体当たりしてうちのかわりに剣を受けようとしたクイーズさん。そんな、あんたにうちは惚れたっす」


 おめえ……そんなチョロイ奴じゃねえだろ?

 そう思いながら少しばかり笑いが漏れる。

 ティニーも苦しそうな顔で口の端を持ち上げて笑い顔を作る。


「だから、たぶんいける」

「たぶん、じゃだめだろ」


 そう言ってオレは立ち上がる。


「必ずだ! 必ずお前をゲットして見せる!」


『モンスターカード!』

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