レベル236

 黒い竜巻が晴れたあと、ゆっくりと立ち上がるベルスティア。

 体全体を確かめるような仕草をしたかと思うと、少し低くなった声で呟く。


「ようやくあの小娘から解放されたかと思ったらまた女かよ? まあいい、こっちは自由に体が動かせるようだ」


 そう言ってお姫様らしからぬ顔でニィッと嗤う。


「ベル姉……」

「ベルスティア……」


 あまりにもな豹変にアスカさん達は驚愕の表情を見せる。


「ほらね、やっぱり大事になったじゃないか」

「お前の所為だろが!」


 あんな呪われた剣を渡してくるローゼマリアもローゼマリアだが、渡されたとこからずっと見ていたお前はなぜ早くに言わない。

 わざとなのか?

 あれ、オレが抜いていたらどうなってたんだよ。


 敵は内にこそあり、っていうのを体感している気がするよ、ほんとに。


「まったく何が、働かざること風の如し、動かざること山の如し、壁ドンすること火の如し、静かなること林の如しだ。全部動いておらんだろがっ」


 変わった風林火山ですね。ニート用かな?

 おかげで退屈でたまらんかったわ。などと吐き捨てるように言う。

 どうやらあの剣はカシュアの親戚みたいな感じで、自我を持っていたようだ。


 しかしながら腐ってもリッチロード。

 ローゼマリアに押さえ込められていて自由に動くことはできなかったご様子。

 それが今はベルスティアさんの体を手に入れたわけだ。


 千年ぶりのシャバの空気はそりゃもう旨いだろうよ。


「さてと、それじゃあ久方ぶりに暴れさせてもらうとするかな」


 肩を鳴らしながら剣をコッチへ向ける。


「アポロ君、二人で行くよ。他の人達は下がっていて!」

「……分かった」


 ほう、今回は随分積極的だな。

 少しは反省しているのだろうか?


「なにせあの剣でやられるとゾンビになっちゃうからね!」

「言えよ! そういうことは、もっと早く!」


 おまえら、なんて危険なものを持たせるのぉ!

 いや、オレがローゼマリアに頼ったのが間違いだったのかもしれないが。

 なんでオレはあいつに頼ったのだろう?


 ホウオウ戦の時にイヤというほど思い知ったはずなのに。


 なんでも邪王剣ネクロマンサー、持つ者によって重さや大きさを変える。

 なので、あの巨大な王座に座っていたローゼマリアのお父さんにはピッタリな武器だったそうな。

 そして追加能力で、倒した相手をゾンビにして使役する事が出来るらしい。


 古代王国の兵の大部分はあの剣によって作られたとも言う。


 しかし、危ないって言ってるのにパパさんや姫様の護衛らしき人まで出てきて戦っている。

 カシュアの奴もその人達を守るので必死だ。

 思った以上に全力を出し切れていない。


「パパさん、下がってください。そいつはカシュアとアポロに任せて! アスカさんスラミィを」

「分かったわ!」『出でよ! メタルスライム・スラミィ!』

「女子供、さらにスライムなどを戦わせる訳にはいかん!」


 パパはああなると頑固だから。と呟くアスカさん。

 このままではまずいな、誰かがゾンビになっちまう。

 三人とも腕はたつようだが、正直相手になっていない。


 少しばかり相手が悪過ぎる。

 それに、戦いながらベルスティアさん本人を傷つけないように気を配るのは至難の技だ。

 スラミィ、とりあえずパパさん達をなんとかできないか?


 オレそう言うと、スラミィは体の一部を鞭のようにしならせて、パパさんと護衛の二人をグルグル巻きにして引き戻す。


「なんだもう終わりかよ? つまらねえな。ま、そいつらじゃ遊びにもなんねえがな」


 随分余裕そうですね。

 それが続けばいいですが。

 おいカシュア、お前の出番だぞ。


「いよいよボクの見せ場がやってきたね!」


 うれしそうだなカシュア。

 もしかしてこの時の為に黙っていた訳じゃあるめえな?

 えっ、さすがにそこまで性格悪くない? ほんとかよ?


「ダメだ! 奴は強過ぎる! 君達ではやられにいくようなものだ!」


 姫様の護衛の一人がそう叫ぶ。

 まあ、見ててくださいって。

 カシュアが聖剣ホーリークラウンを抜き放つ。


 それを見て、ふと鋭い目付きをするベルスティアさん。


「その輝きは……まさか、聖剣か……?」

「降参するなら今のうちだよ?」

「クックック、こんなにも早く、復讐のチャンスがやってこようとはなぁ」


 それまでと雰囲気を一遍させる。

 ブワッと黒い竜巻がベルスティア周辺に巻き起こる。


「させないよ!」『ホーリーノヴァ!』


 それをカシュアの聖剣から放たれた風が消し飛ばす。

 おいカシュア、くれぐれもベルスティア本人を傷つけるなよ。


「分かっているよ!」


 それを合図に、目にも留まらない速さでベルスティアが斬りかかってくる。

 アポロがなにやら呪文を唱えると、カシュアの全身から青いオーラが立ち昇る。

 補助魔法を掛けている模様。


 確かに、邪王剣ネクロマンサーの攻撃は激しい。


 しかし、うちのカシュアのレベルは今や45。

 いくら強敵ネクロマンサーが操っているとはいえ、ベルスティアさんは生身の人間。

 そうそう引けはとりはしない。


「あれだけの攻撃をたった一人で受け止めている……」

「アスカ、彼女は一体何者なのだ? アレほどの使い手を俺は見た事が無い」

「ああ、なんていうか、カシュアちゃんは人間やめてるから」


「ちょっと! 言い方がひどくない?」

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